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「東大クイズ女王」河野ゆかりが「読み終えたその瞬間から世界の見え方がガラリと変わる」と出合いに感動した1冊!

ニューズウィーク日本版 2024年1月8日 9時0分

<「最後は万事うまくいく。うまくいってないならそれは最後ではない」という言葉に、強く心を動かされた...。『東大王』のレギュラーメンバーの河野ゆかりさんが、1年に1回は読み返して今の自分をチェックしたいという本について>

東京大学理科三類に現役合格と聞くと、いかにも一切の無駄がないルートで人生を歩んできたと思ってしまう。しかし東京大学医学部5年生で、現在TBS『東大王』のレギュラーメンバーとしても活動している河野ゆかりさんは、「目標に向かうルートはいくつもあっていいし、時には違うことをしてもいい」と考えているという。

どうしてそう思うのか。河野さんに尋ねると、スタンフォード大学工学部教授のティナ・シーリグによる『新版 20歳のときに知っておきたかったこと――スタンフォード大学集中講義』(CCCメディアハウス)との出会いが、大きなものとなったと教えてくれた。

「書店で見かけてすごく気になってはいたんですけど、家に積ん読の本がまだいっぱいあったので、なかなか手に取るタイミングがなくて。今回読んでみたらすごく面白くて、1日中ずっと読みっぱなしでした。「でも23歳の私が読んでもやはり、タイトルにもあるように『20歳の時に知っておきたかった』と思いました。この本を早く手に取らなかったことで3年間損をしてしまったかな、と。」

医師になることは手段であり、目的ではない

何よりタイトルに目を奪われたものの、読み進めるうちに、そこにいくつもの気付きやハッとする言葉があったと河野さんは笑顔を見せた。

「たとえば「サンフランシスコから南極まで行く経路は何通りもあって、計画通りにいかなければ臨機応変に対応すればいい」っていう言葉にハッとして。私は医学部に通っていますが、目標は「医師になること」ではなく、病気で苦しむ人たちの役に立つことです。だから誰かの役に立つなら、医師という特性は保ちながらも、別の方法があるかもしれない。進むための道は一つじゃないんだってことに、この本を読んで気付かされました。医学生として生活していると、医師になることばかりに意識が向いてしまいがちです。それはもちろん大切なことですが、医師になるのはあくまで手段であって、目的ではないと思うんですよね」

神戸市内の高校に通っていたこともあり、両親は京都大学や大阪大学など、地元から遠くない進学先を勧めてきた。しかし河野さんは「行くなら東大」と決めていたという。一体何が、そんなに惹かれる理由だったのだろう?

「東大は1、2年生の教養課程の間は、他の学部の人と一緒に勉強できるのがいいなと思っていて。もちろん医学部に進もうと決めてはいましたが、高校生の自分は、視野が十分に広がっていない自覚もあったので、もしかしたらもっと他にやりたいことが出てくるかもしれない。そうなった時に転学できる東大はいいなと思ったんです。あと5年生になってから臨床実習が始まったのですが、東大は医大の中では難病の知見が日本で一番積み重なっていて、研究機関としても予算がたくさん割り当てられているところに惹かれました」

とはいえ「子どもの頃から東大一直線」だったわけではなく、中学3年生の時に出会った1本の映画が、その後を決めることになったと教えてくれた。

photo:遠藤宏

「小学生の頃の好きな科目は体育で、本当に毎日休み時間になったら、一番に運動場に走っていくような子供でした。6年生ぐらいまでは、真剣に「将来はスポーツ選手になりたい」って言っていたんです。全然現実味を帯びてもいないし、具体的に取り組んだりはしていませんでしたが、漠然とバスケットボール選手に憧れたりとかしていて。中学生になってもまだ、学校生活を楽しむタイプでした。でも中三の時に若年性アルツハイマーをテーマにした『明日の記憶』という映画を見て。それがきっかけで医学というものを意識するようになりました」

入学1年目は毎日が忙しく過ぎて行ったが、2年生からの3年間はコロナ禍のまっただ中で、通学もままならなかった。しかしこの時期にテレビに出る決断をしたことで、彩りを失わずに日々を過ごして来たそうだ。

