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米英がイエメンの「フーシ派」拠点を攻撃...親イラン武装組織は軍備増強で、ここまで危険な存在になっていた

ニューズウィーク日本版 2024年1月13日 11時48分

<親イラン武装組織フーシ派のレーダーとドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルの保管・発射場所を米軍などが攻撃。その影響は?>

[ロンドン発]ジョー・バイデン米大統領は11日の声明で「米軍は英国とともに、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支援を得て、世界で最も重要な水路の一つであるイエメン沖の航行の自由を危険にさらす親イラン武装組織フーシ派が使用するイエメンの多くの標的を攻撃した」と発表した。

世界的なベンチマークであるブレント原油は1バレル=79.15ドルまで2.25%上昇。米国のWTI原油先物も73.75ドルまで2.4%ハネ上がった。昨年12月の米消費者物価指数(CPI)は対前年で11月の3.1%から3.4%に再び上昇している。イスラエル・ハマス戦争で中東が不安定化し、原油価格が上昇すればインフレが再燃し、世界経済が再び混乱する恐れがある。

中東・アフリカを担当する米中央軍の発表では、フーシ派への攻撃はレーダーシステム、防空システム、カミカゼドローン(自爆型無人航空機)、巡航ミサイル、弾道ミサイルの保管・発射場所を標的に行われた。昨年10月17日以降、フーシ派はイスラエルへの制裁を口実にイエメン沖の国際航路で27隻の船舶を無差別に攻撃している。

米中央軍のマイケル・クリラ司令官は「フーシ派とイランのスポンサーは米国を含む何百人もの船員の生命を危険にさらすなど、これまでに55カ国に影響を与えた国際海運に対する違法な無差別攻撃に責任を負っている。彼らの違法で危険な行動は決して許されるものではない。その責任を問われることになる」と述べた。

軍事力を近代化させたフーシ派

バイデン氏によると、攻撃は紅海における国際船舶への史上初の対艦弾道ミサイルの使用を含む前例のないフーシ派の攻撃に直接対応するものだ。海賊行為でも20カ国以上の乗組員が脅迫され、人質に取られている。2000隻以上の船舶が紅海を避け南アフリカの喜望峰回りの航路を取っているため数千キロの迂回を余儀なくされ、数週間の遅れが生じている。

もともとは山岳地帯でのゲリラ戦を得意とするフーシ派はイランの支援を受け、軍事力を近代化させ、ドローンやミサイルを大量に保有している。国際海運への攻撃も最近、エスカレートさせていた。米中央軍によると、9日、フーシ派はカミカゼドローン、対艦巡航ミサイル、対艦弾道ミサイルによる複合攻撃を数十隻の商船が通過する国際航路に向け行った。

この際、米海軍の空母ドワイト・D・アイゼンハワーから出撃した戦闘攻撃機F/A-18、ミサイル駆逐艦グレイブリー、ラブーン、メイソン、英海軍のミサイル駆逐艦HMSダイヤモンドによって、18機のカミカゼドローン、2発の対艦巡航ミサイル、1発の対艦弾道ミサイルが撃墜された。

11日にもフーシ派は国際航路に向け対艦弾道ミサイルを発射した。ある民間船舶はミサイルが海面に衝突するのを目視で確認したと報告している。米国を含む14カ国は3日の共同声明で、このまま攻撃を続ければ、その結果をみることになるとフーシ派に警告を発していた。

バイデン氏「航行の自由を脅かすことは許さない」

昨年12月、バイデン政権はイエメン沖の国際海運を守るためフーシ派の攻撃を抑止する20カ国以上の有志連合による「繁栄の守護者」作戦を開始。今回の攻撃はこの枠組みとは別だという。国連安全保障理事会は10日、フーシ派が商船への攻撃をやめるよう求める決議を賛成11カ国で採択した。中国、ロシア、アルジェリア、モザンビークの4カ国は棄権した。

バイデン氏は「これらの標的攻撃は米国とパートナーが自分たちの要員に対する攻撃を容認せず、世界で最も重要な商業航路の一つにおける航行の自由を敵対的行為者が脅かすことを許さないという明確なメッセージだ。必要に応じて、わが国の国民と国際通商の自由な流れを守るためのさらなる措置をとるよう指示を出すことを躊躇しない」と強調した。

リシ・スナク英首相も12日、英空軍が、フーシ派が使用する軍事施設に対し標的を絞った空爆を行ったことを明らかにした。「フーシ派の攻撃は重要な貿易ルートに大きな混乱をもたらし、商品価格を押し上げる。国際社会からの度重なる警告にもかかわらず、フーシ派は攻撃を続けており、英米の軍艦に対する攻撃があったばかり。これは絶対に許されない」

軍事シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のサム・クラニー=エヴァンズ准研究員は「紅海の安全確保:フーシ派の海上攻撃にどう対抗するか」という論考で「商船に対するフーシ派の攻撃は高度な兵器を使用しているにもかかわらず、初歩的なものだ。しかし西側がフーシ派の能力を効果的に低下させるのは難しいかもしれない」と記している。

船舶の安全確保は不釣り合いな労力を強いる

クラニー=エヴァンズ准研究員は「対艦弾道ミサイルは技術的に重要な海上攻撃能力だ。非国家主体がこの種の兵器を保有し、それを平然と使用しているという事実には重大な懸念を抱かざるを得ない。フーシ派が使用できる最も洗練された兵器は対艦弾道ミサイルのアセフで500キログラムの弾頭を搭載でき、400キロメートルの射程を持つ」と解説する。

エヴァンズ准研究員によると、フーシ派はトラックから発射できる対艦巡航ミサイルのアル・マンデブ2も保有している。2016年以降、フーシ派は対艦巡航ミサイルを使って複数の船舶を攻撃し、損害を与えている。ドローンのサマド2やサマド3も使用できる。サマド3は爆発物を搭載して1500キロメートル以上移動できる。

「船舶の安全確保は攻撃側に比して、防御側に不釣り合いなほど資源集約的な労力を強いる。西側が直面する大きな問題はフーシ派のミサイルやドローンを迎撃すること自体が難しいということではなく、むしろそのためのコストと戦術的・戦略的効果のミスマッチだ。西側はフーシ派の攻撃を防ぐため高価な迎撃ミサイルを消費しなければならない」という。

ウクライナがロシアのドローン・ミサイル攻撃に苦戦しているのも攻撃に比して防御にコストがかかり過ぎるからだ。最も実行可能なアプローチは限定的だがフーシ派にとって貴重な軍事アセットに対する限定的な標的攻撃を行うことだという。攻撃こそ最大の防御なりというわけだ。

しかしイスラエルに不意打ちを食らわせたイスラム組織ハマスといい、フーシ派といいイランの支援を受け、軍事力を格段に向上させている。イスラエル・ハマス戦争をできる限り早く収束させないと火種は中東全域に広がり、鎮火するのはさらに困難になる。


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