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2024年、中国による「台湾侵攻」はあるか?中国の行動を予測する2つのポイント

ニューズウィーク日本版 2024年1月16日 18時47分

<中国大陸と香港ではどう猛なトラとなる中国だが、台湾との関係では力を行使できていない。軍事力・経済力ともに巨大化する中国が台湾併合に踏み切る条件は、どの程度整っているのか?>

今年、中国は1949年に共産党政権が誕生して以来最も強力に、台湾併合に向けて動くだろう。

習近平(シー・チンピン)体制の中国は、空前の経済力と軍事力を擁し、台湾併合という夢の実現に歴史上最も近づいている。

しかし、習も気付いているように、「歴史上最も近い」ことと「あと一歩」はイコールではない。

中国経済は根深い不安材料を抱えていて、軍の部隊や上層部の実力も疑わしい。

コロナ禍への対応をめぐり、習に対する国民の支持も大きく落ち込んでいる。

そして西側諸国の間では、中国による台湾への軍事攻撃は容認できないというコンセンサスが新たに形成されている。

もしそのような行動に出れば、中国にとって深刻な結果を招きかねないとのメッセージが発せられているのだ。

こうした点を考えると、今後の中国の行動に関して指摘できる重要な点が2つある。

第1に、中国は台湾侵攻を無期限に先延ばしせざるを得ない可能性が極めて高く、差し当たりは「平和的な浸透工作による統一」を目指すしかない。

第2は、中国が台湾を攻撃するとしても、その判断は自国の態勢と国際社会の反応によって決まる。台湾でどの政党が与党になるかも含めて、それ以外の要素はほとんど関係ない。

この点は、香港の経験を見ればよく分かる。

香港の民主派勢力の多数派は長年、独立を主張しなければ、厳しい弾圧はないと考えていた。ところが実際には、そうした勢力も、独立を主張していた勢力と同じように迫害を受けることになった。

要するに、中国にとって台湾侵攻に踏み切れる条件が整えば、台湾の与党がどの政党かに関係なく中国は侵攻する。

侵攻できる条件が整わなければ、侵攻はしない。現状では、中国は数々の問題を抱えていて、台湾を侵攻できる状況にないのだ。

これまで、中国の脅威は常に誇張されてきた。

台湾で独立志向の強い民主進歩党(民進党)が政権を握ると、中国は激しい言葉を浴びせ、通商政策で圧力をかけ、台湾周辺で軍事演習を行い、台湾を外交的に孤立させようとするなど、攻勢を強める。

だが、それ以上のことはできていない。

中国は民進党政権の台湾に大きな打撃を与えることも、それとは逆の立場を取る中国国民党(国民党)政権の台湾に大きな恩恵を与えることもできていない。

台湾経済は国民党の馬英九(マー・インチウ)前総統の時代より、民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)の総統就任以降のほうが明らかに堅調だ。

そう、強大な中国も全能の存在ではないのである。

トラを甘やかす必要性を感じず

独立派の李登輝が勝利した96年総統選の前に、中国は台湾周辺で軍事演習を行い、ミサイルを発射したが、何も起こらなかった。

2022年に当時の米下院議長ナンシー・ペロシが台湾を訪問した後にも、中国は過去最大の軍事演習を行ったが、このときも大きなことは起こらなかった。

中国共産党は、自国の主権が及ぶ中国大陸と香港ではどう猛なトラだが、台湾との関係では張り子のトラにすぎない。

世界の民主主義国が台湾への揺るぎない支持を表明し続ければ、この点は変わらないだろう。

西側諸国の首脳たちは以前、中国のはったりを受けて立とうとしなかった。

自国企業の対中ビジネスの足を引っ張りたくないと考えたためだ。

しかし、中国経済の状態が悪化し、投資家が大挙して中国市場から引き揚げるようになり、西側諸国の政府はこの張り子のトラを甘やかす必要を感じなくなった。

12月末、今回の総統選の立候補者たちが参加したテレビ討論会で、こうした情勢の変化を浮き彫りにする出来事があった。

野党候補の1人である柯文哲(コー・ウェンチョー)前台北市長が民進党候補の頼清徳(ライ・チントー)副総統に、「あなたが言う台湾独立の考え方を現実的にどのように前進させるのか」という問いをぶつけた。

独立に前のめりの発言を引き出すことで、中国政府に頼を攻撃させ、米政府にも現状維持を揺るがすトラブルメーカーとして頼を批判させようと考えたのだろう。

頼はこう回答した。

「台湾独立とは、台湾の主権が台湾の2300万の人々だけに属し、中台が互いに従属しないことを意味する。私はこの現状を維持して台湾を守るために、最善の努力をする」

頼は、台湾の政治家なら誰も異論を挟めない現実を述べると同時に、これまでタブーだった台湾独立をその現実と巧みに結び付け、独立という考え方を明確に正当化したのだ。

中台の力関係はより拮抗

中国は戦争の脅しをちらつかせていたが、今回、米政府の姿勢は全く揺らがなかった。

国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官も中国に対して、総統選に干渉しないよう直ちに警告した。

柯の戦術は空振りに終わり、台湾独立をめぐってアメリカと台湾が期せずして足並みをそろえる形になった。

これは、中国経済が絶好調に見えていたクリントン政権、ブッシュ(息子)政権、オバマ政権の時代には到底考えられなかったことである。

今後、民進党が政権に就いているときは独立に向けてさらに前進するだろう。

一方、国民党が政権を奪取しても、中国共産党とは距離を置き、選挙期間中よりもアメリカに接近する可能性が高い(国民党の幹部たちは昔から、個人資産をアメリカに置いている場合も多い)。

台湾は、誇示していないだけで着々と力を蓄えてきた。

ジェット戦闘機や潜水艦の開発を進め、北京や上海を攻撃できるミサイルもひそかに配備している。

先端半導体で世界の市場をほぼ独占していることも、台湾にとって強力な武器になり得る。

対照的に、中国は仰々しい脅しをかけてはいるが、その中身は新味に欠ける。

オーストラリア産のワインに高い関税をかけたり、日本へのレアアース(希土類)輸出を停止したりといった戦術は、効果を発揮していないように見える。

台湾が中国を恐れるべき状況にはないのだ。

中台の力関係はより拮抗したものになる可能性が高い。

それは世界平和にとっても好材料と言える。

練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

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