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「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最凶部隊「ストームZ」10万人を送り出すプーチンと「生還後の悲惨」

ニューズウィーク日本版 2023年12月19日 14時0分

<刑務所が空っぽになったスターリン時代と同じく、恩赦と引き換えに凶悪犯が戦場へ。戦場を生き延びた彼らが街に戻ってきたら...>

もう10年ほど前のことだが、泥沼化するシリア内戦にアメリカが介入し、反政府派の勢力に武器の供与を決めたとき、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は真顔でカニバリズム(人肉食)への嫌悪感を表明し、こう言った。

「殺した敵の腹を裂き、その臓物を食べ、その行為を動画で公開するような連中を支持する理由などない」。そしてアメリカ人に、こう呼びかけた。

「こんな奴らを、諸君は助けるのか? こんな奴らに武器を送るのか?」

だがプーチンは、その後の歳月でカニバリズムを許容するようになったらしい。彼は旧ソ連のスターリン時代の流儀に倣って大量の殺人犯を監獄から解き放ち、ウクライナの戦場に「肉弾」として送り込んでいるが、その中に少なくとも2人、過去に人肉を食べた者がいる。

2022年2月24日に隣国ウクライナへ侵攻を開始して以来、ロシアは何万もの受刑者を軍隊に編入し、通称「ストームZ」部隊の一員として最も危険な前線に送り込み、使い捨ての歩兵として利用している。

■【動画】見るからに極悪そうな「ストームZ」の兵士たち を見る

ロシア政府はストームZの存在を認めておらず、軍隊に編入した囚人の数も明らかにしていない。だが本誌の知り得た限りでも、ウクライナで半年間の軍務に就くことを条件に釈放された受刑者は10万人を超えている。

しかも、そのほぼ半数は生き延びて祖国に戻り、大手を振ってロシアの街を歩いている。

本誌は軍隊に編入された囚人リストの一部を入手したが、そこには定年過ぎの人も含まれていた。また受刑者の人権擁護団体「檻の中のロシア」のオリガ・ロマノワによれば、その半数以上はロシア民族以外の少数民族だ。

そうであれば、彼らはまさに使い捨て。あるロシア兵は去る10月、ロイター通信の取材に応じて「奴らは単なる肉弾」だと語り、ストームZの部隊は通常100~150人規模で、恩赦を得た受刑者と軍規違反に問われた正規兵で構成されると明かした。スターリン時代のソ連の服役者軍団と同じだ。

悪魔崇拝者も社会復帰

米シンクタンクの戦争研究所(ISW)はロシアのある軍事ブロガーの書き込みを引用する形で、ウクライナ東部のアウディーイウカやバフムート周辺に配備されたストームZの部隊は実戦で数日しか持たず、兵員の40~70%が失われていると指摘した。

政権維持のためならプーチンは殺人犯にも恩赦を与える SASHA MORDOVETS/GETTY IMAGES

受刑者を軍隊に編入し始めたのは、ロシア軍が深刻な兵員不足に陥ったとされる時期だ。都会の若者を大量に動員すれば政府への風当たりが強まりかねないので、大統領による恩赦と破格の報奨金を餌に受刑者を勧誘することで兵員の補強を図った。

しかし、そうやって集めた新兵の中には殺人犯やレイプ犯もいたし、人肉を食らった者もいた。悪魔崇拝の「儀式」で10代の若者4人を殺害した罪で服役中の男もいた。いずれも無事に兵役を終えれば社会復帰を許される。

21年に開設されたロシアの調査サイト「アゲーンツトバ」によれば、世間で注目を集めた殺人犯のうち少なくとも17人が22年と23年に恩赦を受けて軍隊に入り、ウクライナでの戦闘に参加している。

同サイトによれば、なかにはロシアに戻ってから再び犯罪に手を染めた者もいる。

悪魔崇拝のカルト団体のメンバーであることを認め、「儀式」で10代の若者4人を殺害した罪で懲役20年を言い渡されたニコライ・オゴロビャクも、プーチンによる恩赦を受けた1人だ。

オゴロビャクは10年7月、殺人、強盗、死体損壊の罪で有罪となった。ロシアのメディア「76.ru.」が引用した法廷記録によると、オゴロビャクはアパートの自室で悪魔崇拝の仲間と共に、被害者の臓器を揚げて食べたという。

オゴロビャクの父親が同メディアに語ったところによれば、オゴロビャクはストームZの隊員として6カ月の兵役を務め上げ、23年11月2日にウクライナからロシアに生還した。現在は母親と暮らしているという。

