Infoseek 楽天

「ウィリアム皇太子は身勝手」...ヘンリー王子側からの「新たな暴露本」にチャールズ国王の憂鬱は終わらない

ニューズウィーク日本版 2024年1月12日 14時45分

<王と皇太子の激しいライバル意識があだになり、君主制は「冬の時代」を迎えると新暴露本が予想。改革なしには君主制が崩壊する?>

そこに描かれるのはケチなライバル心と下世話なゴシップとエゴの衝突だ。

だがイギリス王室の内幕に踏み込んだ『エンドゲーム(Endgame)』(未邦訳)で訴えたかったのはもっと重要な問題だと、著者のオミッド・スコビーは主張する。

本誌の取材に対してスコビーは、チャールズ3世の治世は本人とウィリアム皇太子の「身勝手な思惑」に足を引っ張られていると指摘。皇太子は身勝手さ故に父を支えようとせず、これでは王室の存続が危ういと訴える。

『エンドゲーム』は昨年11月に出版され、ヘンリー王子夫妻と王室の、大西洋を挟んだ確執に対する世間の関心を再燃させた。

何しろ暴露ネタがふんだんに盛り込まれている。生まれてくるヘンリーとメーガン妃の子供の肌の色について王室のメンバーが懸念を表したというのは今では有名な話だが、『エンドゲーム』はそうした人物が2人いたことを明らかにした。

ネットフリックスのドキュメンタリー『ハリー&メーガン』が話題をさらい自分に脚光が当たらなくなると、チャールズはヘンリーを「あのばか者」とくさした。ウィリアムとキャサリン妃はアニメ『サウスパーク』でヘンリーとメーガンが風刺されるのを見て、ほくそ笑んだ──。

だがこうした家族間の不和に惑わされず本当のメッセージをくみ取ってほしいと、スコビーは促す。

『エンドゲーム』 DEY STREET BOOKS  ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます

スコビーは2020年の暴露本『自由を求めて──ハリーとメーガン 新しいロイヤルファミリーを作る』(邦訳・扶桑社)で、ヘンリー夫妻の王室離脱に迫った。王室が生き残るには改革が必要で、国王にとって真に危険な存在はヘンリーではなくウィリアムだというのが彼の持論だ。

「王室はもっぱら国王と皇太子の足並みはそろっているという情報を流すが、2人は時に全く異なる道を歩み、物事に対して正反対の見解を持ち、公務にも同席しない」と、スコビーは言う。

「ウィリアムは側近ともども、自分がいかに父と違う国王になるかをメディアにアピールしている。国王の戴冠式の3日後には、周辺から『ウィリアムの王室は父より現代的で、コスト効率も改善される』との声が漏れ聞こえた。父の晴れの日の余韻がまだ残っているのに......11月のコメントも同じようなものだ」

ウィリアムは20年に環境保護への貢献者をたたえるアースショット賞を創設し、昨年は11月にシンガポールで授賞式を行った。だが新聞の一面を飾ったのは、チャールズが即位後初めて行った議会演説だった。

すると翌日ウィリアムは取材を受け、自分はこれまでの王室とは違う、社会問題に光を当てるだけでなく実際にホームレス用の住宅を建設したいと抱負を述べた。

これがヘンリーの発言だったら、亡きエリザベス女王の功績を暗に批判していると受け取られ、炎上しただろう。

ヘンリー夫婦に長男が生まれる際、肌の色を懸念した人物は2人いたという DOMINIC LIPINSKIーPOOLーREUTERS

「つなぎ」の王と呼ばれ

『エンドゲーム』が描く国王とその世継ぎは、互いにすさまじい対抗心を燃やす。

22年にウィリアムとキャサリン夫妻のカリブ海諸国歴訪が訪問先で抗議活動を引き起こして散々な結果に終わると、国王は「他人の不幸は蜜の味とばかりに喜んだ」。

ウィリアムも負けてはおらず、自分の道を行くつもりだと帰国後に発言した。これをチャールズのある側近は「無礼」、別の側近は「もってのほかだ」と非難した。

ウィリアムも王室職員の多くもチャールズを「つなぎ」の国王、エリザベスの治世からウィリアムの治世への「橋渡し役」と見なしていると、スコビーは主張する。

とはいえチャールズは現在75歳だから、あと20年は王位にとどまるかもしれない。そしてスコビーの見るところ、ウィリアムは跡を継ぎたくて既にうずうずしている。

「王室は長く厳しい冬を迎えつつある。現国王の治世は今後20年続くかもしれず、当面歴史に残るようなイベントはない。在位の節目を祝うジュビリーも結婚式も子供の誕生もない。王室はそんな冬の時代をどう乗り切るのか。

