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投資に最高性能のAIを使っても、それで差はつかない。ChatGPTの時代に個人投資家が勝つには何が必要か

ニューズウィーク日本版 2023年12月28日 17時35分

<人間の知力を超え、世界を大きく変えることが予測されるAI。すでに市場調査にAIを採り入れている投資家は多いが、個人投資家には限界もある。とすれば...>

日常の調べものに留まらず、高度な情報分析や提案、さらには画像・音楽・動画生成といったクリエイティブな領域まで。さまざまな領域で活用されるChatGPTなどの生成AIは、これまでの常識を覆し、「世界を変える」と注目を浴びている。

日本の資産運用会社レオス・キャピタルワークスの最高投資責任者である藤野英人氏は、YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」でAI研究者を招き、「AIやChatGPTは投資の世界に今後どんな影響を及ぼすのか【藤野英人×今井翔太#2】」というテーマで語り合う。

東京大学でAIの研究に従事している今井翔太氏によると、研究者の間でまことしやかにささやかれる噂がある。それは、まだ発表はされていないが、ChatGPT を開発したOpenAIが「汎用人工知能(AGI)」をもう作ってしまった、という話だ。

「汎用人工知能とは、人間と同じようなことができる、あるいは人間の知的能力全体を超えてしまうAIのこと。1~2年前なら真に受けずに笑って流していた話だが、『本当なんじゃないか』と受け入れられており、研究者の中で『意識が変わってきた』と感じている」と今井氏は語る。

真偽のほどは定かではないが、発表されれば世の中は今以上に様変わりするだろう。

そんな中、やはり藤野氏が最も興味を示すのは、AIが投資にもたらす影響。例えば、すでに市場調査にAIを採り入れている投資家は少なくないだろう。株式投資には企業の財務や業績、過去の株価や為替、各国の経済水準など、膨大な情報量が必要だ。ChatGPTはそれらをすぐに要約・分析できるだけでなく、言語の壁をも突破できる。

「アラビア語圏など、馴染みのない言語はそもそも情報が入ってこないが、AIを活用すれば解決できる。現在は世界最高性能のAIを投資家も含めてみんなが使えている状態だから、それでは差がつかない。今後差がつくとしたら、パーソナライズされたChatGPTを運用する人が勝つという未来は考えられる」と今井氏は予想する。

ただし、ChatGPTのパーソナライズには圧倒的な資金力が必要なので、個人が持つのはまだ難しいとされる。これに対し藤野氏は、

「ニューヨークに本社を構える世界最大級の資産運用会社ブラックロックは、投資システムに巨額投資をしている。超巨大企業がすさまじいお金を投入して運用モデルを開発し、自社のためだけにこっそり使うことは現実的に起こるんじゃないかと思っている」と語る。

レオス・キャピタルワークスの最高投資責任者、藤野英人氏(「お金のまなびば!」より)

「平均的」な価値観ではAIに淘汰され、世界に後れを取る

では、AIが発達した未来で個人投資家にできることは何なのだろうか。藤野氏は続ける。

「日本市場予測において、多くのファンドマネージャーは自分たちなりに銘柄の相対的な魅力度を判断するモデルを作り、会社調査をして、業績のコンセンサス予想より上に行くか下に行くかの当てっこゲームをしている」

「しかし、決算データや予測数値、月次報告、グローバル市場や競合企業の動向を読み込み、リアルタイムに業績が上がるか下がるかの確率を予想するのは、人間よりもChatGPTのほうが瞬時にできる。そうすると投資家にできることは、短期予想ではなく、5年、10年の長期をどれだけ見るか」

今井氏によれば「AIが普及すると、個人の能力差にあまり意味がなくなる」。生成AIは既存のデータを集めて学習するので、アウトプットも「平均的」になっていき、そうすると、いかに「非凡であるか」「極端であるか」が求められる時代が到来しそうだ。

「変わった考えを持った人に全力投資すれば、たとえ失敗したとしてもそれが物語として消費されるから、それはそれでお金になるだろうと。極端なことをやっている人に賭けるのが、これからの社会では『あり』なのではないか」

藤野氏もこれに同意し、「日本人は平均値であることを尊ぶ文化、アメリカ人はアウトスタンディング(傑出すること)を尊ぶ文化がある。目立つこと、極端なこと、違うことを喜ぶ社会のほうが世の中の進化は早くなる。僕らのあり方を変えないと、アメリカとの差がますますついてしまうのではないか」と危機感を募らせた。

投資以外の分野では、教育は変革期を迎える可能性が高いと今井氏は分析する。AIに質問すれば24時間いつでも回答がもらえるようになれば、教師の役割や教育のあり方は大きく変わるだろう。

また、以前からホワイトカラーの仕事の大部分はAIにより削減されると指摘されてきたが、どうやらこれは知的労働に限った話ではないようだ。

「10年後の未来は研究者の間でも意見が分かれるので予想が難しいが、走ったり、スキップしたりといった物理的動作も、AIはおそらく出来るようになっているだろう。ホワイトカラーだけでなく、肉体労働の仕事もなくなっているかもしれない」と今井氏は言う。

今井氏はさらに、「そう遠くない未来、パソコンやスマホに常駐して、何でもしてくれるAIパートナーが登場するのではないか」と続けた。

AIがあれば何でも解決する社会がすぐそこまで来ている。そのとき、我々はどう生きるべきなのか。「人間のあり方」がこれほどまでに問われる時代は過去に類を見ない。

構成・酒井理恵

●YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」

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