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共和党予備選本番、ヘイリーの急浮上はあるか?

ニューズウィーク日本版 2024年1月10日 15時30分

<伝統的保守派からの支持を得られれば、トランプと互角に戦える可能性も>

2024年が明けました。いよいよ大統領選の年の幕開けです。これからは、テレビ討論や演説会だけでなく、本番の予備選挙が順次行われていきます。民主党の場合、当面は、現職のバイデンで事実上一本化されていますが、問題は共和党です。共和党の大統領予備選は、トランプがテレビ討論への参加を拒否し続けながら、50%を超える支持率をキープしているという異様な選挙戦になっています。

この構図が崩れるのかどうかが、当面の焦点になってきています。この点で言えば、昨年暮れまでの情勢としてはトランプ独走というムードが濃厚でしたが、ここへ来て、選挙情勢には微妙な変化が出てきています。

それは、ニッキー・ヘイリー候補(元国連大使、元サウスカロライナ州知事)がここへ来て急浮上しているからです。

共和党内の支持率では、昨年秋まではトランプが50~60%の支持率で、これを10%強のデサンティス候補(フロリダ州知事)が追い、さらにヘイリーが8~9%という数字で追いかけるという構図でした。ですが、ここへ来てかなり局面が変わってきています。

まず、アイオワ州の党員集会が真っ先に1月15日(月)に行われます。このアイオワは農業州という性格もあり、共和党支持者のカルチャーはかなり保守的です。そんな中で、イタリア系のデサンティス、インド系のヘイリーの両候補の支持は伸びていません。直近の世論調査でもトランプの優位は明らかです。大方の予想としては、トランプ、デサンティス、ヘイリーの順になると言われています。

ヘイリーとしては、その次のニューハンプシャー州を決戦場としているようです。ニューハンプシャー州は東部ですが、都市型ではなく共和党と民主党の支持が拮抗しています。その中で共和党支持者には、レーガンやブッシュなど国際協調を否定しないクラシックな保守主義が根強く、ヘイリーはそうした票を取り込む戦略に出ていました。

支持率でヘイリーが猛追

そんななかで年明けに発表された世論調査結果では、CNNと地元大学の連合調査でトランプ39%に対してヘイリーが32%と猛追しています。他の調査も含めた直近の平均値でも、トランプ42%、ヘイリー29%(政治サイト「ファイブ・サーティーエイト」による)となっており昨年までの構図が大きく変化しています。

ニューハンプシャーの予備選挙は、1月23日とまだ2週間ありさらに状況が変わる可能性があります。また、この州は「セミオープン型」の予備選となっており、党員登録者に加えて無党派の有権者も投票が可能ですので、ヘイリーがさらに票を伸ばすかもしれません。

ヘイリーとしては、まずアイオワでの敗戦を最小限にし、あわよくば2位のデサンティスに肉薄しておく、その上でニューハンプシャーでトランプに限りなく迫るという戦略です。その勢いを駆って、ニューハンプシャーの翌日に予定されている彼女の地元である、サウスカロライナ予備選でも善戦すれば、全国ニュースが一気に彼女の「旋風」を話題にするという計算をしているはずです。そうなれば、直後の3月5日の「スーパー・チューズデー」でトランプと対等に戦える、そんなロードマップになるわけです。

仮にヘイリーにそのような「勢い」が出た場合には、トランプが容疑者として起訴されている多くの裁判の審理がこの予備選日程と重なる中で、トランプを「見放した票」が一気にヘイリーに集まるかもしれません。

現時点では少々気が早いかもしれませんが、ヘイリーが共和党の統一候補になれば、民主党も高齢のバイデンからハリスに候補をスイッチしようとし、その場合は、不人気のハリスに対して、一気に有力な対立候補が数名名乗り出てくるかもしれません。

それはともかく、そろそろ、少なくとも「ヘイリー政権誕生」という可能性も、頭の片隅に置いておいた方が良いかもしれません。ヘイリーは、一貫して明言しているように、国連と西側同盟の枠組みを堅持するとしています。ですから、トランプのように日米同盟を壊すような言動はしないでしょう。

では、ヘイリーは親日家なのかというと、そこは多少懸念があります。例えば、昨年11月の第3回の共和党テレビ討論の席上で、彼女が日本について言及したことがありました。それは(アメリカの場合に)国債の金利利払いにカネが流出すると軍備増強ができないという話の流れだったのですが、「(アメリカは)日本のようになってはいけない」と一瞬呟いたのです。

国債の金利支払いの話と、軍事費の話の結びつけ方もやや強引なら、このときの議論の文脈は金利引き上げへの批判だったのですが、日本の場合は低金利が問題になっているので、話としては全く筋が通っていません。そうなのですが、漠然と日本経済の衰退を見て「こうなってはいけない」という感想を持っているのは明らかで、思わずポロッと本音が出た感じがあります。

頭の回転の早い女性ですので、仮に「日本経済はダメ」という厳しい見方をしていたにしても、それを「成長路線へと産業構造を転換すべき」という前向きな外圧として突きつけてくれれば、かえって国益に叶うことになります。ですが、下手な対応をすれば「経済のプレゼンス低下」を見て、日本へ割くリソースを減らしてくるかもしれません。そうした点で、侮れない政治家として見ておく必要もありそうです。


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