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ガス栓を閉めて欧州を凍らせるつもりが自分が凍ったロシアの誤算

ニューズウィーク日本版 2024年1月10日 19時7分

<エネルギー供給を断って凍らせてやると欧州を脅してきたロシア政府だが、ロシア全土に停電が広がり、自国が先に凍り付いている>

この冬、ガスの供給を止めてヨーロッパを「凍らせる」と豪語したロシアのウラジーミル・プーチン大統領だが、皮肉なことに脅しは自分に跳ね返ってきた。ロシア全土に停電が広がり、人々は凍えそうになっているのだ。

【動画】あべこべの停電で凍るロシア

1月4日に、モスクワ中心部から約50キロ南に位置するポドルスク市のクリモフスク特殊弾薬工場で暖房用のパイプが破裂した。その結果、モスクワ地域だけでも数万人の家庭で暖房が使えなくなったと報じられている。

ロシアは年明けから、場所によっては平均気温を15度も下回る異常な寒気に襲われており、モスクワだけでなく、ロストフ、サンクトペテルブルク、ボルゴグラード、ボロネジなど多くの都市が長時間の停電に見舞われている。氷点下の気温と格闘しながら、その過酷さを動画でアピールする住民もいる。

凍えそうだと不満を訴え、ガスストーブやヒーター、そして 「手に入るものは何でも使って」家を暖めていると言う住民もいれば、路上で火を焚く者もいる。

本誌は、ネット上で出回っているこうした動画を独自に検証しておらず、ロシア外務省にメールでコメントを求めている。

「ヨーロッパを凍らせると宣言したロシアが、今は自分で凍っている。公益各社の事故は構造的な問題で、ロシア当局は対処できずにいる」と、ウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシチェンコは8日、X(旧ツイッター)で述べた。

ガス遮断で氷河期に

ゲラシチェンコはXで、ウクライナへの本格的な侵攻が始まった2022年以降、プーチンをはじめとするロシア当局者らが、エネルギー供給を停止してヨーロッパを「凍らせる」と脅してきたことに言及した。

「自分たちの領土的野心が満たされなければ、西側諸国へのガスを遮断するという脅しだ」

ゲラシチェンコは、2022年9月にロシアのエネルギー大手ガスプロムが西側を愚弄する動画を公開したことにも触れた。

「ガスプロムは『そしてこの冬は長くなる』という曲の動画を公開した。ガスプロムの文字が入った制服を着た男がガス栓を閉め、その後ヨーロッパに『氷河期』が来るという内容だ」

「ところが、現実に凍えているのはロシア人だ」とゲラシチェンコは付け加えた。

7日には、ロシア第二の都市サンクトペテルブルクの2つのショッピングモールが、照明と暖房ができず閉店を余儀なくされたと、地元のニュースメディア「78.ru」が報じた。マイナス25度の寒気のなか、市内の多くの家屋で電気、水、暖房が何日も使えない状態が続いている。

 

ロシア当局はまた、気温マイナス30度の寒さの中、サマラからサンクトペテルブルクまで20時間を暖房なしで運行した列車の乗客への補償を余儀なくされている。

ソーシャルメディアに出回った動画には、車両の窓が凍りついている様子が映っていた。また、ある乗客は、パイプの凍結により車内のトイレが使えなかったと語った。

ロシアのテレグラム・チャンネル「コーション・ニュース」が、毛布や温かい飲み物が乗客に配られなかったと報じた後、運行会社からの謝罪が発表された。

ロシア鉄道の子会社である連邦旅客会社は、「乗客に迷惑をかけたことをお詫びします」と述べた、とRBCニュースが伝えた。

ロシア西部のボロネジ地方、南西部の都市ボルゴグラード、そしてウクライナと国境を接するロストフでも広範囲に及ぶ停電が報告されている。

ロシア当局は「ロシア人を凍らせる」ことには「かなり成功している」とゲラシチェンコは語った。



イザベル・ファン・ブリューゲン

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