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「少額で始められ安定した収入と節税効果が」は、どこまで本当? 流行中の「不動産小口化商品」の実態

ニューズウィーク日本版 2024年1月19日 18時8分

<少額で不動産に投資でき、安定した収入と節税が見込める不動産小口化商品だが、投資対象の実態とリスクは正しく理解しなければならない>

今、不動産小口化商品という投資が投資家の中で脚光を浴びている。

1995年に不動産特定事業法が制定され始まった金融商品であるが、一般的に広まったのは、この10年ぐらいであろう。

許認可を受けた事業者が、不動産投資を目的とする組合を作り、投資家は、その出資した金額の割合でオーナーになり、その対象不動産を一定期間所有した後、売却され、出資金が返還されるという仕組みである。ざっくり言えば、数百人の投資家みんなで不動産の大家になって、その家賃を出資金の割合で分けるというイメージであろうか。

少額で不動産に投資ができ、安定した賃料収入と節税が見込め、投資対象を上手く選びさえすれば、手堅くメリットの大きい投資となる。ただし、設立する組合の方式によっては、そのメリットを享受できない事も有るので、事前に必ず確認することが必要である。

大きく分けて、事業の組合は、匿名組合型と任意組合型に分かれるのであるが、匿名組合型は、対象不動産ではなく事業者に出資している形となる。よって不動産の登記はされない(=所有権を主張できない)代わりに、出資後のコストは、ほぼ管理費程度となる。

方や、任意組合型の場合は、対象不動産に出資した形になり、出資割合で登記されるので、取得時の登記費用や一般の不動産所有と同じく固定資産税などを負担する事になる。

匿名組合型・任意組合型それぞれの長所と短所

前者は、投資期間中における保有コストが少ない為、得られる収入は大きくなるが、万一、その事業が破綻した場合には、出資金を返還させる術がない為、出資金は戻ってこない可能性が高い。任意組合型の場合は、登記によって自分の保有する所有権分が保全される為、安全性の面では、この組合の方式によって大きな違いがあるのである。

又、任意組合型であれば、出資金の評価は、不動産評価となるので、大きな節税効果が見込めるが、匿名組合型の場合は、事業者への投資となる為、不動産評価にならず、一切の節税効果は見込めない事も正しく認識をしておかねばならない。

このように、不動産小口化商品と言っても、組合の方式によって、全く違った投資商品となるわけで、特に、匿名組合型の出資の場合は、不動産事業のスキーム以外にも、投資家から多額の資金を集める手法として以前からも使われ、それが度々大きな投資詐欺事件にまで発展しているケースもあるので、注意が必要である。

ほかにも、いずれの方式にも共通する不動産小口化商品の大きなリスクとして、事業の特性上、一定期間は解約不可で出資金が返還されないという制限を設けられているケースが多く、この場合、資金が必要なタイミングで換金する事が出来ないという点がある。

仮にその事業の期間が5年だとすると、5年後の対象不動産の地価がどうなっているかを考えねばならない。現在の不動産市況を見てみると、中国、アメリカ、ヨーロッパ、海外の不動産価格は、ほとんどが下落をしている。表立って(あくまで表立ってである)、下落という兆候が見られていないのは、日本だけなのである。

今後、日本も同様に地価は下落をすると考えるのであれば、始めの出資金は、額面を割れて返還されるという事になる。要は、高値掴みする投資になる可能性が高いという事である。そして、投資期間中に下落の兆候が見られたとしても、投資家は何もできず、出資したお金が棄損していくのをただただ見ているしかないのである。

それぞれの事業のリスクを見抜き、軽減する方法は?

幸い、この10年程度の日本の地価は上昇傾向であった為、今まで組成され、運用期間を終えたものは、家賃収入、節税、そして、売却益とこの投資のメリットをすべて享受できたわけであるが、不動産小口化商品は、その名の通り不動産投資であるわけで、不動産価格の下落で元本が、月々のわずかな収入程度では、カバーできない損失を負う事があることを頭に入れておかねばならない。これが、他の金融商品の株や投資信託と大きく違う点である。

では、どうしたらリスクを見抜き、減らす事が出来るのであろうか?

まずは、事業の財務管理報告書を確認すると共に、事業母体を調べる事が必要である。不動産小口化商品の投資では、投資家保護の為、出資金が正しく運用されていることを監視する監査会社がスキーム上あるのだが、その監査会社が事業者と同じ住所のケースもある。これは、事業者が出資金を集める為に単に体裁を整えただけにすぎず、実態は同じ会社であり、これでは出資者のお金が正しく監査されているとは言い難い。

又、広告で「低リスク」「預金感覚で」などとうたっているものもあるのだが、株式投資がミドルリスク・ミドルリターンの投資に分類されるのであれば、不動産小口化商品にはそれ以上のリスクが内在しているわけで、低リスクであるはずは無く、むしろ高リスク、と筆者は考えており、無論、預金感覚で行ってはいけないのは、説明したとおりである。

まだまだ黎明期である不動産小口化商品は、玉石混交である。故に、消去法にはなるが、破綻リスクが高い匿名組合型を避け、経営母体がしっかりしている事業者であるものを選び、且つ、投資対象の不動産の価値が下がらないと思われるものを選ぶ、これが不動産小口化商品の一つの選び方となるのではないだろうか。

咲本 慶喜(さきもと・よしのぶ)

不動産会社GO STRAIGHT 代表取締役
国立埼玉大学経済学部卒。不動産業界に 30 年従事し現在に至る。投資マンションから借地底地までの幅広い不動産の売買、不動産活用のコンサルティングを行う。自らマンション・ビルを所有し、不動産投資を実行。自己所有の賃貸物件は独自のノウハウにより、常に100%近い稼働率を誇る。また、海外ファンドを購入するなど金融投資にも明るく、年間利回り数百%という驚異的な投資運用実績があり不動産と金融投資の両面のノウハウを持つ。

咲本慶喜(株式会社GO STRAIGHT代表取締役)

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