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「正確かつ合法的な攻撃に最適な兵器」イスラエル軍ドローンの操縦士が語る戦場の現実

ニューズウィーク日本版 2024年1月18日 11時13分

<民間人の犠牲者増に、イスラエルはハマスが「人間の盾」として意図的に非戦闘員を危険にさらしていると反論する。戦場はドローンを使った「より精密な攻撃」にシフトしつつある>

ほぼ瓦礫の山と化したパレスチナ自治区ガザで、今もイスラム組織ハマスの掃討に向けた戦いを続けているのは地上部隊だけではない。

前線から遠く離れたイスラエル軍ドローン指令室でも、静かな空中戦が繰り広げられている。

機密と本人の身の安全を守るため匿名を条件に取材に応じた「大尉D」によれば、今でも国産の「エルビット・ヘルメス」を中心とする数十機のUAV(無人航空機=ドローン)が常時、ガザの上空を飛び回り、所定の(あるいは出撃後に指示された)標的への攻撃に備えている。

ドローンは「正確かつ合法的な攻撃に最適な兵器だ」。大尉Dは本誌にそう語った。

もちろん、イスラエル軍にも合法的な作戦遂行に関する指針はある。

それでもイスラエル軍の猛爆に対する国際的な非難の大合唱はやまない。

民間人の死傷者が増え続けているからだ。ガザの保健当局によれば犠牲者は2万3000人を超え、その大半は女性と子供だという。

匿名で取材に応じたイスラエル軍の法律顧問は、民間人の死傷者数が非常に多いことを認めつつも、自軍は国際法にのっとって民間の被害を減らすべく最大限の努力をしているが、ハマスが意図的にパレスチナの非戦闘員を危険にさらしていると反論した。

言うまでもなく、ハマス側はこの主張を強く否定している。

しかし、いくら政治の世界で倫理性や合法性に関する議論があろうと、大尉Dとその仲間たちは日々、粛々と任務を遂行するしかない。

ドローン戦と言えば遠隔操作のイメージだが、イスラエルの国土は狭く、戦場とは壁一枚で接している。

アメリカなどの大国と違い、安全な距離を保つことは地理的・物理的に不可能だ。

大尉Dによれば、基地から前線まではわずか30分の距離。戦場に出向いて現場の兵士と協議することも多いという。

「車で基地に向かうだけでも命懸けだ。個人的な心配事もある。拉致された友人もいるし、殺された友人もいる」と大尉Dは打ち明ける。

「でも基地に足を踏み入れた瞬間に気持ちを入れ替える」

まずは会議室に出向く。そこで毎日、前回のミッション以降に起きた作戦遂行条件の変化に関するレクチャーを受ける。

大尉Dによれば、そのレクチャーには「そこにどれだけの民間人がいるか、任務の遂行にどれだけの注意が求められるか」も含まれる。

次に、操縦士たちは3人1組に分かれて必要な準備をし、それが済んだらドローン指令室に入り、コンピューターの画面の前に座る。

右手に座った者がカメラを操り、許可が下りたら攻撃を実行する。左手にはその日の責任者が座り、常に本部や当直の情報部員と連絡を取り合う。

国産UAVの前で演説するネタニヤフ首相 AMIR COHENーREUTERS

攻撃中止は珍しくない

大尉Dは、右の席に着く日もあれば左の席に着く日もある。

3人目の操縦士は一歩下がって全体の状況を把握し、見間違いや聞き違いをチェックするのが役目だ。

「ひとたび攻撃許可が下りると、みんな押し黙る」と大尉D。

「攻撃に集中する。ただし交信中の者なら誰でも、いつでも攻撃中止を要請できる。そうしたら攻撃は中止だ」

攻撃中止を求められるのは珍しいことではないと大尉Dは言う。そういうときは「すごく残念」だと思う。

「なぜかって? もちろん、民間人を撃てないからじゃない。ハマスが民間人や子供を、冷酷かつ最悪の方法で利用しているからだ」。

大尉Dはそう言って、さらに続けた。

「ロケット弾の発射装置を背負ったテロリストが子供の手を引いているんだ。そうすれば攻撃されないと知っているからだ。そんな光景を目にしたら、夜も眠れなくなる」

無論、パレスチナ側にも言い分がある。

イスラエル軍が作戦行動において模範的な人道上の配慮をしているなんて、とんでもない、彼らは意図的に民間人を標的にし、保護されるべき病院や避難所を攻撃していると反論する。

