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娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

ニューズウィーク日本版 2023年12月23日 19時26分

<ハマスの人質となったイスラエル人女性の父親は「ガザにも人間の心を持った人がいるはず」と、娘の無事を祈っている>

イスラム組織ハマスがイスラエル領内に侵入して大規模なテロを起こしたのは2023年10月7日のこと。イスラエルで1400人ほどが殺害され、それを受けてイスラエル軍は、ハマスが拠点として実効支配するパレスチナ自治区のガザ地区に報復攻撃を実施している。今も、ハマスはイスラエルにミサイル攻撃を続けており、イスラエル軍もハマスの殲滅を目標として攻撃している。

■【動画】世界に衝撃を与えた、若い女性がハマスに連れ去られるシーン/拉致されたノアさんの写真

ハマスはテロ攻撃の際にイスラエルから約250人を誘拐してガザに連れ帰っている。人質の国籍は25カ国にわたり、現在でも130人ほどが誘拐されたままだ。

今回の大規模な誘拐事件では、手軽に動画などを撮影できるスマホなど普及によって、誘拐されていく人たちの映像が残されており、世界中に拡散されている。筆者もSNSなどで拡散されている動画はかなりチェックしてきたが、その中でも最も印象に残っている動画がある。

その動画は、若い女性がハマスの戦闘員のバイクに乗せられて連れ去られてしまうものだ。一緒に誘拐されたパートナーの男性に向けて手を伸ばしながら「殺さないで!」と叫びながら誘拐されるこの印象的な動画は、世界中で拡散されている。

パートナーと一緒に参加していた10月7日のレイム音楽祭から拉致された大学生のノア・アルガマニさんの父親に、先日、独自インタビューしました。ノアさんは動画で、パートナーと引き離され、「殺さないで!」と助けを求めて叫んでいる。父親は、末期がんの妻とともに、一人娘の救出を願っていた。 pic.twitter.com/MfdbMfwl64— 山田敏弘 (@yamadajour) December 23, 2023

この女性の名前は、ノア・アルガマニさんだ。ベングリオン大学の情報システム工学科の学生だったノアさんは、誘拐されて数日後の10月12日に26歳の誕生日を迎えている。

ハマスによる襲撃の日に起きたこと

10月7日の早朝、ノアさんはパートナーや友人らと、車でイスラエル南部で開催されたレイム音楽祭「スーパーノヴァ」に向かった。ハマスの襲撃で参加者260人が虐殺された音楽祭だ。

筆者は、人質の解放を呼びかける活動で日本を訪問していたノアさんの父親ヤコフさんに話を聞くことができた。

「10月7日早朝、6時から6時半ごろだったと思いますが、私たちの家はイスラエル南部のベエルシェバにあるのですが、朝、早朝からロケット弾の攻撃を知らせるサイレンが鳴っていて、妻には誤報じゃないかと言って安心させようとした。ところがサイレンがなかなか止まないので、自宅にあるセーフルーム(シェルター)に妻と一緒に入ることにした。そこで娘の部屋をのぞいてみると、娘とパートナー(ボーイフレンド)がいないことに気がついた」

父親のヤコフさんが共有してくれたノアさんの写真

「さらに、救急車の音もけたたましくなっていたので、何か非常事態が起きたと思い、地域の病院に行くと言って家を出ました。病院では大勢が運ばれてきていました。看護師の方に声をかけ、娘と、ボーイフレンドのアヴィナタンの名前がないかを確認してもらったが、負傷者の中に名前は見つからなかった。また別のアシュケロンというイスラエル南部の街の病院にも確認してもらったが、名前はありませんでした」

「その間にも、娘とパートナーに電話はしていましたが、繋がりませんでした。ただ友人たちから連絡は取れていたと聞き、だからこそ病院に探しに行ったのです。病院で2時間ほどして、妻から電話があり、娘のルームメイトに連絡するよう伝えられました。そこで電話をしてみると、娘がバイクに乗せられてガザの方面に連れて行かれる動画を今見たと告げられました」

「怯えた娘の動画を見るのは父親として非常に辛いことです。私は病院で、そのまま気を失ってしまったようで、電話が壊れてしまいましたが、病院だったので対処をしてもらい大事には至りませんでした」

死亡が確認された拉致の被害者も

「ガザにも人間の心を持った人がいると思います。対話を望んでいる人がいると思っています」

ノアさんの父親ヤコフさんへのインタビューの全編は、以下のYouTube動画「【独占】娘をハマスにさらわれた家族インタビュー」でぜひご覧いただきたい。テロや誘拐事件というものは、宗教問題であっても、領土問題であっても、正当化することはできない。



また今回来日した家族の中には、日本滞在中にガザで死亡が確認された人もいる。ハマスに誘拐されたエデン・ゼカリヤ(28)さんだ。ゼカリヤさんも、レイム音楽祭に参加していて、拉致された。イスラエル軍の特別部隊が、遺体を回収して身元調査を行い、本人だと確認された。日本にはゼカリヤさんの叔父が訪問していた。

ヤコフさんのように、一人娘を突然、容赦ない重武装したテロ組織に誘拐され、それがSNSで世界中に拡散されるという感覚は、日本人の私たちには想像しづらい。ハマスは、無実の民間人を誘拐して、解放する代わりに、犯罪を犯して拘束されているパレスチナ側の囚人を釈放するよう要求している。すでに100人以上の囚人らがイスラエル側の人質と交換で釈放されているが、そんな手口がまかり通っている事実も、私たちには想像しづらい。

過去にもハマスは同じような手法でハマスの囚人などを釈放させてきた歴史があり、今回のイスラエルへのテロ攻撃を首謀したとされるガザ地区のハマス最高指導者のヤヒヤ・シンワルも、そうして釈放された元囚人の一人である。

とにかく、複雑な中東和平問題の混乱の歴史が背景にあるのはわかっているが、それでもまず無実の民間人はすぐに解放されるべきではないだろうか。

ノア・アルガマニさん

パートナーと一緒に参加していた10月7日のレイム音楽祭から拉致された大学生のノア・アルガマニさんの父親に、先日、独自インタビューしました。ノアさんは動画で、パートナーと引き離され、「殺さないで!」と助けを求めて叫んでいる。父親は、末期がんの妻とともに、一人娘の救出を願っていた。 pic.twitter.com/MfdbMfwl64— 山田敏弘 (@yamadajour) December 23, 2023

父親のヤコフさんが見せてくれたノアさんの写真

ノア・アルガマニさん



山田敏弘(国際ジャーナリスト)

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