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要衝アウディーイウカでロシア軍が突破口 「掘り崩し戦術」で市内へ進攻

ニューズウィーク日本版 2024年1月25日 17時25分

<クリミア併合のときから攻め続けながら長く膠着状態にあったアウディーイウカの前線に動きがあった>

ロシア軍はこの数カ月、ウクライナ東部ドネツク州の要衝アウディーイウカ(旧アフディフカ)に猛攻をかけてきた。ここを落とせば一気に戦局が有利になるからだが、ウクライナ側の守りは堅く、前線は膠着状態にあった。だがここに来て、この都市の南側で大きな進展があったと、ロシアの軍事ブロガーが勝報を伝えている。

ロシア軍はアウディーイウカ南部の住宅地を攻撃し、「突破口を開いた」と、「リバル」をはじめとする複数のロシアの軍事ブロガーがテレグラムのチャンネルで伝えた。本誌の調査ではこの情報を確認できず、現在ロシア国防省にメールで問い合わせ中だ。

ここ数カ月アウディーイウカ北部では、ロシア軍とウクライナ軍が激しい攻防戦を展開してきた。北部にはヨーロッパ最大規模のコークス工場群が並び、その掌握がロシアの狙いとみられていたが、難攻不落の巨大な工場群が立ちはだかる北部より、小さな家々が立ち並ぶ南部のほうが攻略しやすいとみて、ロシアは一転南部に兵力を集中、ウクライナの防衛戦を突破したと、リバルは伝えている。

瓦礫の山を手に入れる

ロシア軍は既にアウディーイウカ市内に進み、ウクライナ軍と激しい市街戦を展開していると、テレグラムのもう一人の主要な軍事ブロガー「サーティーンス」は述べている。それによれば、ロシア軍が用いたのは文字どおりの「掘り崩し戦術」で、市外からウクライナ軍の陣地の下までトンネルを掘り、中に爆発物を敷き詰めて遠隔操作で爆破した、というのである。

いずれのチャンネルも、両軍はアウディーイウカ南部のレクリエーションセンター「ツァルスカヤ・オホタ」近くで激しい戦闘を行い、「わが軍はここを掌握した後、周辺地域に進撃を続けている」と述べている。

ウクライナ側の軍事ブロガーも同様の分析をしている。

「アウディーイウカ北部はAKHZ(コークス工場群)で守られているが、南部は平屋や二階建ての住宅が立ち並び、砲撃に弱い」と、X(旧ツイッター)のアカウント「タタリガミUA」(UAはウクライナの国名コード)の管理人は指摘した。「ロシア軍はこの地域を奪えなければ、砲撃で消し去り、歩兵隊を送り込んで、瓦礫の山を手に入れるだろう」

ただ、ウクライナ軍参謀本部はロシア軍の突入を認めていない。1月23日にテレグラムに投稿した更新情報でも、ロシア軍は絶えず「アウディーイウカ包囲を試み」ているが、わが軍は「引き続き敵を抑え込んで」いると述べている。

「わが軍の兵士たちは強固な防衛力で敵を撃退し、甚大な損失を与えている。過去24時間に防衛部隊はステポボイとアウディーイウカ周辺で10回、さらに近くのペルボマイスキーとネベルスキーで7回、敵の攻撃を跳ね返した」

米シンクタンク・戦争研究所(ISW)は、アウディーイウカ周辺の「陣取り戦」では、ここ数日ロシア軍の「集中的な攻撃で、わずかな戦術的前進」があったと分析している。

「1月23日に公開された位置情報を示す映像から、ロシア軍は(アウディーイウカ北西の)ステポベ西部に進んだとみられる」と、ISWは指摘した。

2022年2月末に本格的なウクライナ侵攻を開始して以来、いや、クリミアを併合し、ウクライナ東部に侵攻した2014年以来、ロシア軍は一貫してアウディーイウカ陥落に執念を燃やしてきた。親ロ派の分離独立主義者が支配するドネツク市と隣接しているこの都市は、ウクライナにとっては死守すべき要衝、ロシアにとっては何としても奪取すべき拠点だからだ。

バフムト陥落と同じやり方

ロシアにここを奪われれば、ウクライナは前線のロシア側に大きく食い込んだ凸部を失うことになる。ロシア軍はそれを突破口に、約70キロ北の、ウクライナ側が支配するドネツク地域の行政の中心地となっているクラマトルスクを目指すだろう。

ウクライナ議会の外交委員長を務めるオレクサンドル・メレシュコ議員は昨年10月、本誌に対し、ロシア軍が多大な人的損失も厭わず、最終的に陥落させたバフムトを引き合いに出し、アウディーイウカでも「あれと同じことを繰り返すだろう」と予告した。ロシアは「多くの人命が犠牲になることを厭わない」と。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今年3月の「大統領選を控え、前線での『成功』を何としても国民にアピールしたいと思っている」と、メレシュコは語る。「それが独裁者のやり方だ」



デービッド・ブレナン

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