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「月5万」の積立投資は、30年後いくらに? 新NISA時代に「個人」が知るべき資産とリスクの基礎知識

ニューズウィーク日本版 2023年12月27日 18時20分

<新NISAのスタートやインフレの進行、テクノロジーの進化......。投資を取り巻く環境が激変するなかで個人はどう行動すべきか>

このところ投資をめぐる環境が大きく変化している。日本でも本格的なインフレが始まり、資産を積極的に運用しなければ預金が目減りする時代に入った。さらに年金の減額が予想されていることから、以前にも増して将来不安が高まっている。

政府はこうした事態を受けてNISA(少額投資非課税制度)を大幅に拡充するなど、国民の資産形成を促す政策に乗り出していることに加え、テクノロジーの進化も変化を後押ししている。ネット証券は国民の資産形成になくてはならない存在となっているが、特定事業者による市場の寡占化が進みつつある。大手2社はとうとう売買手数料の無料化に踏み切っており、今後は手数料がかからないことが当たり前となる。

同時に、AI(人工知能)を活用した、お任せ投資のサービスも登場しており、個人が少額から投資できる環境が急速に整ってきたといえるだろう。一連の変化は、本格的な資産形成時代に入ったことを示唆する一方、従来とは異なり、自ら投資の方針を決め、自身の責任で投資を進めていかなければならないことを意味している。これからの時代は、個人が明確な投資戦略を持つことが極めて重要となってくるだろう。

日本では長くデフレが続いたことから、インフレに対する感覚が希薄になっている。インフレというのは、物価が継続的に上昇していく経済状況のことを指しており、言い換えれば現金の価値が目減りすることでもある。今100万円で買えるモノがあったとしても、インフレが激しくなると5年後には値段が150万円になっているということがあり得る。

ILLUSTRATION BY TARTILA/SHUTTERSTCOK

これまでの時代であれば100万円の貯金をすれば、5年後にも100万円のモノを買うことができ、10年後にも同じモノを買うことができた。だがインフレの時代においては、5年後に物価が1.5倍になったとすると、100万円の貯金は、実質的には3分の2に価値が減ってしまうことになる。つまり、インフレが進んでいるときに現金をただ保有しておくのは、お金を無駄に捨てることに近い行為と言えなくもない。

昭和の時代も、成長に伴い相当なインフレが進んでいたが、物価上昇分以上に賃金が上がっていたため、預金の額が実質的に目減りすることをあまり気にする必要がなかった。だがこれからの時代は、かつてのように賃金が上昇する見込みが薄く、せっかくためた預金がインフレで目減りし、逆に資産を減らすという悪夢のような事態が現実に起こり得る。このような時代においては、ある程度、自身でリスクを取り、資産運用を実施しなければ老後に十分な資産を持つことが難しくなってくる。

ILLUSTRATION BY TARTILA/SHUTTERSTCOK

40代で400万円程度の平均的な年収の人は、現時点で月15万円程度の年金を受け取れているが、20年後には12万円程度に下がる可能性が濃厚である。持ち家を有していない場合、この金額で生活するのは難しく、可能な限り就労を続けるとともに、まとまった額の資産を持ち、それを安定運用することで得られる利子や配当の収入を生活費に充当するのが、今後の標準的な老後生活となるだろう。

月5万円の投資が30年後には

ではこうした状況下で、私たちはどのような投資を行えばよいのだろうか。より重要性を増しているのは、リスクの高い投資を行って短期間で大きな利益を得るのではなく、少額投資を長期にわたって積み上げていくという考え方である。まとまった投資資金を用意できる人はごく少数であり、多くの国民にとって現実的なのは、毎年一定額を捻出し、それを投資に回していくという積立型である。この考え方は、毎年少しずつ貯金をしていくという従来の手法をそのまま投資に応用したものと考えてよい。

