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日本人は知らない、能登半島地震に向ける中国人の視線

ニューズウィーク日本版 2024年1月26日 22時25分

<中国SNSで見られた「汚染水の報いだ」という心ない声は少数派。多くの中国人は、震災のニュースに胸を痛めている>

辰年は「龍が暴れる」、つまり凶事が起こる年だと中国では考えられている。

例えば1976年。1月に周恩来、7月に朱徳、9月には毛沢東と、国の指導者が相次ぎ亡くなり、7月には唐山地震も発生した。北京の東方110キロにある唐山市はマグニチュード7.5の大地震で壊滅状態となり、およそ24万人と公表されている犠牲者数は65万人を超えるとの推計もある。

そんなこともあり、中国では昨年から「2024年には何か起こるのではないか」とささやかれていた。

ところがその何かは、中国ではなく日本で起きてしまった。元日に能登半島を襲ったマグニチュード7.6の大地震である。

このニュースは瞬く間に世界中に伝わり、中国のSNSでは心ない一部の人が「汚染水の報いだ」と書き込んだ。昨年夏に福島第一原発の処理水を海洋放出し始めた日本に対し中国では強い反発が起こったが、その天罰だというのである。海南省のテレビ局の有名アナウンサーまでもが「報いが来たのか」と投稿、計3億の「いいね」を集めた(ただこのアナウンサーはその後解雇された)。

全く許し難い中傷行為だが、日本の皆さんには、このような不届きな連中はあくまで少数派だということを知ってもらいたい。どの国のSNSでも同様だが、少数の人の極端な言論が増幅されるのが常である。いつも同じ連中が繰り返し繰り返し反日コメントを書き込むのだ。

実際には「地震は報いだ」という投稿を批判し、「そんなことを言っていたら、中国でまた災害が起こったとき日本が支援してくれなくなるぞ」とたしなめる声、「被害に遭った人々をさげすむなんて動物以下だ」という怒りの声も多数上がっている。

死者・行方不明者が8万7000人に及んだ2008年の四川大地震(中国では「汶川大地震」と呼ぶ)では、日本が救援隊を派遣してくれた。私は当時、TBS系列のニュース番組『NEWS23』のクルーとして現地取材したのでよく覚えている。

手抜き工事で建設されていた学校が多数倒壊し、子供の犠牲者が多く出た痛ましい震災だった。遺体が次々と焼かれていたため、街全体がその臭気に包まれていた。そんな中、遺体を前に整列して黙禱する日本の救援隊員の姿が中国では大きな話題になった。多くの中国人が感激し、日本人に対する考えを変えた出来事だったと思う。

本稿執筆時点で、能登半島地震の石川県の犠牲者は236人、安否不明者は19人。この状況に胸を痛め、強い関心を寄せている中国人は少なくない。

日本政府が各国・地域からの支援の申し出を断っていること、2016年の熊本地震と比べて自衛隊の派遣が少ないことなどが報じられると、「なぜなんだ?」「日本が誇る救援隊はどうした?」とSNSで話題になったほどだ。

ただ、これはどちらも能登半島の地理的条件に原因があるらしい。日本でも野党や国民から国の初動対応を疑問視する声が上がったが、報道によれば、能登半島にはそもそも規模の大きな自衛隊の拠点がない上、山地が大半を占めている。しかも地震で道路網が完全に寸断してしまったため、平野部が被災した熊本地震と比べ支援・救援活動が難しく、人員も状況を見ながら増やしていくしかないのだという。

能登半島は私も旅行や仕事で3度ほど訪れたことがある。焼失した輪島の朝市、崩れてほぼ半分になった見附島(通称「軍艦島」)の映像を見ると心が痛む。これを辰年のせいにしてしまうと被災地の人々があまりに気の毒であろう。

中国には「否極泰来」という言葉もある。悪運極まれば幸運に転ず、という意味だ。元日の悪夢が終わり、新たな光明が差し込むことを信じつつ、一刻も早い復興を願うばかりである。

周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。


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