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米軍が900人のシリア駐留部隊の全面撤退を検討、対IS戦は「元の木阿弥」に!?

ニューズウィーク日本版 2024年1月29日 16時13分

<米政府情報筋によれば、ホワイトハウスは米軍のシリア駐留を不必要と考えていて、駐留継続への意志を失っている。米軍のシリア撤退でIS「イスラム国」がよみがえる日が迫る>

昨年10月にガザ戦争が始まって以来、中東全域で緊張と憎悪が高まっている。この状況で米軍が内戦の続くシリアから全面撤退することになれば、影響は極めて大きい。

米政府は現時点でまだ最終決定を下していないが、米国防総省と国務省の4つの情報筋によると、ホワイトハウスは米軍のシリア駐留を不必要と考えていて、駐留継続への熱意を失っているとのことだ。

目下、米政府内では米軍を撤退させる場合、いつ、どのように実行するかをめぐって活発な議論がなされている。

現在シリアに駐留している米軍部隊は900人ほど。駐留米軍は、クルド人主体の地元の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」と協力して、シリア北東部で過激派組織「イスラム国」(IS)の復活を抑え込む上で非常に重要な役割を担っている。

ただし、ISの脅威が完全に取り除かれているわけではない。

1月半ばには、SDF管理下の収容施設がISのロケット弾攻撃を受けた。この施設にはISの戦闘員約5000人が収容されていて、集団脱走が試みられた。

最終的に集団脱走は阻止されたが、ターゲットになり得る収容施設はここ1カ所だけではない。

米軍が治安維持に大きな役割を果たしている地域には、少なくとも20カ所の仮設の収容施設があり、ISの経験豊富な戦闘員が最大で合計1万人収容されている。

それでも北東部では、米軍とSDFによりISが封じ込められている。それに対し、シリア政府が(少なくとも形式的には)支配している西部の状況はもっと深刻だ。

西部の広大な砂漠地帯では、シリア政府の無関心と能力不足に乗じて、ISがゆっくりと、しかし着々と勢力を回復している。

ISはここ数年、南部の都市ダルアーでも再び活動を活発化させているほか、砂漠地帯全域で活動を拡大させ、戦略上の要衝である都市パルミラへの圧力も強めている。

ISは東部や中部でも水面下の影響力を取り戻しつつあり、「税」と称して人々から金銭を取り立てる仕組みも復活させている。

その対象は、医師や商店主に始まり、農民やトラック運転手に至るまで全ての人に及んでいる。

近年のISは、シリアでの活動実態を意識的に隠してきた。武装攻撃の犯行声明を発していなかったのだ。

しかし、最近はガザ戦争に触発されて活動を誇示し始めた。

今年に入って最初の10日間だけでも、シリアの14州のうち7州で35件の攻撃を実行し、犯行声明を発している。

ISは、混沌と不確実性の大きい環境で勢力を伸ばす。現在の中東地域は、混沌と不確実性に事欠かない。

シリア政府支配地域でのISの活動に関して、米軍にできることは乏しい。

だがシリアの国土の3分の1を占める地域では、ISに対する唯一の対抗勢力を束ねる接着剤の役割を果たしている。

もしその接着剤がなくなれば、シリア全域でISが本格的に復活することはほぼ確実だ。

隣国イラクでもISの影響力が強まり、不安定化が進むことは避けられないだろう。

ISがシリアで勢力を拡大させた2014年には、世界の安全に重大な影響が及んだ。

もし米軍がシリアから撤退し、ISの復活により中東の混沌に拍車がかかれば、もはやアメリカはこの地域をただ傍観することしかできない。

そして、シリアとその後ろ盾であるロシアとイランに中東を委ねることになる。

<本誌2024年2月6日号掲載>

From Foreign Policy Magazine

チャールズ・リスター(中東問題研究所上級研究員)

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