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政治とカネの問題は「ふるさと納税」式に解決しよう!(パックン)

ニューズウィーク日本版 2024年2月1日 19時27分

<自民党の政治資金問題は岸田首相肝いりの「刷新本部」がいくら刷新しても解決しないだろう。そこで、芸人のパックンからとっておきの提案があります>

俺は救世主だ! 世界の問題を解決し、人々を救済しないと!

こんな妄想に駆られる精神状態は「メシア・コンプレックス」と呼ばれるが、そんな人、かわいそう。

僕もたびたび世界の問題を解消し、人々を救済しようとするタイプ。このコラムでも大学入学の男女格差、実質賃金の低迷、同性婚、イーロン・マスクなど、数々の難解なイシューの解決策を提言してきたこともご存じでしょう。だが、僕はメシア・コンプレックスではない。妄想じゃなく、本当の救世主だから!

信じられないなら、また一つ解決してみせようか。今回取り掛かるのが日本の「政治とカネ」の問題。

先月、派閥の政治資金パーティーをめぐる事件を受けて自民党が自浄作用を図るために設置した「政治刷新本部」のメンバーが発表された。そして安倍派の9人も含めて、裏金疑惑を持たれている議員の参加に疑問を持った人が多かった。刷新担当に問題を起こした当事者たちを起用するというのは、確かに「グラマラスボディー撲滅本部」に叶姉妹を抜擢するような奇妙すぎる人選だ。

政治がお金抜きでは動かない根本的理由

それから2週間後に発表された中間とりまとめ案も、本格的な改革というよりも、微調整の提案に留まり、刷新本部による「ほんの一部刷新」な感じだった。

政治家の収支報告や開示に関する規制強化、違法な会計処理があった場合に政治家も責任を負う「連座制」の導入など、多くの人がさまざまな理想を掲げるが、僕は彼らの夢はほとんど叶うはずがないと、考えている。

もっと言えば、たとえ奇跡的にそんな施策が実施されたとしても、僕は満足しない。政治資金のクリーン化を目指しているのではなく、僕は金のしがらみを政治から根本的に、完全に取り除きたいのだ。つまり、僕はもっと叶いそうにない夢を見ている!

政治家が口をそろえて言うのは、選挙活動にお金がかかること。政党交付金など、公金はある程度もらえるが、それだけでは足りない。だから、選挙に勝つために不足分を個人や企業から募ることになってしまうのだという。

僕はこの事実は否めないと思う。

また政治家が口をそろえて言うのは、献金を受けても見返りはない。お金を寄付してくれた個人や企業に忖度することはないこと。

僕はこの「事実」を否め......きれない。忖度しているかどうかはその政治家の心中を覗かないとわからないから。

だが、本人が忖度しなくても、お金で政策が動くことは政治の構造上避けられない、必然的な結果だ。簡単に言うと:

 ・選挙にお金がかかる → お金をたくさん集められる政治家が選挙に勝つ
 ・たくさん献金できるのは企業や富裕層 → 企業や富裕層が応援する政治家が選挙に勝つ

ということは(忖度も見返りもなく)政治家が誠心誠意、国民のために働いているつもりでも、企業や富裕層が喜ぶような政策を推す政治家が議員になりやすいし、再選しやすい。このプロセスで議会の構成員が決まるなら、可決される政策は当然企業や富裕層向けに偏ってしまう。

同様に、たとえ選挙に勝つのにお金じゃなく猫の毛が必要であれば、それをたくさん寄付できるペットショップや猫カフェ、猫の飼い主達が応援する政治家が当選し、猫派寄りの政策に傾くでしょう。そんなもんだ(そうなった場合、長毛種を3匹飼っている僕は頻繁に「政治献毛パーティー」に呼ばれるだろうね)。

お金でも毛でも、特定の何かを持っている人が他より政策への影響力を持つ限り、民主主義の鉄則「一人一票」が狂ってしまう。

しかし、選挙や政治活動にお金がかかるのは間違いない。では、どうすればいいのか? その答えは政治を「公金」で賄う制度だ。もちろん現存の政党交付金とは全く違う、新しい仕組みの話だ。

まず、政府が運営するオンラインサイトに、全ての政治家の名前とそれぞれの政策案を載せよう。国民が一人一人そのサイトを見て、選挙区や気になるイシュー別で検索をしながら、応援したい政治家を選択する。そうすると、政府からその政治家に公金が交付されるようにする。イメージとしては、ふるさと納税の政治家バージョンだ!

現職有利も是正できる

もちろん返礼品もないし、個人の納税額に関わらず動かせる金額が変わらないので(本来の目的から逸脱してしまった)ふるさと納税制度とは少し異なる。国民一人ずつが、同じ額で(和牛セットとかに誘惑されることもなく)本当に応援したい政治家に活動の資金を与えるだけの、いたってシンプルなシステムだ。結果として、国民が全員同じ権利を持つので、財力に関係なく政治に対して誰もが対等な影響力を持つのだ。

この新しい仕組みが機能したら、それ以外での献金を一切禁止する。そうしたら政治家は一部の富裕層や企業ではなく、より大勢の国民に応援されるように必死に頑張るでしょう。政策の偏りを正せるし、派閥や政党のしがらみも解消できるかもしれない。また、現職の議員に限らず、次の選挙を目指す候補も参加するようにすれば、今の「現職バイアス」も少し是正できるはず。さらに資金の出所も当然わかるし、その上全額の使途の報告・開示を政治家に義務もつければ透明性も保証される。

いいと思わない? 

今回の提案はなかなかなひらめきだと思っていて、全力で勧めたい。冒頭で少し大げさな話をしたが、僕は本当は人々を救済する力を持っているとそんなに思っていない。だが、このシステムが導入され政治と金の問題がきれいに解決できたら、次「あんた、メシア・コンプレックスなの?」と聞かれたとき

......イエス!  

と言うかも(救世主だけに)。

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