少なくとも4人を殺害し、このうち1人の肉を食べたとされるデニス・ゴーリンも、ウクライナでの戦闘参加を条件に恩赦を受けた。

極東サハリン州出身のゴーリンは、殺人罪で3度も有罪判決を受けている。最初に有罪となったのは03年。7年後に仮釈放されたが、その後に拘置所で同房だった男の親族を刺殺し、刑務所に戻っていた。

捜査当局によると、ゴーリンは被害者の脚を切断したことを認めている。それを洗って冷蔵庫に保管し、後に食べたとされる。

プーチンが恩赦を与えた犯罪者には、22年に23歳のタチアナ・レクティナをレイプし、殺害した罪で懲役20年の刑に処されたアルテム・ブチンもいる。この男は8月にウクライナの前線に送られたが、11月に故郷に帰還している。

27歳のタチアナ・メレヒナを絞殺し、遺体を肉ひき機にかけた罪で懲役11年の判決を受けたドミトリ・ゼレンスキーもウクライナで戦い、この夏に無罪放免となった。

しかし、こうした殺人鬼の赦免にはロシア国内でも異論があるようだ。

例えば、23歳の元恋人を殺害した罪で服役中だったウラジスラフ・カニウスの場合だ。カニウスは20年にシベリア西部のケメロボ州でベラ・ペクテレワを殺害したとして、22年7月に懲役17年の刑を言い渡され、重警備刑務所に収監されていた。

「彼女を殴っていたとき、叫び続けるのが気に入らなかった。だから黙らせたかった」。カニウスは被告人質問でそう述べている。法廷記録によれば、被害者には顔面を含めて111の刺し傷があった。

この男の赦免には世論が激しく反発し、SNS上に批判が噴出した。しかしプーチン政権の報道官ドミトリ・ペスコフは11月10日に、こう言い放っている。この者たちは刑罰を免れたのではなく、「戦場で突撃し、銃弾の下、砲弾の下で、自らの罪を血であがなっている」のだと。

プーチン自身も、「彼らは祖国に命をささげることで免罪された」と述べている。

スターリン時代と同じ

英王立統合軍事研究所(RUSI)国際安全保障研究ディレクターのニール・メルビンによれば、プーチンは24年3月の大統領選を控え、大規模な追加動員令で評判を落とす事態を避けるため、刑務所から人材を調達して兵士を増やす方法を採っている。

プーチンは12月8日に大統領選への出馬の意向を表明した。しかもウクライナ戦争の前に憲法を修正しているから、当選すればプーチンは最大で36年まで政権を維持できる。

「プーチンが選挙で負ける心配はないが、政府としては選挙中に不満が噴き出したり、戦争反対の声が上がる事態は避けたいだろう」。メルビンは本誌にそう語った。

「だから国内でも西部の大都市に住む有権者にまで影響を与える大規模な動員はやれない。その代わり東部の辺境に住む人や少数民族、そして囚人から兵員を調達している」

この1年間、受刑者がロシア軍の「人海戦術」に投入される兵士の主な供給源となってきたのは事実だ。運よく生き延びて生還した者は恩赦を受け、社会復帰を果たすが、彼らの再犯率は高いとメルビンは言う。「なにしろ前線でのトラウマや心理的なストレスはひどい」からだ。

スターリン時代には「主に政治犯と弾圧された人々が刑務所にいて」、そういう人が戦場に駆り出された。囚人を前線に送り出した刑務所は空っぽになったという。

「ロシア軍は人命の損失など気にせずに戦う。戦場に大量の兵士を送り込み、壊滅したら新たな部隊を投入する。それなりに人口が多いから、命の値段は軽くなる」とメルビンは付け加えた。

「そういう戦術だから、ロシアの指導者たちは受刑者を、大きな政治的リスクなしで利用できる資源と見なしている」

ちなみにウクライナ軍は、刑務所にいる犯罪者を入隊させることを認めていない。しかし「プーチン政権は、誰がカラシニコフ銃を手にし、誰が塹壕に籠もっていようと気にしない」。ウクライナ軍の元兵士でジャーナリストのビクトル・コバレンコは本誌にそう語った。

「これは優れてロシア的な戦い方で、スターリン時代の第2次大戦以来の伝統だ。プーチン政権は多くの点で、残忍で無慈悲なスターリン政権と似ている」ともコバレンコは言った。

「大規模な動員令でロシア社会に動揺が走るのを防ぐため、プーチンは犯罪者を兵士に仕立てている」

だが戦場を生き延びて自由の身となった凶悪犯が街に戻ったとき、その代償を払わされるのは一般の国民だ。

見るからに極悪そうな「ストームZ」の兵士たちによる反乱

Russian Storm-Z 'suicide squad' soldiers refuse orders to return to Ukraine front line/The Telegraph

  

イザベル・バンブルーゲン(本誌記者)

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