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百人一首とX(旧ツイッター)の共通点とは?...駐日ジョージア大使が愛する、和歌と歌人

ニューズウィーク日本版 2024年1月13日 9時5分

<和歌は「まるで宇宙にも匹敵するくらいの大きな感情を生成する」と述べる、レジャバ大使。百人一首の思い出とツイッターの記憶、そして敬愛する歌人について>

サスィアモヴノア(はじめまして)。まずは少しだけ自己紹介をさせていただきたい。

現在、駐日ジョージア大使を務めているティムラズ・レジャバと申します。4歳で初来日し、以来、ジョージアと日本を行き来しながら常に日本と関わりを持ってきました。

◇ ◇ ◇

日本で暮らすなかで異文化摩擦などの困難に直面したことも少なからずあるが、毎回それを乗り越える手掛かりとなってきたのが日本文化であった。

日本文化を楽しむことによって、日本をより理解できるようになる。そうするとおのずから暮らしやすくなる、というのが持論だ。そんな日本文化の中でも、私が好きなものの1つが和歌だ(俳句、川柳、自由律短歌も好きだ)。

母国ジョージアにも詩の文化があり大好きだが、詩と和歌はかなり異なる。

詩は旋律、リズム、韻などが重要なため、その言語でないと伝わらないニュアンスがある。従って日本語に訳しても、そのよさがうまく伝わらないが、和歌は文字数に制限があるなかで表現するという点に驚かされる。その代表的な例が百人一首であろう。

私が初めて百人一首を知ったのは、中学生時代だ。今でもいくつかの和歌が脳内で勝手に再生されるほどだ。学校の授業で、何首覚えられるかを競い合ったことも、今となっては楽しい思い出になっている。

なんといっても、1000年以上前に生きていた人間が感じたものが歌の中に詰まっており、情景がまざまざとよみがえってくる。

1つの言葉がほかの多くの句にも使われており、極めて短い文字の組み合わせが、まるで宇宙にも匹敵するくらいの大きな感情を生成する。短い文章の中に驚くほど工夫が施されていることに、いつも感動させられる。現代の詩歌を楽しめるようになったのも、百人一首を知ったおかげでもある。

現代の詩歌の楽しみは、新聞やお茶のペットボトルのラベルに川柳が掲載されているなど、あえて読もうと思わなくとも日常生活の中にあふれていることだ。

また、歌会始も好きで、歌で前年を振り返るなど、世相やトレンドの移り変わりを言葉遣いで感じることができるのも面白い。

現在、私はX(旧ツイッター)を日常的に使用しているが、その実力を知ったのは、2011年の東日本大震災の時だ。当時、私は早稲田大学の学生で、地震発生時は友人と一緒にいた。

大きな揺れに動揺していた際に、友人がスマホのツイッターのアプリを見ながら言った言葉は「震源は東北だ」であった。情報のスピード感に大きな衝撃を受けたことは今でも忘れられない。

Xには文字数に制限がある。その限られた文字数の中で、その時々の状況や気持ちをうまく表現することが真骨頂である。

日本のXのユーザー総数は約5900万人で、アメリカに次いで世界2位。しかし人口に占める割合は47%で、これは23%のアメリカの約2倍の普及率だ。

日本でXが普及している背景には、短い文字数制限の中でさまざまな表現を工夫する、和歌の文化があるというのが持論だ。日常における人間の感情の機微を簡単な言葉で見事に表現する日本語のXが、現代の詩歌にも通じていることが面白いと思う。

最後に私が敬愛する歌人について触れさせてほしい。実は私には好きな歌人がいる。その歌人こそが、本コラムに寄稿されているカン・ハンナ先生だ。

彼女は日本語が母語でないからこそ見えてくる日本の良さや、気付きにくい人生のふとした心情などを独特にうまく表すことができる歌人だ。私は才能あふれるカン・ハンナ先生を陰ながら応援してきた。

そんなコラムの執筆陣に加えていただき、大変光栄に思っている。今後ともよろしくお願いいたします。

ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
TEIMURAZ LEZHAVA
1988年、ジョージア生まれ。1992年初来日。早稲田大学卒業後にキッコーマン勤務を経て、ジョージア外務省入省。2021年より駐日ジョージア特命全権大使を務める。共著に『大使が語るジョージア』など。

レジャバ大使のX(旧ツイッター)

今週のニューズウィークにて。 pic.twitter.com/KrUO6qmdmw— ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使 (@TeimurazLezhava) January 12, 2024



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