過去の王室は国民の関心を引き付けるこうした華やかな行事に頼ることができたが、これからは本質で判断される。仕事ぶりに注目がいく。王室は何をするのか。どんな影響力を発揮するのか」

王室が人種差別などの難しい問題を突き付けられるなか、今後のカギを握るのはウィリアムとチャールズのライバル関係だとスコビーは考える。

多様性を欠く王室の在り方や奴隷制に関与した歴史に対する及び腰な姿勢を、『エンドゲーム』は批判する。奴隷制との関わりを詳解し、メーガンの処遇にも触れる。

「題名を『エンドゲーム』(終局、終盤戦の意)とした理由を聞かれるが、私は王室が終わったとは考えていない。だが終わる可能性はあると思う」と、スコビーは言う。

「どうなるかは王室次第。社会でどれだけ存在意義を発揮できるかによるが、ヨーロッパでは一般に王室の重要性や存在感が薄くなっており、英王室は今後私たちが知る王室ではなくなるかもしれない」

王室にとって大きな障害となるのが王と皇太子の「身勝手な思惑、エゴ」だと、スコビーは指摘する。「2人はやられたらやり返している感じだ。最近も注目度の高い公務をバッティングさせ、潰し合っている」

とはいえウィリアムの資質に疑問はないと言う。

「王室の職員は一丸となってウィリアムを支えている。非常に有能で現代的な君主になると信じ、多大な期待をかけている。一方チャールズは王室が発信する情報の中でさえ、つなぎの国王という扱いだ。

そもそも即位する以前から、チャールズは国王の器ではないと感じる人間が女王周辺とバッキンガム宮殿の内外には大勢いた。

それだけでも王室内に不穏な力関係が生じることになる。今は正統な君主であるチャールズが、君主を務めている時代。だがいずれウィリアムは父を挑発するだけでなく、正面切って対決姿勢をあらわにするかもしれない」

時代に合わせた改革を

今の世界に王室の居場所はあるのかと問いかける一方で、『エンドゲーム』はゴシップも盛りだくさんだ。

皇太子妃のファンを含む昔ながらの王室支持者は、その内容に反発するかもしれない。本書が描くキャサリンは覇気がなく、元側近に「職員をいら立たせ、やる気をくじく」と評される人物だ。また、ある情報筋によれば、彼女は「メーガンに話しかける時間より、メーガンの噂話をする時間のほうが長い」という。

一方ヘンリーとメーガンは「かつてなく強い絆で結ばれ」「本当に幸せ」だと、親しい友人が証言している。

「メディアの多くの人間にとって」と、スコビーは書く。「キャサリンは王室最後の『華』だ。ウィリアムが皇太子から王へと次第に堅苦しい存在に変わり、ヘンリーとメーガンが王室を離れたとなれば、彼女は今後一層そうした目で見られるだろう」

タイトルとコンセプトからして『エンドゲーム』は君主制の崩壊をにおわせる。だがウィリアムばかりかその息子ジョージの時代まで君主制が続く可能性はあると、スコビーはみる。ただし王室が世界に居場所を確保するには、時代に合った改革が必要だ。

「私は君主制の終焉を宣言しているわけではない。ウィリアムやジョージ王子が王位に就く見込みを否定しているわけでもない」と、彼は言う。

「だが王室は世界と歩調を合わせて近代化してこなかった。その規模、存在感、重要性と意義において王室は安泰ではなく、生き残れるかどうかは今が正念場だろう」

 「Endgame: Inside the Royal Family and the Monarchy's Fight for Survival」
  Omid Scobie[著]
  Dey Street Books[刊]
 

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


『エンドゲーム』について話すオミッド・スコビー

Exclusive: Omid Scobie Reveals Royal Revelations Inside His Explosive New Book | This Morning

  

ジャック・ロイストン(英王室担当)

この記事の関連ニュース