投資にはさまざまな対象が存在するが、投資の王道はやはり株式投資であり、長期的に残高を積み上げていくのであれば、なおさら株式との親和性が高い。加えて言うと、長期で少しずつ残高を増やしていく手法は個人にしかできないものであり、このやり方を活用しない手はない。

過去、数十年にわたる経験則上、平均すると株式投資には約6%の利回りがあるとされている。もちろん市場である以上、上昇相場もあれば下落相場もあり、上下変動はそれなりに激しいかもしれないが、長期的に見れば、株式から得られるリターンは大きい。この数字は国際的にもほぼ合意が得られたものであり、日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も基本的には6%程度を株式投資における標準的な利回りとして投資方針を決定している。

例えば、月5万円ずつ何とか余剰資金を捻出し、年間60万円の投資を30年間続けたと仮定すると、6%の利回りだった場合、30年後の投資残高は何と5000万円を超える。もちろん投資にはリスクがあるので、この金額を上回る可能性もあれば、一方で大きく下回る可能性もあり、5000万円が確定されているわけではない。だが多くの人にとってこの数字の大きさはけっこう驚きではないだろうか。

日本株のほかにも、違った特徴を持つさまざまな投資対象がある。例えば、マイクロソフトのような米国株 LUCY NICHOLSONーREUTERS

実際、そのとおりであり、株式の長期運用が当たり前の習慣として定着しているアメリカなどでは、若い頃から着実に投資残高を積み上げ、定年退職する頃には1億円レベルの金融資産を持ってリタイア生活に入るビジネスパーソンは多い。特に若い人であれば、時間を味方に付けることが、いかに有利であるのかお分かりいただけるだろう。

では、こうした長期の積立投資を行うことを前提にした場合、どのような投資対象を選べばよいのだろうか。銘柄選びは難しい問題に思えるが実はそうではない。何を選んでよいか分からないという問題は、たいていの場合、投資方針が明確でないことに起因している。投資方針さえ明確になれば、何を投資対象として選べばよいのかはハッキリしてくる。

日本株だけに投資するリスク

長期にわたって残高を積み上げていく以上、継続性は最も重要なファクターとなる。途中で投資対象が消滅するような事態は避けるべきであり、そういう意味では誰もが名前を知る超優良企業の株式というのが最有力候補となるだろう。こうした超優良企業というのは、株価が急に何倍にも上昇するケースは少なく、一般的に値動きは安定している。

安定した銘柄で十分な収益を上げるためには、株価が上昇することだけでなく、十分な配当が行われていることも重要となる。誰もが知る優良企業で業績が安定しており、今後も伸びる業界に属していて、同時に十分な配当利回りがあるという条件でスクリーニングをかけると、意外と銘柄は絞られてしまう。筆者は職業柄、「どの銘柄に投資すればよいでしょうか」と質問されることも多いが、長い投資経験がある筆者のような人間からすると、候補となる銘柄がたくさんあることではなく、投資に値する銘柄が少なすぎるということのほうがむしろ問題なのである。

日本の場合、人口減少やイノベーションの停滞によって海外と比較して経済のパフォーマンスが低く推移する可能性が高く、こうした現実を考えると日本株だけに投資をするのはリスクが高い。資金の半分程度(あるいはそれ以上)を外国の優良企業に振り分けることは、これからの時代において有力な選択肢となるだろう。

日本株のほかにも、違った特徴を持つさまざまな投資対象がある。例えば、REITを含めた不動産 SHIGEMI OKANO/SHUTTERSTCOK

外貨ベースの銘柄を組み合わせておけば、今後、激しい円安が進んだとしても、その分、ドルの上昇でカバーできるし、逆に円高に戻った場合には、円ベースの資産が増えるのでお互いの損失を相殺する効果がある。海外の銘柄も日本と同様、誰もが知る超優良企業に絞ったほうがよい。実際、筆者はマイクロソフトやP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)などの株式を保有しているが、こうした企業なら多くの日本人が知っているはずであり、逆に言えば銘柄の選択はこのレベルでよい。

