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地球に優しい資産運用「グリーン投資」の手引き(前編)

ニューズウィーク日本版 2024年1月18日 16時0分

<環境に対する問題意識を投資に生かす、温暖化危機の時代に目指したい持続可能な投資(前後編の前編。後編はこちら)>

記録的な熱波、大規模な嵐、壊滅的な山火事。私たちは今、気候変動の危険性をかつてないほど個人的な経験として突き付けられている。AP通信とシカゴ大学NORC公共問題調査センターが2023年9月に行った世論調査では、アメリカ人の約4分の3が過去5年間に異常気象の影響を受けたと答えており、その割合は5カ月で20ポイント近く増えている。

こうしたリスクを背景に、温暖化対策や環境改善を目標に掲げる投資に資金を振り向ける人が増えている。地球を救いつつ、同時にカネも増やそうというわけだ。

「グリーン投資」としても知られるこうした戦略は、市場のプロと一般消費者の双方に幅広く見られる傾向の1つだ。取引する銀行を決めて、401k(確定拠出型年金)を運用するファンドを選び、商品を購入するブランドを選ぶなど、お金に関する意思決定に際し、厳密に金融的な要素だけでなく非金融的な要素も併せて考慮する。

近年は特に、環境(E)・社会(S)・企業統治(G)の3つの基準を銘柄選びに組み込むESG投資に資金が流入している。非営利団体の持続可能・責任投資フォーラム(US SIF)によると、ESG投資の総資産は約8兆4000億ドルに達し、アメリカの投資資金全体の約12.6%に相当する。言い換えれば、投資家の資金8ドルにつき1ドルが、ESG投資ファンドに投じられている。

「人々は既に、燃費のいい車や有機栽培の食品を提供するブランドを選択するという形で、サステナビリティー(持続可能性)に関連する消費の意思決定を行っている。投資でも似たような意思決定が行われるようになってきた」と、US SIFの教育ディレクター、マイケル・ヤングは言う。

消費者に求められる責任

個人投資家の関心の高まりを受けて、金融サービス業界はサステナブル投資の戦略に沿った新しいファンドやETF(上場投資信託)を導入しており、最近は気候変動に焦点を当てたファンドが注目を集めている。その数はアメリカだけで数百件に上り、個人が合理的な選択をするのは難しそうにも思える。

グリーンファンドやサステナブルファンドに資金を投じる際は、まず詳細を調べることが重要だ。「グリーン」の看板だけでは、そのファンドがどう投資しているかは分からない。ファンドにはさまざまな戦略があり、運用担当者によってグリーンの定義は異なる。あなたが期待しているよりはるかに「グリーンではない」可能性もある。投資のリターンも大きく違う。

「このような商品が急激に増えていることから、本当に価値があるかどうかを消費者が見極めなければならないときもある」と、サステナブル投資について投資家や資産アドバイザーと協力している資産運用会社エシックのジェイ・リップマン共同設立者兼社長は言う。「品質にもかなりばらつきがあって、金融商品が提唱していることを本当に実行しているかどうか、消費者も責任を持って評価する必要がある」

ニーズに合った選択肢を見つけることは、実はそれほど難しくはない。自分にとって最も重要な問題に焦点を絞り、堅固な実績と優れた将来性に注目するという戦略を組み合わせれば、利益を積み重ねていくことができるだろう。そもそも投資の目的は利益を得ることだ。

賢明な選択をするために必要な戦略を具体的に見ていこう。

どこまでグリーンな投資を目指すのか

ILLUSTRATION BY BRITT SPENCER

グリーン投資の最初の一歩は、どの環境問題が自分にとって最も重要なのかを決めることだと、サステナブル投資について助言しているブルー・オーシャン・グローバル・ウェルスのCEOでファイナンシャルプランナーのマルゲリータ・チェンは言う。

「全ての条件を満たすファンドはないから、自分の目標に優先順位を付けることが重要だ」

あなたが最も関心のある環境問題は何であり、その解決に役立ちそうな投資戦略はどのようなものか。

化石燃料を採掘している企業や公害を引き起こしている企業など、特定の種類の企業を避けたいだけなのか。炭素回収や代替エネルギーなど、特定の持続可能性の目標に絞ったファンドを求めているのか、それとも投資戦略全体に環境問題を組み込んでいるESGファンドを望んでいるのだろうか。

さらに、自分がどこまでグリーン投資にこだわるのか、つまり、貯蓄のうちどの程度をグリーン投資に投じるつもりかということや、他の投資や全体的なファイナンシャル計画との関係も検討する。

さまざまな業種の株式や債券、現金などを幅広く組み合わせて保有するファンドは、リスクとリターンのバランスを取りやすい。価格の急落や急騰の影響は小さくなるだろうが、長期的なリターンはやや少なくなる可能性がある。

一方で、特定の環境目標に絞ったファンドは銘柄の多様性が薄れる。その場合、価格変動の影響は大きいが、将来的には、幅広い投資戦略より大きなリターンを得られる(あるいは、より大きな損失を出す)可能性がある。

投資戦略によってリターンはまちまち

ILLUSTRATION BY BRITT SPENCER

目標がはっきりしたら、次はファンド選びだ。「幸い、ファンドやETFの数は昔よりはるかに増えていて、コストも下がっている」と、チェンは言う。「問題は、ファンドを選ぶのが途方もない大仕事に思える場合があることだ」

投資評価会社モーニングスターによれば、23年半ばの時点で、サステナブルファンドの数はアメリカだけで650以上ある。この数は、23年初めに比べると11%増だ。

その中には、旧来型の投資戦略に従ってさまざまな業種の有力企業の株式(と債券)に投資しつつ、ESGを基準に企業をふるいにかけ、環境汚染を生み出していたり、温室効果ガス排出量が多かったりする企業を除外するといった具合だ。

一方、温室効果ガスの排出削減など、気候関連の目標達成を支持している企業や、サステナビリティー関連の革新的なテクノロジーの開発に取り組んでいる企業に絞って投資するファンドもある。

サステナブル投資では、どれくらいのリターンを期待できるのか。旧来型のファンドと同様に多くの優良企業に投資しているファンドは、運用成績も旧来型のファンドに近いと、モーニングスター・リサーチ・サービスのアリッサ・スタンキェウィッツは指摘する。

その点、厳しい基準で企業をふるいにかけるファンドは異なる。「除外する業種が多く、そうした業種の規模が大きいほど、運用成績は旧来型のファンドと大きく乖離する」と、スタンキェウィッツは言う。

22年、大半のESGファンドの成績は旧来型のファンドを下回った。その一因は、大手エネルギー企業など、大きく値上がりした銘柄への投資が少なかったことにある。

しかし、過去3年間もしくは5年間のデータを見ると、ESGファンドは概して旧来型のファンドより成績がよい。しかも、この種のファンドの成績は再び上向き始めているようだ。23年初めから10月20日までの間に、構成銘柄の選定基準にESGの要素を組み込んだ株価指数である「S&P500ESG指数」は、標準的な指数のS&P500より大きく上昇している。

■後編はこちら



ペネロペ・ワン(金融ライター)

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