Infoseek 楽天

ロシア軍部隊、ドローンで化学兵器投下を認める

ニューズウィーク日本版 2023年12月25日 16時1分

<化学兵器の拡散に使われるK-51手榴弾をドローンから投下する、戦術の「根本的転換」を採用したと明らかに>

【動画】ウクライナ兵とロシア兵の接近戦を捉えた11分間のビデオ

ウクライナ南部に展開しているロシアの黒海艦隊の陸戦部隊が、ドローンを使って化学兵器をウクライナ兵の頭上に落としていることを、ロシア軍が事実上認めた。

ロシアの黒海艦隊に所属する第810海軍歩兵旅団は12月中旬以降、ヘルソン州南部ドニプロ川の東岸の村クリンキの周辺で、ドローンから手榴弾を落とす戦術へと「根本的に転換」したと22日、テレグラムへの投稿で明らかにした。

ウクライナ軍は10月半ば以降、ロシア軍が支配していたドニプロ川東岸に渡河してロシア軍の勢力を少しずつ削り、クリンキなど複数の集落で局地的に領土を奪い返している。

そこで第810海軍歩兵旅団は、「K-51手榴弾をドローンから敵の陣地に投下する戦術で、要塞化した陣地から敵をいぶり出すために使っている」という。

アメリカのシンクタンク、戦争研究所(ISW)も23日、同旅団がK-51がウクライナで使われている様子と見られる動画を公表したと指摘した。

ISWによれば、K-51には暴動鎮圧などに用いられることが多いCSガスという催涙ガスの一種が封入されている。ISWは、ロシアがドネツク州東部で2022年11月にK-51をウクライナに対して使ったとの指摘もしている。

もしその公表された映像が本物であれば、1997年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)の違反に該当する。CWCは化学兵器の使用を禁じるとともに、保有する化学兵器の廃棄および化学兵器製造施設の破壊を定めており、ロシアも締約国だ。

上気道に強い刺激

本誌はロシア国防省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。

2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、両国間では相手が化学兵器を使用しているとの非難の応酬が続いている。

ウクライナ海軍は2022年12月、ロシア軍兵士がクロルピクリンという化学物質の入ったK-51を使ったと公表した。また、CNNが19日にウクライナ当局者の話として報じたところによれば、ウクライナ南部に展開するロシア軍部隊はウクライナ軍に対しCSガスを使っているという。

クロルピクリンは土壌のくん蒸消毒に使われる農薬だが、その蒸気を浴びると皮膚や目、上気道が強い刺激を受ける。過去の戦争でも化学兵器として使われてきた。

ウクライナ軍は5月にも、ドネツク州の町アウディーイウカ周辺でロシアがドローンを使って化学兵器を投下したと主張。この町では10月以降、今回の戦争でも有数の激しい戦闘が繰り広げられている。

ウクライナからの独立を一方的に宣言した「ドネツク人民共和国」の顧問は今年に入り、壊滅的被害を受けた東部の町ソレダルやバフムトの周辺でウクライナが化学兵器を使用していると主張したが証拠は示されておらず、ウクライナ側は否定している。

「ウクライナ軍部隊が化学兵器を使っているとの敵の非難は事実ではない」と、ウクライナ軍高官は2月、ロイター通信に語った。

ロシア連邦安全保障会議の書記を務めるニコライ・パトルシェフはウラジーミル・プーチン大統領の古くからの側近でもあるが、11月の初めにこう述べている。「核兵器や化学兵器、生物兵器が使われるリスクは高くなりつつある」

2022年後半に行われた1回目の反転攻勢では、ウクライナはヘルソン州で大きな戦果を上げた。ロシア軍はドニプロ川東岸まで後退し、今年のヘルソン州における戦いはドニプロ川周辺が前線となった。

ロシア第810海軍歩兵旅団がクリンキに到着したのは10月初め。この地域に展開していたロシア第18諸兵科連合軍と交替したとみられると、ISWは以前、指摘していた。

エリー・クック

この記事の関連ニュース