ただしイスラエル側は、そうした場所にハマスの軍事施設があると主張している。

ハマスの幹部で広報官のガジ・ハマドは、そうしたイスラエル側の主張を「ナンセンスな嘘」と一蹴した。

「ハマスが民間人を人間の盾にし、その命を危険にさらしている証拠はどこにもない。そんなことは私たちの信仰にも、モラルにも反する」とハマドは言い、こう続けた。

「一方でイスラエルは無差別に民間人を殺害している。1万人の子供、7000人の女性、108人のジャーナリストを含む2万3000を超える人々を殺し、100人以上の国連スタッフを殺した。イスラエルは、その怒りの矛先を民間人に向けている。軍事的な目標を達成できず、(ハマスの人質となっている)イスラエル人を解放できていないからだ」

現地では激しい戦闘が続き、確かな情報が得られる状況ではないが、国連は紛争当事者双方による戦争犯罪についての調査に乗り出した。

これを受けて、イスラエル軍はリアルタイムで作戦行動に助言する法律専門家のネットワークを立ち上げた。

前出のイスラエル軍法律顧問によれば、現時点で100人以上の法律家が任務に就いている。

その多くは予備役で動員されたプロの弁護士だ。このネットワークは軍の法律顧問団に属しており、実戦部隊の参謀本部から独立している。

助言の多くは電話で行われるが、各旅団には法律家1人が配属され、旅団司令官と密に連絡を取っている。

イスラエル軍の爆撃で破壊された住宅跡に集まる人たち(昨年12月、ガザ地区南部ラファ) SHADI TABATIBIーREUTERS

イスラエルは公式に認めていないが、レバノンでは先日、イスラエル軍のものと思われるドローン攻撃によって、ハマスとイスラム教シーア派組織ヒズボラの幹部2人が殺害された。

今回の戦争が新たな段階に入ったことを告げる展開かもしれない。

アメリカが「より正確で、より特定された標的」への攻撃を求めて圧力を強めるなか、イスラエル軍はガザに展開する地上部隊を縮小し、ドローンによる精密攻撃を重視する方向にある。

その場合、標的を事前に設定できるのであれば、まずは軍の法律部門が主導して確立したプロトコルに基づき情報を精査。

標的が合法的な軍事的脅威と判断されたら、その先は武器の専門家や作戦の指揮官、そして法律顧問が協議して作戦の詳細を詰める。

空中で新たな標的を見つけた場合はどうか。

現地の状況は流動的だから、そういうケースも珍しくない。しかも通常より迅速な対応が求められる。

それでもイスラエルの兵士には国際法上の区別(軍事目標と民間人・施設の区別)と均衡性(想定される軍事的利益に比べて不相応な武力を用いない)の原則に基づいて行動することが期待される、と前出の法律顧問は言う。

「救急車攻撃」は封印

この法律顧問によれば、イスラエル軍が殺傷力のある武器を向けるのは戦闘員または直接的な脅威をもたらす者に対してのみであり、軍務に就けそうな年齢層の男性を無差別に標的としているとの主張は当たらないという。

それでも間違って民間人に多くの被害が出てしまうことはある。

その場合は、やはり独立性の高い機関で状況を精査し、必要に応じて軍の法律顧問団による調査を求める。

こういうシステムがあるから自分は「安心して」作戦を遂行できる、と大尉Dは言った。

自分のやっていることは国際法の許容範囲内だと確信できるからだ。

それでも戦場の現実は日々刻々と変わるから、それに合わせて軍の作戦遂行手続きには修正が加えられるそうだ。

なにしろ「こちらも敵も次々に新しい技術」を投入しているし、民間人の死傷者数に関する懸念から新たな指示が出されることもあるからだ。

「いろんな基準や手続きが変更された。周囲の民間人を利用するハマスの手口がますます巧妙になっているからだ」と大尉Dは言い、「こちらもそれだけ賢くならねばならない」と付け加えた。

例えば、ドローンで救急車を攻撃することはやめた。

ハマスの戦闘員が救急車を軍事目的で使用していると確認できた場合でも、「民間人に多大な被害が出る事態を防ぐため」に、あえて封印した。

それでも大尉Dは、ドローンが有効な兵器だと確信している。なぜか。

「結局こいつは戦争なんだ。戦場の混沌の中で圧倒的なベストを尽くすため、より多くの無人航空機を、より多くの精密な兵器を使うんだ」

トム・オコナー(本誌中東担当)

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