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日韓関係に火をつける? 韓国最高裁、徴用工問題で日本企業に賠償命令

ニューズウィーク日本版 2023年12月28日 17時30分

<2023年12月21日、韓国大法院(最高裁)は徴用工訴訟で日本企業に対し、賠償を命じた。これに対し、日本政府は日韓請求権協定違反として抗議。2018年の同様の判決後、日韓関係は冷却化した。尹錫悦政権下では、韓国政府傘下の財団が賠償金を弁済する方針を示している......>

2023年12月21日、韓国大法院(最高裁)は、旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工が三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)を相手取った訴訟で、いずれも原告1人当たり1億ウォンから1億5千万ウォン、計11億7000万ウォンの賠償金の支払いを命じる判決を下した。

判決について林芳正官房長官が定例記者会見で「日韓請求権協定に明らかに反している」「極めて遺憾で断じて受け入れられない」と述べ、併せて韓国側に抗議したことを明らかにした。なお、大法院が日本企業に支払いを命じた賠償金は、2018年の徴用工裁判の賠償金と同様、韓国政府傘下の財団が弁済する。

2018年の徴用工裁判と日韓関係の冷却化

2018年10月30日、韓国大法院は4人の元労働者が提訴した損害賠償訴訟で新日鉄住金の上告を棄却した。これにより、日本企業に賠償金支払いを命じた高裁判決が確定した。大法院は翌11月29日にも5人の元労働者が三菱重工業を相手取った訴訟で日本企業の上告を棄却した。

日本政府の抗議に当時の文在寅政権は司法の独立性を主張した。判決に対する事実上の追認だった。日本企業は、賠償問題は1965年に締結した日韓請求権協定で解決済みという日本政府の立場に沿って支払いを拒絶。以後、日韓関係は急速に冷却化した。直後に韓国の軍艦が自衛隊機に向かって火器管制レーダーを照射する事件が起き、翌19年には日本政府がキャッチオール規制に基づいて韓国を輸出管理制度のホワイト国から除外すると韓国内でノージャパン運動が拡散した。また、文在寅政権が日韓秘密軍事情報保護協定GSOMIAの破棄をほのめかし、慰安婦合意を破棄するなど日韓関係は国交正常化以降、最悪となった。

尹錫悦政権下での賠償金弁済と韓国企業の対応

韓国裁判所が日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業の資産差押えに着手し、さらに売却を行うと日韓関係は後戻りできないほど劣悪になると危惧されたなか誕生した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、徴用工判決で確定した賠償金と遅延利息を韓国政府傘下の財団が弁済すると発表。ポスコなど11社が寄付金を拠出した。徴用工裁判で勝訴した元労働者と遺族15人のうち、11人が23年7月までに弁済金を受け取った。

韓国政府は、新たに大法院が支払いを命じた賠償金も財団が弁済する方針を示すが、寄付金総額から支払い済の弁済金や未払い弁済金を差し引いた基金総額は10億ウォンに満たないことから、財源の拡充が課題として浮上している。

日韓請求権協定の異なる解釈と法的対立

日韓請求権協定は2つの解釈がある。日本政府は協定によって統治時代のすべての請求権問題が解決したという立場である。一方、請求権協定は日韓基本条約の締結交渉で協議した請求権が対象であり、議題に上がらなかった請求権や締結後に発覚した請求権は対象外という主張がある。

日本に加えて韓国政府もたびたび前者の立場を唱えるが、韓国法曹界は後者を採る例がある。ソウル地裁が徴用工訴訟を相次いで却下した21年、相手国には訴求できないという判決のほか、請求権は協定ではなく時効によって消滅したという判決もあった。

慰安婦訴訟

徴用工判決に先立つ12月9日、元慰安婦と遺族16人が日本政府を相手取って損害賠償金の支払いを求めた訴訟で原告の勝訴が確定した。元慰安婦と遺族20人が16年末に提訴したが、日本政府は1965年の日韓請求権協定と15年の慰安婦合意で解決済みであるとし、また国家が外国の裁判権から免除される国家免除の原則を主張して、一切、対応しなかった。

ソウル中央地裁は21年4月、国家免除の原則から韓国の裁判所が日本政府を裁くことはできないとして原告の訴えを却下した。慰安婦らの控訴を受けたソウル高裁は23年11月23日、1人当たり2億ウォンの支払いを命じる判決を下し、無対応を貫く日本政府が期限内に上告しなかったことから、12月9日、高裁判決が確定した。

慰安婦訴訟の進展と日韓両国の対応

日本政府はこれまでの慰安婦訴訟と同様、支払いに応じることはなく、韓国の裁判所が日本政府の財産を差し押さえることも不可能だ。また、韓国政府も元慰安婦に対する弁済等を行う考えはない。外交部が2015年の韓日慰安婦合意を尊重すると繰り返し述べるなど、慰安婦に対する補償は文在寅前政権が解散させた和解・癒やし財団への日本の出資金を充当すべきという考えだ。

徴用工訴訟で確定した賠償金は韓国政府が弁済する。敗訴した日本企業が拠出することはない。慰安婦訴訟も訴えられた日本政府は一切、関与しない。いずれも訴訟も被告となった日本不在で進行し、日本不在で完結する。

現在、最高裁で確定判決を待つ同種訴訟は7件あるという。7件すべてで同様の判決が下されると、財団が支払う弁済金は100億ウォンを超える可能性があるという。訴訟の行方を注意深く見守っているのは、日本政府や日本企業よりむしろ、弁済基金の追加支出を求められる韓国企業なのである。



佐々木和義

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