「当時、友人が東大王メンバーとして出ていたので番組を知っていたのですが、ちょうどその時に新メンバーの募集があって。まさか自分が合格すると思っていなくて、オーディションも「試しに行ってみるか」みたいな感じで。」2年生になった2020年1月から準レギュラーで参加することになったので、コロナ禍でも毎日楽しく過ごせましたね。私はクイズ経験者ではなかったし、「東大生だから何でも知ってて当たり前」と思われるかもしれませんが、受験とクイズは求められるものが違います。だから最初はプレッシャーがあったけれど、慣れるに従って楽しめるようになってきました。この本の中に「何もしなければなにも生まれない」とありますが、まさに私とクイズの出会いはそれだって思います」

この本を知っているのと知らないのでは、未来が違ってくる

ほかにも河野さんは「最後は万事うまくいく。うまくいってないならそれは最後ではない」という言葉に、強く心を動かされたと語った。万事うまく行っているように見える河野さんにも、「うまくいってない」と思うことがあったのだろうか?

「大学一年から二年にかけて、マレーシアにおけるデング熱の罹患者を減らそうというプロジェクトに参加したんです。私は他のメンバーを率いる立場で関わらせていただきましたが、コロナ禍でマレーシアに行くのが難しくなってしまって。そうこうしているうちに、「渡航できないままだと、予算が無駄になってしまう」などのリスクばかりに目が行くようになり、身も心も動けなくなってしまいました。結局諦めてプロジェクトからも離れてしまったことが、ずっと心残りで。もっと粘ればよかったとか、失敗したとしてももう少しできたことはあったかもしれないとか、今でも悔やむ気持ちがあります。あの頃に『新版 20歳のときに知っておきたかったこと――スタンフォード大学集中講義』と出会っていれば、結果は変わっていたかもしれない。だから私の中学生の妹と小学生の弟に、ぜひこの本を渡したいと思っています。20歳までにここに書いてあることを知ってから動くのと、何も知らずにいるのでは、10年後20年後が違ってくると思いますから」

photo:遠藤宏

河野さんに10年後20年後の未来を尋ねると、「まだ全然決まってなくて」とはにかんだ。医療現場で医師として働くか研究の道に進むのかも、まだまだ未知数だという。

「まずは幅広く研修をして、その後は専門医に進むための研修が終わったら少しキャリアをストップして、海外で暮らしてみたいなと思っています。いろいろな場所で、いろいろな人や文化に囲まれて過ごすのもいいかなと。物価が高いのがネックですがスイスや、世界遺産が多いので、イタリアやフランスに行ってみたいですね。ヨーロッパでは基本的に日本の医師免許は通用しないので、何か違うことをして生計を立てるのも面白そうだなと思っていて。もしかしたらキッチンカーで、それこそたこ焼きとか売っているかもしれないです。母にそんな話をしたら止めるどころか、「修行のためにまず、たこ焼き屋さんでアルバイトしなさい。そんなに簡単に作れるものじゃないんだから」って言われました(笑)」

河野さんは先日、水深30mまで潜れるスキューバダイビングのアドバンスコースを修了したばかり。海に触れあいたくて、時間を見つけてはグアムに沖縄にとあちこちの海で潜っているそうだ。

「海の中って陸からは想像できない世界の広がり方をしているので、自分の視野が狭いことに気づかされるんです。自分の当たり前を壊してくれる体験ができるのが、旅行の魅力だと思います。医師ってモデルコースというか、大抵の人が進むステップは確かにあるのですが、自分の専門にだけとらわれるのではなくて、いろんな分野を幅広く見てることが大事だと思っていて。この本のティナさんの言葉は、私の思い込みやとらわれを壊しながら、幅広い視野を持つことの大事さを教えてくれます。だからこれからも1年に1回は読み返して、目先のことにとらわれていないかのチェックに活用したいですね」

『新版 20歳のときに知っておきたかったこと――スタンフォード大学集中講義』
 ティナ・シーリグ[著]
 高遠裕子[訳]/三ツ松新 [解説]
 CCCメディアハウス[刊]

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朴順梨(ライター)

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