資金量が少なく、分散投資をしたくてもできない人や、それでも銘柄の選択が難しい、あるいは面倒だという人は、優良企業の株式で構成される投資信託を購入したり、日経平均やダウ平均といったインデックスに連動するETF(上場投資信託)を購入する方法もある。もっとも手っ取り早いのはインデックス連動型のETFであり、市場平均のリターンしか得られないものの、機械的に買うだけなので手間はほとんどかからない。

先にも述べたように、内外の優良企業の株式に長期投資するというのは投資の王道だが、不動産や債券にも興味があるという人もいるだろう。

投資対象は株式だけではない

不動産はインフレに強いという特徴があるものの、実物の不動産を買うとなると、限りなく事業に近くなるため、相応のビジネスセンスが要求される。当然のことながら、その分だけリスクも大きくなるため、不動産に興味があるという場合には、まずはREIT(不動産投資信託)のような金融商品を通じた投資を経験してからのほうがよいだろう。

REITは競争力の高いオフィスビルや物流センターなど、個人投資家では到底所有できない物件を小口商品化したものであり、少額であっても優良物件のオーナーになれる。多くは株式市場に上場しているので、一般的な株式と同様、証券会社を通じて簡単に売買できる。REITを通じて不動産投資に慣れ、かつ資産が十分なレベルまで増大してきたときには、実物不動産への投資を検討してもよい。

債券については株式に比べてリスクが低いという特徴があるものの、インフレが進む時代には利回りとリスクについてより慎重に検討する必要がある。例えば5%の物価上昇が起こっているときに、利回りが5%の債券を保有していても現状維持できるだけであり、実質的な資産額は増えない。債券はよく富裕層のための商品などと言われるが、富裕層とまではいかなくても、無理に資産を増やす必要がなく、インフレによる資産の目減りさえ防げればよいという投資家にとっては魅力的だ。

日本株のほかにも、違った特徴を持つさまざまな投資対象がある。例えば、実物資産である金 LEONHARD FOEGERーREUTERS

例えば、まとまった額の退職金を手にしている高齢者の場合、インフレで資産が目減りしないよう、国債や優良企業の社債に投資するというのは有益な選択肢となり得る。だが、インフレ率を大きく上回るような利回りの債券に投資することで、積極的に資産形成したいとなると話は変わってくる。投資には常にリスクが付きものであり、利回りが高いということは発行体(社債など発行する企業などのこと)が倒産するリスクが高いことを意味している。

5%のインフレが起こっているときに、それを大きく上回る利回り(例えば10%や15%など)を債券で得ようとすると、過剰なリスクを取ってしまう危険性がある。インフレ率をはるかに超える利回りを提示する債券やそれを組み合わせた投資信託の選択はあまりおすすめできない。

インフレが進む時代には、不動産に加えて金への投資も有益とされる。確かに金も有力なインフレヘッジ手段だが、不動産と同様、実物資産として投資するのは、ある程度、資産を構築してからにすべきだろう。

株式や不動産とは異なり、金はそれ自体が何か利益を生み出すものではない。金は工業用としても使われるが、毎年、一定量が消費されていくので工業需要が金価格を変動させているわけではない。投資用の金というのは、多くの人が「金には価値がある」と思っていることだけが価値の源泉であり、収益性のある商品ではないという点に注意が必要だ。

加えて言うと、金は価値を生み出さないどころか、持っているだけでコストがかかるので、単純収益はマイナスになる。金塊を自身で保管する場合には保管費用がかかるし、金ETFなどの形で保有するにしても、運用会社が保管コストを負担する必要があるので、金の価格に変動がない場合、ETFの時価総額はごくわずかだが減少していく。

年代による投資法の違いは?

