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実効支配のしるしに老朽船を座礁させて籠城、中国の妨害を避けて空から補給をやってのけたフィリピンのゲリラ戦法

ニューズウィーク日本版 2024年1月23日 15時49分

<フィリピン軍が物資を空中投下した際の様子を捉えた写真をソーシャルメディア上で公開>

フィリピンは1月21日、中国と領有権を争っている南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の環礁に物資の空中投下を行った。

【画像】フィリピンが南シナ海のセカンド・トーマス礁に座礁させた実効支配の拠点

セカンド・トーマス礁には、フィリピンの実効支配の象徴として意図的に座礁させた戦車揚陸艦シエラマドレ号が鎮座しており、海兵隊員が常駐している。フィリピン軍は通常、補給船を使って物資補給を行うので、空中投下は極めて異例だ。

 

シエラマドレ号は20年以上前に、フィリピンがスプラトリー諸島の領有権主張を強化する目的で意図的にセカンド・トーマス礁に座礁させたもので、中国側による同海域の実効支配を阻止する役割を果たしている。同様にフィリピンと中国が領有権を争うスプラトリー諸島のスカボロー礁は、2012年から中国が実効支配している。

フィリピン軍はソーシャルメディア上に、週末に行われた物資の空中投下の様子を複数を投稿した。フィリピン政府所有のプロペラ機の乗組員が扉を開けて、袋に入った補給物資を海に投下する様子、シエラマドレ号に常駐するフィリピンの海兵隊員が海面に浮かぶ物資の袋を回収する様子などが映っている。

空からの物資補給は例外的な措置で、今後シエラマドレ号の乗組員らに対して定期的に物資の空中投下が行われるかどうかは、まだ分からない。

エスカレートする中国の妨害行為

平時と有事の間の「グレーゾーン」での危険行為を監視・報告する米スタンフォード大学のプロジェクト「スターライト」を率いるレイ・パウエルは本誌に対して、「写真を見る限り、空から投下された物資の量は多くない。応急措置として行われたと考えるべきだろう」と述べた。

パウエルはまた、フィリピン側の今回の輸送作戦は、補給船を使った通常のより大規模な物資補給の間隔を「わずかに延ばす」だけだと指摘。航空機で運べる貨物の量は限られているため、中国側も今回の空中投下にはさほど神経質にはならないだろうと言う。もっとも「もしフィリピン側が今後、大型化が可能な水上飛行機やフロート付き飛行機に投資すれば、物資輸送の選択肢は増えることになる」とも述べた。

中国は、シエラマドレ号を座礁させる行為は違法であり、中国の主権を侵害するものだと主張している。専門家は、フィリピンが船でシエラマドレ号に建設資材などの物資を運び、フィリピンが主張する実効支配を具現化したものを作るのを阻止または妨害すしようとしていると言う。

数カ月前には、無人の礁に物資を輸送しようとしたフィリピン船に、中国側が中国海警局や海上民兵の船を送り込んで妨害し、緊張は激しさを増している。

2023年12月には、中国海警局の船がセカンド・トーマス礁の近海でフィリピンの補給船に放水銃を発射。フィリピン側の少なくとも1隻がエンジンに損傷を受け、フィリピン軍の参謀総長が乗っていた別の補給線は中国側の船と衝突した。

中国は南シナ海の大部分について領有権を主張しており、この中には国際的に認められているフィリピンの排他的経済水域内にあるセカンド・トーマス礁(フィリピン名はアユンギン礁、中国名は仁愛礁)が含まれている。

2016年にはオランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海における中国の主張を認めない判断を下しており、フィリピンなどのアジア諸国や欧米の政府は、この判断に法的な拘束力があると主張している。一方の中国は、1982年の国連海洋法条約に基づくこの判決は無効だと主張している。

 

ジョー・バイデン米大統領をはじめとするアメリカの当局者らは、アメリカとフィリピンが互いに武力攻撃を受けた際に防衛し合うことを定めた米比相互防衛条約は、南シナ海での攻撃にも適用されると繰り返し中国に警告している。

現状が変わることへの期待は薄い

フィリピンと中国の当局者は1月17日、南シナ海での緊張緩和や武力行使の回避について協議を行った。だが双方とも、領有権を争う姿勢を変えるつもりはない。

フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は地元メディアに対して、中国との協議に「大きな期待を寄せて」いるものの、現状が大きく変わることは予想していないと述べた。

本誌はこの問題についてフィリピン軍と中国外務省に書面でコメントを求めたが、返答はなかった。


マイカ・マッカートニー

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