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「北朝鮮は韓国を攻撃しない」という常識もはや過去? 南北が激突したら強いのはどちらか

ニューズウィーク日本版 2024年1月24日 16時46分

<韓国を「主たる敵」と呼ぶ金正恩は本当に韓国を攻める気があるのか。軍事力を比較した>

2024年は新年早々の北朝鮮による挑発的なミサイル発射実験と、それに対する韓国の不安を露わにした厳しい非難で、すでにきな臭い気配に彩られている。

北朝鮮は韓国だけでなく、その同盟国であるアメリカ、そして自国の安全保障を深く憂慮する日本に対しても、敵意をむき出しにした発言を続けている。

 

しかも北朝鮮の国営メディアが次々と発表する扇動的な声明が、弾道ミサイルの発射実験と相まって、多くの国々の神経をいらだたせている。北朝鮮、韓国ともに軍事費の増額を公約している。

この新たな国際的緊張は、アメリカとその同盟国が中東やヨーロッパでの紛争に対応し、片目では中国の台湾威嚇行動を注視しているさなかに急浮上した。この状況に対して専門家らが議論しているのは、北朝鮮は韓国を攻撃しないという長年の定説を北朝鮮の金正恩総書記は打ち砕くのではないだろうか、また、朝鮮半島で新たな紛争が起きるとすれば、それはどういう性質のものになるのだろうか、といった点だ。

北朝鮮は世界で最も軍事化が進んだ国のひとつであり、「韓国を直接脅かす世界最大級の通常兵器を備えた軍隊」を保有していると、米国防情報局(DIA)は2021年の報告書で発表した。

数の上では二倍の軍事力

統計データプラットフォームのスタティスタが発表した数字によると、北朝鮮の軍事費は2021年には国内総生産(GDP)の4分の1弱だったとみられるが、22年に大幅に増加し、GDPの3分の1弱に達した可能性がある。GDPに占める国防費の割合は、ウクライナに次いで第2位である。

スタティスタによれば、韓国の国防費は2022年の時点でGDPの約2.5%を占めていた。これはNATO諸国や西側同盟国の典型的な防衛費のレベルに近い。

スタティスタが2023年6月に発表したデータに基づく結論によれば、おおまかに言うと北朝鮮が現在保有する軍事力は韓国の2倍以上に達している。

ブルッキングス研究所東アジア政策研究センターのシニアフェローで、アメリカ・カトリック大学のアンドリュー・ヨー教授は、北朝鮮は「優れたマンパワー」を持っており、数の上では常に北朝鮮が優位に立っていると指摘する。

ロンドンの国防シンクタンク国際戦略研究所によれば、2023年初頭の時点で、北朝鮮軍には現役の兵員約128万人、予備役が60万人いた。韓国軍の場合、現役の兵士は約55万5000人で、予備役が300万人以上いる。

他の通常兵器を比較しても、北朝鮮の軍事力は韓国を凌駕している。韓国が保有する潜水艦は19隻だが、北朝鮮は71隻を保有している。主力戦車の保有台数も、韓国の2149両に対し、北朝鮮は3500両以上。北朝鮮は核爆弾の実験を行っているが、韓国は核兵器を持っていない。

だが話はそれで終わりではない。北朝鮮の通常装備の多くはソ連時代の古いもので、韓国の洗練された技術力、特に航空戦力とはかけ離れている、とヨウは本誌に語った。

韓国と北朝鮮が通常兵器で戦う場合、同盟国アメリカの支援がなくても「韓国は自力で持ちこたえられるという前提がある」とヨウは言う。

 

北朝鮮の軍隊は、その規模の大きさの割に、韓国がアメリカのような国との軍事演習を通じて得た訓練の経験の広さに欠けている、とヨウは言う。アメリカインド太平洋軍(USD-APC)の発表によると、アメリカは最近、韓国、日本との合同演習を終え、「連合軍としての能力をさらに強化する」ことを目的とした米空母打撃群を配備した。

「数だけでなく、軍備の質や能力も重要だ」とヨウは言った。

北朝鮮の弾道ミサイル発射実験は、韓国、アメリカ、日本にとって最大の懸念材料だ。米国防情報局によると、金総書記は権力の座に就いて以来、北朝鮮の通常兵器の増強に注力し、核実験と国内のミサイル開発を進めてきた。

核実験は2022年に急増し、2023年にはペースは落ちたものの継続されている、とヨウは述べた。

そして、2024年になっても状況は変わらないことが明らかになった。米軍は1月14日に北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を行ったことを発表し、「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の不正な兵器開発計画が不安定化させる影響」を示したと述べた。

戦争準備を加速

北朝鮮は装備のアップグレードも進めており、北朝鮮が特に注目している兵器運搬システムの改良にロシアが手を貸す可能性もある、とヨウは言う。

さらに1月19日、北朝鮮は「水中核兵器システム」の試験を実施したことを発表した。水中核攻撃艇と称する海軍のドローンのテストは、アメリカ、韓国、日本が実施した合同海軍演習に対抗したものだという。

北朝鮮は昨年9月、核兵器の搭載と発射が可能な初の「戦術核攻撃型潜水艦」をデビューさせたと発表した。欧米のアナリストの間では、この潜水艦の真の能力について疑問の声が上がっている。

2023年後半には「アメリカとその属国勢力による前例のない反朝(北朝鮮)対決工作」に直面し、「戦争準備をさらに加速させる」と述べている。

北朝鮮はスパイ衛星も打ち上げており、今年中にさらに数機を軌道に乗せる予定だ。

【動画】「北朝鮮は我々を『主たる敵』と呼んだ」


エリー・クック

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