インフレ時には金は大きく値を上げるが、インフレが一段落すると価格が暴落することも少なくない。一定以上の資産を持つ投資家であれば、リスクヘッジの手段としてポートフォリオの一部を金にすることは合理的だが、全体の資産額が小さい段階で、高い割合を金に振り分けるのはやめたほうがよいだろう。

株式を中心に長期保有する投資スタイルは、多くの人にとって汎用的といえるが、年齢によって多少、銘柄の選定基準が変わってくる。まだ若く、今後30年程度の期間、投資を継続できる人は、基本的に内外の株式を中心とした組み合わせで問題ない。仮に下落相場になっても5年から10年耐えれば、再び上昇相場となり、最終的な残高は増えていく。

「資産所得倍増」を掲げる岸田政権は来年から新NISAをスタートさせる EUGENE HOSHIKOーPOOL/REUTERS

一方、既に年金をもらい始めている年齢の場合、そこから30年以上の長期投資というのは想定しにくい。退職金などまとまった資金がある人は、まずはその資金を失わないようにすることを最優先すべきだろう。結果的に債券などの比率が高い投資信託あたりが有力な選択肢となる。40代の人はその中間ということになるが、今後は生涯労働が大原則となるので、どちらかといえば若年層に近い形で、30年程度の長期を視野に株式中心に運用するのがよいだろう。

株式を長期保有し、値上がり益だけでなく配当益も狙うということになると大事になってくるのが利益や配当にかかる税金である。2024年から新しいNISAがスタートする予定だが、新NISAには従来型NISAにはない極めて大きな特徴がある。それは非課税の期間が無期限になったことである。

従来型NISAでは、非課税期間が最大で20年だったが、新制度はその制限が撤廃された。将来を予測することは理論的に不可能なので、非課税期間があらかじめ設定されていることは、売却の判断に余分なバイアスをかけることになる。非課税期間が無制限となり、かつ年間の投資上限額も240万円(成長投資枠)に拡大されたので、長期の積立投資にはうってつけの制度といえる。手数料が無料化されたネット証券でNISAの口座を開けばリーズナブルに長期投資を実践できるだろう。

◇ ◇ ◇

用語解説(1)

インフレ、デフレ

物価が上がり続けるインフレーションと、物価が下がり続けるデフレーションの略。物価が上がるということは、同じ額面のお金の価値が下がるということでもある。日本ではバブル崩壊後の1990年代半ばから、長くデフレが続いてきた。

用語解説(2)

GPIF

年金保険料として集められたお金(公的年金積立金)を厚生労働省から預かり、国内外の債券・株式などで運用する世界最大級の機関投資家。積立金は年金給付の原資となるので、リスクを抑えながら一定の収益を上げることが求められる。

用語解説(3)

積立投資

毎月、決まった金額で決まった金融商品を購入し続ける投資の方法。短期的な相場の上がり下がりというリスクを軽減できる、1回ごとの投資額を少額に抑えられるなどのメリットがあるため、初心者でも始めやすいとされる。

用語解説(4)

投資信託とETF

投資信託の中で、日経平均など株価指数に連動することを目指すものをインデックスファンドと呼ぶ。また東京証券取引所などに上場している投資信託がETF。投資信託と違いリアルタイムで値動きし、いつでも売買できる株式に近い特徴も持つ。

用語解説(5)

REIT

多くの投資家から集めた資金で不動産に投資を行い、そこで得られた賃料などの利益を投資家に分配する金融商品。実際に不動産を所有するのとは違い、少額から投資が可能で、プロの手による分散投資でリスクを抑えることができる。

用語解説(6)

ポートフォリオ

投資では、株式や投資信託などの金融商品の具体的な組み合わせを指す。ポートフォリオを組む際は、どの程度の利回りを目指すか、どれくらいリスクを許容するかなどの方針に応じて、どの銘柄を何%程度保有するかを選択する。

加谷珪一(経済評論家)

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