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「プレスリーの彼女だった」...歌手だった叔母が語ってくれたロックの王者「エル」との恋の思い出

ニューズウィーク日本版 2023年12月22日 15時10分

<「ものすごく自意識過剰な男だった」...。周囲が感心してくれなかった交際だが、現在86歳の叔母キャロリンが語ってくれた「それでもいい思い出」について>

「エルビスが死んじゃった!」

仲良しのロビンの家の庭で遊んでいたとき、ロビンの母親が勝手口からそう叫んだ。10歳だった私は、家に帰るべきだと思った。

私からニュースを聞いた母は何も言わなかった。エルビス・プレスリーは、かつて母の家を訪れ、母の妹とデートをしていた人だ。その死は大きな衝撃だった。

妻になるプリシラ(最近は、ソフィア・コッポラ監督の伝記映画でも話題だ)と出会う前、エルビスには大勢の女性がいた。その1人が、ルイジアナ州に住む褐色の髪の小柄な若い女性。私の叔母、キャロリン・ブラッドショーだ。

叔母が男性に好かれるタイプなのは、子供の私にも分かった。赤みがかったカーリーヘア、長いまつげ、曲線的な体つき。「魅惑的」という言葉そのものだった。

少女時代の叔母は学業よりも美人コンテスト、演技や歌に関心があった。そのうち、母親に嘆かれながらも、ラジオで生放送されていた音楽ショー『ルイジアナ・ヘイライド』に出演するようになった。

ショーで知り合った人々の中には、当時スターになり始めていたカントリー歌手のテネシー・アーニー・フォードやハンク・ウィリアムズもいた。綿花農場で生まれ育った17歳の少女にとって、目がくらむような体験だった。

本人がよく言っていたように、叔母は「エルビスの彼女」でしかなかったわけではない。歌手のキャリアを持ち、1953年に発表した曲「メキシコ人ジョーの結婚」は音楽チャートでトップ10入りした。それでも私たちはエルビスのことばかり聞きたがった。

休むことを知らない男

2人が出会ったのは54年だ。「仲間の女の子たちが『あの新入りの男の子』の話をしていて、どこの成り上がり者かと思っていた」と、叔母は話す。

「顔を合わせたら、それまで出会った誰とも違う人だった。キュートな笑顔に眠たげな目をしていて、よく笑った。あまりに素敵だったから、最初のうちは彼に何を言われても耳に入らなかった」

それから1カ月もしないうちに、2人はデートを始めた。誰もが感心していたわけではない。「ものすごく自意識過剰な男だった」と、私の母は後に言った。ミュージシャンは気まぐれで移り気だからと、祖母も喜んではいなかった。

(写真左から)キャロリン、筆者、キャロリンの娘スーザンと孫ケイティ CAROLYN BRADSHAW

エル(叔母はエルビスのことをそう呼んだ)とキャロリンは離れられない仲になった。一緒に巡業に出て、歌い、時間を過ごした。

「すごく見たい映画があって、2人で映画館へ行ったことがある。でも、彼はじっと座っていられなかった。休むことを知らないエネルギーの塊で、いつも動いていた。結局、映画館を出たけれど、普段は礼儀正しくて愛情深くて、最高のデート相手だった。それに、キスがとても上手だった」

ある晩、『ヘイライド』の会場で彼の両親にも会ったが、自分のことが伝わっていないのはすぐに分かった。母親のグラディスは無口で無愛想、父親のバーノンは上の空で握手をして、圧倒された様子で舞台を見回していた。

2人に幸せな未来が待っているとは思えない出来事だった。さらに、ほかの女性たちとの噂もあった。

プレスリーに関する著書を4作発表しているジャーナリストのアランナ・ナッシュは、その1作でキャロリンを取り上げている。

「54年当時、エルビスは地元地域で人気になり始めたばかりだったが、風変りな外見とステージ上で発する魅力に女性たちは既に夢中だった」と、ナッシュは話してくれた。

「彼が最も興味を持っていたのがキャロリンだ。処女性、美人コンテストの女王、陶器人形のような顔をした褐色の髪の小柄な女性──エルビスが抱く3つの理想像を体現していた。正式に交際しようとキャロリンに伝えていたが、エルビスは大空を駆け抜ける彗星で、どんな女性も引きとどめることはできなかった」

ほかの女性たちについてキャロリンは問いただしたりしなかったが、傷ついていたことに変わりはない。

「別れましょうって言って、別れたわけじゃない。エルはいつもツアーに出ていて、いなかった」と、叔母は振り返る。

「彼が『エド・サリバン・ショー』に出演したすぐ後、私は(カントリー歌手の)ジョニー・ホートンと一緒にコンサートをしたんだけど、観客は6人だけだった。近くでエルの公演があって、誰もがそっちに行っていたの」

「だから、観客に返金して、私たちもエルビスを見に行った。楽屋を訪れたら、彼は女性に囲まれていた。注意を引こうとしたけど、とにかくすごい人だかりで。彼に会ったのはそれが最後だった」

それでも、叔母にとってはいい思い出だ。本当のエルは気立てのいい「カントリーボーイ」だった、と。

2023年の夏、叔母と私はバージニア州を巡るドライブ旅行をした。86歳の今も、キャロリンは冒険が大好きだ。

旅の途中、エルビスたちと巡業をした日々を振り返って、叔母は言った。「出発するときに、彼らを待たせたことはない。一緒にツアーできるのがうれしくて、大抵は誰よりも先に荷造りができていた」

「ショービジネスの世界には、こういう格言がある。『別れるときは笑顔で』って」

エルビスが歌う「Can't Help Falling In Love」

Elvis Presley - Can't Help Falling In Love ('68 Comeback Special)/Elvis Presley

  

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