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今の裁判は「証拠隠し」のゲームに...年収25万ドルの米弁護士が、衣料品店オーナーに転身した理由

ニューズウィーク日本版 2024年1月24日 16時36分

<年収25万ドルの弁護士から北欧衣料の輸入販売に転身。コロナの逆境をはね返して実店舗をオープン>

私は16年間、法廷弁護士をやっていた。プレッシャーはきついが、信念を持って仕事をしてきた。扱うのは、たいてい待遇に不満な従業員を代表して会社と争う事案だった。でも、疲れた。今の訴訟は証拠隠しのゲームと化している。証拠書類は全てデジタルだから、もみ消すのも隠すのも簡単。やりきれなかった。

それで8年前、私は弁護士の仕事を辞めた(当時の年収は25万ドルほどだった)。そして同業者の妻と一緒に、大学院で勉強するためにノルウェーに渡った。オスロ大学でインターネット関連の法を学び、デジタルの世界でビジネスを営むノウハウを知った。この経験が、私たちの人生の新たな展開につながった。

オスロに滞在中、ノルウェーのライフスタイルが米コロラド州、特に故郷のデンバーに似ていることに気付いた。アウトドアや衣服に対する考え方も似ていた。私たちは北欧の小さなブランドを数多く発見し、その品質の高さに感銘を受けた。

アメリカからの旅行者が好んで買うブランドがあることにも気付いた。そこで、こうしたブランドをアメリカで買えるようにしたいと考えた。

素肌にじかに着られるメリノウール

ノルウェーに13カ月滞在した後、2017年8月に帰国した私たちは、翌年から北欧の企業に連絡を取り始め、その製品をアメリカ市場で販売するアイデアを提案した。

北欧の衣類をアメリカで売りたい理由の1つは、アメリカでは手に入らない高品質のメリノウールが使われていることだった。アメリカでは粗い手触りのラムウールが主流で、肌に直接触れるような着方は想定されていない。でもソフトで快適なメリノウールなら、じかに着られる。

メールでのやりとりは面倒だった。当初の売り上げは1日1着程度だったが、それでも運転資金がもったのは弁護士時代の貯金のおかげだ。

18年7月にオンラインストアを開設し、10月にウェブサイトを公開した。最初の1年はネット通販の基礎を学ぶ勉強期間だった。ソーシャルメディアは零細企業にとってありがたいプラットフォームで、見込み客とのやりとりはいい経験になった。

長期的な目標は5年後ぐらいに実店舗を構えることだった。だが20年に起きた新型コロナウイルスの感染爆発が追い風になった。実店舗で買い物ができなくなったため、オンラインショッピングの利用客が増え、売り上げが伸びた。

よそでは買えない「ユニーク」な品を売る

そして私たちは実店舗の世界に踏み出した。1号店のオープンは20年9月。最初の冬のシーズンはロックダウンで客がゼロの日もあったが、とにかく耐えた。今では顧客とリアルに接する機会も増え、出会いを楽しんでいる。顧客にお気に入りの一着を提供する。それが私たちの願いだ。

まだ弁護士時代並みの収入はないが、立派な価値のあるビジネスを構築できていると思う。目標は年商150万ドルくらいの水準だ。

コロナ禍以降、ネット通販の世界は変わった。大企業がデジタル市場に力を入れ始めたので、うちのような小規模業者には厳しい競争になっている。だが実店舗では少し事情が違う。よそでは買えないユニークな製品をそろえているのが私たちの強みだ。

今後はオンラインショップで会社を成長させながら、2軒目の実店舗を出して事業を拡大したい。進化する小売業界への挑戦は困難だが、やりがいを感じている。

ネイト・アクスビグ(北欧衣料販売アクティーフ創業者)

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