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日本が誇る文化財、輪島塗が存亡の危機...業界への打撃や今ある課題は?

ニューズウィーク日本版 2024年1月24日 12時20分

<「工房の街」がいま風前の灯火に。職人たちが継承してきた伝統を守れるか>

能登半島地震を受け、国の重要無形文化財である輪島塗が存亡の危機にさらされている。石川県輪島市でほぼ全ての輪島塗の関係者が被災するなか、若手の職人などで作る輪島漆器青年会の会長、大工(だいく)治彦(36)はX(旧ツイッター)から復興に向けた義援金の募集を呼びかけている。蔦屋漆器店の7代目でもある大工に、業界への打撃や今ある課題について本誌・小暮聡子が聞いた。

◇ ◇ ◇

──輪島塗のお店や職人さんたちは、今どのような状況にあるのか。

皆さん、商品など物は二の次で避難している。輪島の中だけでもそういうお店がおそらく100軒以上はあって、物を持ち出すことすら難しい。道がガタガタで、どこかに運ぶためのトラックや宅配便も動いていないため物も送れないし、車もない。

輪島市内は断水していて、電気が復旧していないところもある。復興というより災害中のような状態なんです。今はまだ命を守るというフェーズにあって、まだ先のことまで気を向けられないというのが現実です。

──いち早く義援金を呼びかけた。

まずは職人さんの命を守らなければならないし、職人さんのこれからの仕事を守らなければならない。もちろん今あるもの、作ったものを守るというのも大事なのだが、これから作るものを守らなければならないというのが今のところ一番、僕らとしては大事だと思っています。

輪島塗の仕組みの話をすると、まず基本的には塗師屋(ぬしや)さんがお客さんとつながっていて、お客さんから注文を取る、そして仕事をつくる、という仕事をやっている。塗師屋さんが注文を受け、彼らが輪島中にいる職人さんそれぞれに仕事を依頼していく、というシステムになっているんです。

──例えば塗師屋1軒が廃業すると、その先の職人さんたちの仕事もなくなってしまうということか。

そうですね、そこは共依存関係なので。輪島塗の職人さんは全て分業制なんです。大きく分けると5つくらいの工程に分かれていて、土台を作る木地屋さん、次の下地屋さん、中塗りと上塗りという漆を塗る工程、加飾といって模様を付ける工程、その合間に、漆を研ぐ職人さんがいる。職人さんはいろんな塗師屋さんの仕事を請け負っているので、職人さん1人だけが復活しても全ての塗師屋さんの仕事はカバーできない。

また、1つの塗師屋さんが復活したとしても、輪島塗の全体のシステムは復活しない。塗師屋さんがたくさん元気になってこそ、次に職人さんが元気になる。本当に共依存の関係だったので、町全体、輪島塗全体で盛り上がらないと、復興というのはなかなか難しいという状態です。

──避難した人や残った同業者の間で、輪島塗を再生していこうという話は出ているのか。

今はまだそういう話ができる状態ではないんですけど、個人としてはもちろん何とかしたいとい気持ちはあります。現実問題として、輪島塗は震災と関係なく、もともとピンチだったんですよ。若手不足で、技術を継承する人が全くいない。輪島塗がここまで注目されるというのは、僕がこの業界に入って初めてです。こんなにSNSやメディアで輪島塗が注目されることは今までなかった。

今回のことで輪島塗を知って、もしかしたら輪島塗を勉強したり作りたいという若い人が出てくるかもしれない。これから輪島を復興するに当たって、若い人が住みたいと思うような街にしてほしいなと思います。

ゼロから作り出すのであれば、これまでと同じ街に復興するのではなく、若い人を取り込めるような街にしないと。今までの輪島の課題を改善できるような復興プランにしてほしいなと心から思います。



小暮聡子(本誌記者)

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