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独走するトランプ前大統領の再登板に死角はあるのか

ニューズウィーク日本版 2024年1月29日 13時23分

<米大統領選 共和党予備選、トランプ前大統領の独走は続くのか。再登板を狙う彼の背後には、揺るぎない支持層の存在と共に、潜む弱点も見え隠れしている......>

共和党大統領予備選挙は第二戦の結果を受けて、共和党候補者としてのトランプ前大統領がほぼ内定することになった。その対抗馬として唯一生き残ったニッキー・ヘイリー前国連大使は、共和党の次世代スターとして注目されてきた逸材であるが、トランプ前大統領のカリスマはヘイリー前国連大使への期待を上回るプレゼンスを発揮している。

トランプ前大統領が苦手としてきたアイオワ州

第一州目のアイオワ州の党員集会はトランプ前大統領が苦手としてきた選挙であった。

事実として、2016年の予備選の結果は、トランプ前大統領はテッド・クルーズ上院議員の後塵を拝する結果であった。これはアイオワ州に多い保守系の福音派支持者が当時のトランプ氏の政治姿勢(特に中絶に対する曖昧な態度など)について疑いの目を持っていたことに起因する。

しかし、2024年、トランプ前大統領は苦手としてきた福音派からの支持をガッチリと固めることに成功した。福音派の支持者はトランプ政権が保守派判事を連邦最高裁判事及び控訴審判事に送り込んだトランプ前大統領の功績を高く評価している。そのため、トランプ前大統領にとって共和党予備選挙での死角はほぼなくなったと言える。

予備選挙で浮かび上がるトランプ前大統領の弱点

ただし、盤石に見えるトランプ前大統領にも死角は存在している。それは彼自身が自らの強さにどこまで驕っているか、という問題だ。

そこで、まず第2回予備選挙までに明らかになったトランプ陣営の弱点を整理してみよう。

初戦のアイオワ州内の群のうち、トランプ前大統領は唯一ジョンソン郡でヘイリー前国連大使に一票差で敗北した。同地域はアイオワ大学が存在しており、有権者の多くは大卒者であった。また、全州レベルでは過半数の得票を獲得したものの、州都や郊外部ではトランプ前大統領の得票数はヘイリー・デサンティス両氏の合計票に及ばなかった。さらに、トランプ前大統領に投票した層は以前からトランプ支持を固めており、選挙直前に投票先を決めた層(つまり、浮動票)では、他候補者に対して圧倒的な強さを示したわけではなかった。

第2戦の場となったニューハンプシャー州は、トランプ前大統領が2016年にライバル候補に一定の差をつけて勝利した選挙州であった。2016年当時、トランプ氏は濫立する候補者の中から保守派から穏健派までの幅広いニューハンプシャー州の住民を取り込むことに成功した。これは当時のトランプ陣営の選対本部長であったコーリー・ルワンドウスキーがリバタリアンのコーク財団系の草の根団体の出身者であり、同州の選挙活動を得意としていた影響もあったと推察される。

今回の共和党予備選挙ではコーク財団はニッキー・ヘイリー前大使を支持しており、同財団関係者は彼女に対して巨額の寄付金を行っている。ヘイリー陣営はそれらの資金を活用し、スヌヌ・ニューハンプシャー州知事の推薦の下で、トランプ陣営の二倍の広告料を同州に対して投下した。ただし、ヘイリー前大使は善戦したが、トランプ前大統領の厚い支持層を破ることはできなかった。

しかし、出口調査を見ると、トランプ陣営はアイオワ州と全く同じ弱点を示しており、学園都市、州都、そして郊外部での問題を抱え続けている。また、2016年のトランプに投票した穏健層や穏健派のケーシック前オハイオ州知事に投票した層は、トランプ陣営ではなくヘイリー陣営に流れた。このことからも、米国の社会的分断が進展する中で、トランプ前大統領が分断の象徴として穏健派の有権者から忌避されていることが分かる。

はたして、このようなトランプ陣営が抱えた弱点とトランプ前大統領の驕りが今後の選挙戦にどのような影響を与えるだろうか。

分断の象徴としてのトランプ前大統領

現在、世論調査の数字からは、トランプ前大統領がバイデン大統領を大統領選本選で破る可能性が示されている。

そのため、トランプ大統領が自らの副大統領候補者として、クリスティー・ノーム・サウスダコタ州知事などのMAGA(Make America Great Again)支持者を選ぶこともあり得る。その場合、穏健派のトランプ離れが加速することで、トランプ前大統領は自らの優勢な立場を自分の手で壊すことになるかもしれない。

現状では、MAGA副大統領候補者の任命は、トランプ前大統領がバイデン大統領に敗北する要因となる唯一の悪手と言えるだろう。

副大統領候補選びとその戦略的意味合い

一方、副大統領候補者として、オーソドックスな保守派から選ぶか、または、穏健派とのバランスを取った人物を選ぶかした場合、トランプ前大統領は大統領選挙には勝てるかもしれないが、その後の政権運営に対して副大統領から首に鈴をかけられることになる。

特にニューハンプシャー州予備選挙直前に、次の山場であるサウスカロライナ州予備選で決定打となるトランプ推薦を行った同州選出のティム・スコット上院議員の論功行賞は大きなものだった。あのタイミングでの支持表明はヘイリー前国連大使に対する期待を根本から打ち崩すのに十分であった。彼はアフリカ系上院議員で保守派でもあり、上院ナンバー2のジョン・スーンから予備選挙で推薦状を得ていた人物だ。トランプ前大統領が不得意な連邦議会との交渉役として打ってつけの人物である。まさに、彼はアフリカ系のペンス副大統領のようになるだろう。

ヘイリー前国連大使が副大統領候補者になる可能性もゼロではない。(現時点では両者ともに可能性を否定しているが。)ヘイリー選対の幹部はラストベルト地域の政治関係者によって構成されている。そのため、ヘイリー選対は全体として敗北が見えていたとしても、予備選挙から容易に撤退せず、同地域も含めた接戦州でのヘイリー支持のパフォーマンスを誇示することに拘るはずだ。それらの得票はトランプ前大統領がバイデン大統領に確実に勝利するために、喉から手が出るほど欲しい票だからだ。

トランプ前大統領の首に鈴をつけたがっているビリオネラが予備選挙で連敗したヘイリーに更に資金投下を加速させている理由もそれだろう。それらの人々は何としてもヘイリー前大統領を副大統領候補者として送り込むための取引材料を作ろうとしているのだ。

トランプ前大統領の選択と未来のアメリカ

したがって、トランプ前大統領には副大統領候補者として、MAGA系、保守派系(=議会指導部)、穏健派の3種類のカードを持っている。どのカードを切るかは、バイデン大統領とのレースの状況次第と言える。

もしもトランプ前大統領が自らの人気を絶対のものと見做し、MAGA系の副大統領候補者を選ぶなら、それはトランプ前大統領にとっては運命を変える一手になってしまうかもしれない。

彼が己のプライドと勝負の手堅さのいずれを選ぶかは、トランプ新政権が誕生する場合、現在のトランプ前大統領の本質を見抜く重要なポイントになるだろう。



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