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中国の北朝鮮労働者たちが母国からきた管理官を殺害する異常事件

ニューズウィーク日本版 2024年1月31日 16時17分

<賃金不払いの不満から中国の工場で働く北朝鮮人労働者による暴動が発生、北朝鮮人管理職が殺害される大事件が発生した>

中国の縫製工場で働く北朝鮮人労働者が賃金不払いを理由にストライキを行い、それが暴動に発展して、労働者を監視するために北朝鮮政府から派遣された役人が殺された可能性があると報じられた。

 

韓国の英字新聞コリア・タイムスは1月29日、北朝鮮国境に近い中国東北部吉林省の和竜市で1月11日から15日にかけて発生した一連の「暴力的な抗議行動」の中で、本国から派遣された北朝鮮政府高官が殺害されたようだと伝えている。

同紙は、韓国のシンクタンク統一研究院(KINU)の趙漢凡(チョ・ハンボム)上級研究員の報告を引用。少なくとも1人の北朝鮮政府関係者が死亡し、他の3人が重傷を負ったという。趙によれば、この高官は縫製工場の労働者を監督するために本国から派遣されていた。

中国当局は通常、北朝鮮からの出稼ぎ労働者の状況について情報を開示しない。北朝鮮人の出稼ぎ労働は中国の製造業におけるグレーゾーンとなっている。国連安保理の対北朝鮮制裁決議で、北朝鮮国民を雇用すること自体が禁じられているからだ。

繊維工場側の操業に透明性がなく、関係者の特定も困難なため、メディアも普通このような騒動をあまり報道しない。本誌は趙の主張を独自に検証することはできなかった。

組織的な給与の横領

中国外務省の汪文斌(ワン・ウエンビン)報道官は29日、北京での定例記者会見で、中国には北朝鮮からの脱北者はいないと主張。経済的な理由で正式な許可なく中国に入国する者は、中国の法律に違反しているという。

本誌は中国外務省と在北朝鮮大使館にコメントを求めたが、返答はなかった。

趙はこの問題に詳しい内部関係者の話として、和竜市の労働者たちは自分たちの給与が横領されていたことに抗議していたと語った。労働者に支払われるべき給与は、説明も同意もないまま、北朝鮮の与党労働党に送金されていたという。約15カ所の縫製工場の従業員に対する賃金不払いは4年から7年に渡っており、その総額は約1000万ドルに上る。

コリア・タイムスは匿名の韓国政府関係者の話を引用し、韓国の情報機関が、北朝鮮の労働者が関与した「事故」は「劣悪な労働条件」のために「発生」したことを確認したと伝えた。

北朝鮮関連ニュース専門サイトNKニュースに対して、こうした工場を管理しているのは北朝鮮の国防省だと趙は語った。

吉林省における北朝鮮労働者の暴動に関する報道は、1991年に韓国に亡命した元北朝鮮外交官高英煥(コ・ヨンファン)による報告から始まっているようだ。高は今年1月、産経新聞に対し、数千人の労働者が賃金未払いを理由に縫製工場や水産加工場でストライキを行ったことを明らかにした。

NKニュースによると、人権団体「北朝鮮のための正義」の設立者ピーター・チョンは、ストライキが発生したという情報に異議を唱え、中国の公安当局と現地の労働者に確認したが、そのような事件は起きていないと語った。

だが、韓国のNGO・脱北者同志会の徐宰平(ソ・ジェピョン)事務局長は同サイトに対し、趙と高の主張は嘘だとは思えないと語り、数年前にも未払い給与をめぐる紛争が起きている例を引き合いに出した。また、中国の地方政府のウエブサイトに最近掲載された通知でも不特定多数の出稼ぎ労働者の「賃金未払い」問題が指摘されている、と指摘した。

 

海外で働く北朝鮮人の正確な数は明らかになっていないが、コリア・タイムスは10万人という推計を報じ、その大半は中国で働いているという。NK ニュースによれば、こうした海外で働く北朝鮮人は現在の金正恩(キム・ジョンウン)体制の北朝鮮において比較的恵まれた家庭の出身だという。

孤立した北朝鮮の生活環境は依然として悲惨だ。金正恩総書記は今年1月、党幹部に対し、北朝鮮の経済は「ひどい状況」にあり、食糧のような基本的な必需品を社会の一部に供給できずにいる、と語った。そして「革命的な決意と勇気」を持って貧困の問題に取り組まなかった経済計画者たちを非難した。



アーディル・ブラール

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