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中国は経済危機を隠蔽している──騙された若年層

ニューズウィーク日本版 2024年1月29日 16時19分

<若年層の失業率が20%から15%に改善、というのは政府が自分たちに都合よく作った統計のマジックで、若者の苦難はまだ続く>

これまで高止まりしていた中国の若年層の失業率が、中国国家統計局が半年ぶりに公表した統計によれば、前回発表の3分の2にまで減ったという。

だが専門家からは、中国政府が今回、新たに取り入れた統計手法は、もっと大きな問題を糊塗するためのものだとの声も上がっている。たとえば、失業率が下がった理由は調査対象から学生を除外したからだとの見方もある。

 

中国国家統計局は1月17日、2023年のGDP成長率が目標の5%を上回ったと発表した。世界第2の経済大国である中国だが、長期的に見ると労働者の高齢化、海外からの投資の減少、不動産市場の低迷、中国の輸出品に対する世界需要の低下といった厄介な問題をいくつも抱えている。

国家統計局はまた、昨年6月を最後に公表を中止していた16〜24歳の失業率を発表した。それによると12月の数値は14.9%で、昨年6月の21.3%に比べると大きな改善に見える。ちなみにこの時の全体の失業率は5.2%だった。

本誌は国家統計局にコメントを求めたが、回答は得られていない。

今回の統計結果は、今年大学を卒業する予定の1100万人超の学生にとって明るい材料となるのだろうか。

そう判断するのは早計だと、国立台湾大学経済学部の樊家忠(ファン・チアチョン)教授は言う。「(失業率が)低下したのは、中国国家統計局が統計サンプルから学生を除外したためで、若者の労働市場に底堅い改善が見られたためではない」と、樊は本誌に語った。

中国の統計手法の問題点は他にも

樊は、統計の取り方にはさらに3つの点で問題があると指摘する。

1. 週に1時間しか働いていない人まで被雇用者としてカウントしている点。

2. 就職難から求職活動をあきらめてしまった人が失業者としてカウントされていない点。

3. 都市部に住んでいる人しか調査の対象になっていない点。

ここから長期的な危機の存在が見えてくると樊は言う。「中国政府は失業問題に対処しようにも、何ら強力なツールを持っていない。失業率の急上昇は厳しいマクロ経済ショックを伴っているが、これは、構造的で長期間続くとみられる」

就業経験の浅い若者たちは、景気低迷の影響をもろに受けている。

新型コロナのパンデミックも打撃となったが、特に大きな影響を受けたのは、就業者に占める若年層の割合が高いサービス産業への打撃だったと、ゴールドマン・サックスのマギー・ウェイは昨年5月、リポートで指摘した。中国政府が若年層の失業率に関するデータ公表を停止したのはその直後の6月だった。

中国が厳しい「ゼロコロナ政策」をやめたのは昨年1月のこと。専門家は、労働需要が上向くことで若年層の失業率も3%ほど下がるのではと予想していた。

だがウェイは、多少回復したところで、若者が大挙して大学を卒業する夏が来れば、増加分が相殺される可能性があると指摘した。

今回の統計手法の変更で一番得をするのは中国共産党の上層部だと、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院中国研究所所長のスティーブ・ツァンは本誌に語った。

新しい統計手法は「中国の経済と社会に関する共産党の主張の裏付けとなり、習近平(シー・チンピン)国家主席の言う『チャイナドリーム』の追求に向けて国を団結させることにつながる」とツァンは語った。

 

だが、統計を愛国主義的に飾ったところで「経済が勢いを取り戻す助けにはならないだろう」とツァンは述べた。

ツァンによれば、最も効果の見込める景気刺激策は、最もカネを使いそうな層──中国においてはZ世代──にカネを回すことだ。

だが習はそうはせず、工業やインフラに投資するという政府主導のやり方を選んだとツァンは言う。

「カネは消費者には回らなかった。医療や社会的セーフティネットといったサービスにも回らなかった。そこに回せば比較的貧しい層が病気などの非常時に備えて貯蓄しなくても済むはずなのに」

職を求める若年層の不満材料は他にもあると、米ノースウェスタン大学のナンシー・チエン教授(経済学)は昨年秋に指摘した。就職先として人気の高かった大手テクノロジー企業や私立学校に対する習政権の規制強化がその一例だという。

昨年春、中国国務院(内閣に相当)は、雇用安定化策を発表した。

この中には、少なくとも100万人のインターン受け入れや、国有企業による雇用拡大支援、失業登録した16〜24歳の若者を雇用した企業には1回限りの補助金を支給するといった対策が含まれている。



マイカ・マッカートニー(台北)

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