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「大学進学率50%」のウラにある男女差と地域格差

ニューズウィーク日本版 2024年1月10日 11時30分

<都市部ほど大学進学率は高く、最高の東京と最低の宮崎では倍近い開きがある>

現在では同世代の半分が4年制大学(以下、大学)に進学する。大学進学率50%というのは、その数値的な表現だ。

大学進学率とは、18歳人口のうち大学に進学した学生が何%かをいう。文科省の『学校基本調査』から計算する場合、分子には当該年春の大学入学者数を使う。2023年春だと63万2902人(A)。上の世代(浪人経由者)も含まれるが、この年の現役世代からも浪人経由で大学に行く者が同数出ると仮定する。

分母には同時点の18歳人口を用いるが、3年前の中学校、中等教育学校前期課程、義務教育学校の卒業者数の合算をあてる。2020年春の数値は109万7416人(B)。よって2023年春の大学進学率は、AをBで割って57.7%と算出される。5割どころか、6割に迫る勢いだ。

だがこの進学率には性差があり、男子が60.7%であるのに対し女子は54.5%。地域差もあって、47都道府県別に計算すると最高の東京は77.6%、最低の宮崎は40.1%と倍近くの開きがある。同じ国内とは思えぬほどの差だ。

いま日本の白地図を用意し、2023年春の大学進学率が50%を超える県に色を付けると<図1>のようになる。左は男子、右は女子のマップだ。

色が付いているのは男子では33県、女子では18県しかない。白色の県が結構あり、「同世代の半分が大学に行く」と言うには留保が要る。

大学進学率の地域差が、各県の生徒の自発的な進路選択の結果と考える人はいないだろう。子どもの学力テストの成績とは相関しておらず、学力平均が高い秋田県の大学進学率(男女計)は40.1%と下から2番目に低い。進学率が高いのは都市部なので、社会経済条件と結びついた「格差」であると言っていい。

各県の大学進学率は、県民所得とプラスの相関関係にある。大学進学には多額の費用がかかることから、これは当然だ。保護者の意識(考え方)の影響も大きい。大学生の親年代の大学・大学院卒率は、県民所得よりも大学進学率と強く相関している<図2>。

大卒の親は大学の価値(効用)を認め、子にも大学へ進学することを期待する。子どもも幼少期より、高卒後の進路として大学進学を意識する。だが親が非大卒の家庭では、これとは逆になりやすい。自分の家庭のみならず、住んでいる地域に大卒の人がほとんどいないような場合、大学について見聞きすることすらない。

あと1つは大学が地域的に偏在していることだ。自宅から通える大学が少ない(ない)地方の場合、通常の学費に加えて下宿代の負担も強いられる。都市部の家庭にくらべて、少ない所得の中から倍の支出をしないといけない。女性にあっては、治安の心配から「自宅通学でないと許さない」という家庭も少なくないだろう。このことは、大学進学率の性差の要因となっている。

ざっと考えても、当人の能力とは無関係の要因がこれだけある。<図1>の地図は、高等教育機会の地域格差・ジェンダー格差の可視化とみていい。高等教育修学支援制度により低所得層の大学学費は減免され(住民税非課税世帯は実質無償)、給付型奨学金も導入された。また、女子学生の下宿費用を補助する大学も出てきており、機会の均等に向けた取り組みが進んでいる。だが<図1>の地図を見ると、さらに進める余地はまだまだある。

全員が大学に行く必要などない。しかし能力や意向があるにもかかわらず、外的な要因によって進学が阻まれることがあってはらない。法律が定める「教育の機会均等の理念」に反する。教育を受けることは国民の権利であって、奨学措置によりそれを保障するのは国家の責務だ。

<資料:文科省『学校基本調査』、
    総務省『就業構造基本調査』(2022年)>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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