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裏金疑惑で安倍派は解体? 「政治とカネ」は各国共通の悩みの種

ニューズウィーク日本版 2023年12月15日 16時45分

<アメリカのように政治資金が膨れ上がらないよう、ルールを定めて守らせることが肝心>

自民党派閥のパーティー収入を裏金化した件が大変な問題になっている。その金額は少なくとも1億円......ということを、筆者のロシアの友人に言えば、向こうは笑って言うだろう。「日本はそんな貧しい国なのか。スケールが小さい。ロシアでは......」と。

政治にカネは付き物。活動費、工作費は必要だ。日本でも1970年代は、えびすのような顔をした、その名も金丸信・国会対策委員長が、背広の膨れた内ポケットをぽんとたたき、「じゃ、野党と話をつけて来るか」と言った、という逸話を聞いたことがある。

アメリカで政治は大きな「産業」になっている。テレビやインターネットでの広告が基本的に自由だから、政治家はそれに多額のカネを使う。ワシントンの街に看板を並べるロビイストたちは、企業や外国からカネをもらって議員や役人の間を飛び回り、都合の良い法律、決定を採択させようとする。政治家の選挙指南、イメージづくり、調査と政策の策定などを請け負うコンサルタントは国中にいて、政治家からカネを巻き上げる。こうして動くカネはワシントンだけで2017年上半期約17億ドルに達し、約1万人のロビイストが登録されている。

アメリカの政治家は、こうした「産業」を満足させないと、盛り上げてもらえない。だから必死で資金集め(ファンドレイジング)をする。参加費用数千ドルの資金集めパーティー(ファンドレイザー)がしょっちゅう開かれて、大統領候補たちは集めた金額を公表する。それが少なければ、その候補は選挙戦で生き残れないと判断され、レースから脱落していく。このように米政治ではカネが幅を利かせており、後戻りはもうできない。ロシアや中国がカネを使ってアメリカをかき回すことも可能だ。

政治資金の浄化一本やりは難しい

他の先進国で、政治はアメリカほど金権化されていない。それでもイギリスではトニー・ブレア元首相がリビアの最高指導者カダフィとの癒着を指摘されていたし、ドイツでは廉潔なはずの社会民主党の首相だったゲアハルト・シュレーダーが05年の引退後、首相時代に推進したロシアとの天然ガス海底パイプラインを運営するノルドストリーム社、さらにはロシア最大手の石油・ガス企業ロスネフチの役員に就任して、高給を得ている。

日本では94年に小選挙区制が導入されて、選挙は候補者個人より政党を選ぶ色彩の強いものとなり、同年に政治資金規正法も改正されて、政党は国会での議席数に応じて政府から交付金を支給されることとなった。これで、個々の派閥、議員が資金集めに走って金権政治を招く弊害を除こうとしたのだ。自民党は今、年間約160億円もの活動費を国家から交付されている。野党第1党の立憲民主党は約68億円である。

これでは足りないのか、派閥や議員が資金集めのパーティーを開くのも、派閥が所属議員に配分するのもいいが、税金を払わず、収支報告書にも記載されていなかった、というのが今回の事件だ。

これは、税金を払い報告書を修正すれば、起訴は難しい。だから政治のプロにしてみれば、事件そのものより、悪質な裏金化が行われていたとされる安倍派の解体につながり、次期総裁選の見通しを流動化させるところまで行くのか、というのが注目点だ。

話を戻そう。政治資金はアメリカのように野放図に膨れ上がらないよう、そして政治を不健全、不透明なものにしないよう、ルールを定め、守らせることが肝心だ。ただ浄化一本やりも難しい。地元の冠婚葬祭で何もしない国会議員は、「付き合いの悪い人だ」と言ってはじかれてしまうから。


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