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ロシアのプーチン大統領は20万人の追加招集で「春の攻勢」準備? 「平和を望むなら戦争に備えよ」NATO高官が警告

ニューズウィーク日本版 2024年1月23日 18時23分

<イギリスやスウェーデンの国防トップ、NATO高官などが、中ロやイラン、北朝鮮などの脅威について相次いで警告を発した>

[ロンドン発]グラント・シャップス英国防相は21日の英BBC放送で「国防費は増えており、国内総生産(GDP)の2%を優に超えている。目標の2.5%は経済状況が許せば達成される」と述べた。国防費を3%に増強しない限り、ナチスドイツの指導者アドルフ・ヒトラーを止められなかった1930年代を繰り返す恐れがあるとの元陸軍トップの警告に答えた。

シャップス国防相はこれに先立つ15日、ロンドンのランカスター・ハウスで「平和の配当の時代は終わった。5年以内にロシアや中国、イラン、北朝鮮を含む複数の脅威に直面する恐れがある。今年は間違いなく分岐点になる。ウクライナにとっては国家の命運が決まる年になるかもしれない」と演説した。

「平和の配当」とは緊張時には国防を最大化すべきだが、平和時には最小化できるという考え方だ。過去に戦争を抑止した核兵器による「相互確証破壊」戦略をイラン革命防衛隊や北朝鮮に当てはめても戦争を止めることはできないとシャップス国防相は指摘する。西側と敵対するロシア、イラン、北朝鮮の「ならず者国家の枢軸」と中国はより緊密な関係にある。

理想主義の時代は冷徹な現実主義の時代に変わった。ウクライナへの25億ポンドの追加支援策に続き、英国は今年前半、陸海空軍の2万人を欧州に派遣し、北大西洋条約機構(NATO)とスウェーデンの大規模演習に参加する。クイーン・エリザベス級の空母やステルス多用途戦闘機F-35B、護衛艦からなる空母打撃群も加わる。

ドイツ連邦軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」

ドイツの大衆紙ビルト(電子版16日付)は独国防省の機密文書をもとにロシアと西側との間に早ければ来年に起こり得る「戦争のシナリオ」を独自ネタとして報じている。それによると、ドイツ軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」は今年2月から始まっている。ロシアは新たな動員で20万人を追加招集する。

ウラジーミル・プーチン露大統領は「春の攻勢」を開始する。西側のウクライナ支援は弱まり、ロシア軍は6月までにウクライナ軍を後退させる。7月にはロシアはNATOに加盟するバルト三国にサイバー攻撃を仕掛け、ロシア系住民を扇動する。9月、ロシア西部とベラルーシで5万人の大規模演習「ザパド2024」を始める。

10月、ロシアはNATOの攻撃が差し迫っているというデタラメの口実で軍隊と中距離ミサイルを飛び地のカリーニングラードに移動させる。クレムリンの狙いはベラルーシとカリーニングラード間のスヴァウキ・ギャップだ。米大統領選で生じる空白を突いて12月にスヴァウキ・ギャップで「国境紛争」と「多数の死者を伴う暴動」を引き起こす。

来年 1 月の NATO特別会合でポーランドとバルト三国がロシアからの脅威増大を報告。ロシアは 3 月にベラルーシに追加部隊を移動させ、駐留規模は7万人以上に膨れ上がる。NATOは5月にスヴァウキ・ギャップへのロシアの攻撃を抑止するための措置を決定し、ドイツ軍の3万人を含む計30万人を配備するというシナリオだ。

「スウェーデンで戦争が起こる恐れがある」

伝統の中立政策を捨て、NATO加盟に舵を切ったスウェーデンのカール・オスカー・ボーリン民間防衛相は7日、「国民と国防」年次全国会議で「約210年間、国民にとって平和は不動のものだという考えはごく身近にある。しかし、この結論に安住することは危険だ」と演説した。スウェーデンにとって最後の戦争は1814年、隣国ノルウェーとの間で起きた。

「赤裸々に言わせてもらおう。スウェーデンで戦争が起こる恐れがある。恐怖に訴えることが第一の目的ではない。現状認識に訴えることが目的だ。もし戦争が起こったら、あなたはどうする。プーチンは2014年にすべてのウクライナ人を目覚めさせたことを理解せずに、22年2月に本格侵攻し、ウクライナ社会全体の統合された力に直面した」

ボーリン民間防衛相は「社会の復元力には現状認識が必要だ」と強調する。時間が最も貴重な資源だ。防災当局の幹部なら、戦争組織を構築し、どの活動を続けるのか決めなければならない。身を守るための安全や代替指揮地へのアクセスは確保されているのか。自主的な防衛組織と協定を結んでいるのか。今すぐに行動を起こすよう同民間防衛相は呼びかける。

地方自治体の委員なら、戦争組織、避難所、緊急給水計画、医療・福祉施設用の暖房・電気の供給を確保する必要がある。従業員なら職場の戦争組織における役割を雇用主に確認する必要がある。個人も各家庭で備えなければならない。「世界は第二次大戦後かつてないほど大きなリスクに直面している」とボーリン民間防衛相は語った。

NATOと加盟国の国防計画がこれほど密接に結びついたことはない

NATOのロブ・バウアー軍事委員長は17、18の両日、ブリュッセルで開かれた国防相会合で「ルールに基づく国際秩序が大きな圧力にさらされている今、政治的意思と軍事的能力を一致させる重要性はいくら強調してもしすぎることはない。力の地殻変動が起きているのだ。その結果、私たちはここ数十年で最も危険な世界に直面している」と強調した。

「NATOは集団防衛の新時代に突入した。10億の国民と31カ国(間もなく32カ国に)の安全以上に自由と民主主義を守っている。NATOと加盟各国の国防計画がこれほど密接に結びついたことはかつてなかった。同盟国は現在、新しい国防計画の実行可能性を最大化するために積極的に取り組んでいる。NATOの戦争遂行能力の変革が必要だ」

「平和を望むなら戦争に備えよ。備えと抑止力を最大化することは紛争の発生する可能性を最小化する。ロシアの最近の攻撃は壊滅的だが、軍事的には有効ではない。ウクライナ側には実質的な軍事的成功が見られる。30万人以上の死傷者がロシア側に出た。昨年、世界は過度に楽観的だったかもしれないが、今年は悲観的になり過ぎないことが重要だ」

「私たちの社会では紛争や戦争で活動できるのは軍隊だけではないということが理解されていない。好むと好まざるとにかかわらず、社会全体が巻き込まれる。産業基盤もだ。国民も自分たちが解決策の一部であることを理解する必要がある。今後20年何も起きないわけではない。平和であることが当たり前ではないことを認識しなければならない」と釘を刺した。



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