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動物保護施設でクマに餌やり中の男性、嚙まれた腕を檻から引き抜けず、ナイフで自ら腕を切り落とす

ニューズウィーク日本版 2024年2月4日 7時40分

<タイにある野生動物保護施設で、檻の中のクマにかみつかれたスイス人男性は腕を引き抜くことができなかった>

スイスからタイに来ていたボランティアの男性がクマに襲われ、噛まれた腕を引き離すことができなかったため、自ら腕を切り落とすという出来事があった。地元メディアはこの時の男性の様子を掲載し、その後は病院に移送されたと報じている。

■【写真】閲覧注意:嚙まれた腕を自らナイフで切り落とし...クマに襲われた男性、「クマを傷つけたくなかった」

事件が起きたのは、タイ北部のチェンマイにある野生動物保護施設。ステファン・クラウディオ=スペコーニャ(32歳)が檻の外からツキノワグマ(アジアクロクマ)に餌をやっていたところ、クマが右腕にかみついてきたという。

バンコク・ポストによれば、クラウディオ=スペコーニャはかまれた腕を引き抜くことができなかった。一方で彼は「クマを傷つけたくはないと考えた」ため、ポケットナイフを取り出し、かみ砕かれた自分の前腕を切り落としたという。

その後、居合わせた人々に応急処置を施され、近くのチェンダオ病院に急行した。その後、転院して手術を受けたが、切り落とした腕を再縫合できるかどうかについては不明だ。

ワン・ニュースはフェイスブックで、「(クラウディオ=スペコーニャは、)肘から先が切り取られた状態でチェンダオ病院に運ばれた。そして最近、手術のためにチェンマイ中心部の私立病院に移送された」と伝え、クラウディオ=スペコーニャとクマの画像を共有している。

ツキノワグマは森林伐採や密猟により減少中

アジアクロクマとも呼ばれるツキノワグマは、東アジア、東南アジア、インド、ヒマラヤ山脈に生息している。体はヒグマに似ているが、オスの体重は135キロ前後だ。クマの中で最も二足歩行がうまく、後ろ足で400メートルほど歩くことができる。

森林伐採や密猟によって個体数が減少しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。密猟の主な目的は、毛皮と、伝統薬の材料になる胆のうだ。胆のうから胆汁を得るために「胆汁農場」でクマを飼育することもあり、これは動物愛護団体によって非人道的な行為と見なされている。

ツキノワグマは臆病な性格とされるが、ヒグマやアメリカグマよりも人に対して攻撃的だという特徴もある。野生のツキノワグマは、多くの場合、人と接近したときや突然遭遇したときに、人を襲ったり殺したりしている。攻撃の際には、まず人を殴り倒したうえで、後ろ足で立ち上がり、人の四肢や頭部にかみつく。

豪クイーンズランド大学の上級講師で、畜産学を専門とするエドワード・ナラヤンは本誌の取材に対し、「ツキノワグマは本来、トラなどの捕食者と同じ環境に生息しているため、野生では、捕食者の攻撃から身を守る手段として攻撃性を示すことがある」と説明する。

「人が居住する環境では、人とクマの遭遇はしばしば衝突に発展するため、人とクマの両方にとって問題になり得る。クマは、猟師などを脅威と見なすことがあり、前触れなく近づいてくる人に興奮することもある」

日本を含め各国でツキノワグマによる被害が急増中

近年、特定の地域で、ツキノワグマによる攻撃が増加している。インドのジャンムー・カシミール州では、2000年から2020年の間に2357件の攻撃が記録されている。農業の拡大や生息地の分断によって、クマが人との接近を余儀なくされている地域では、ツキノワグマによる攻撃が頻発している。

「クマは野生動物であり、年齢、性別、繁殖状態によっては、ある程度の攻撃性を持つことがある」とナラヤンは話す。「例えば、繁殖期のオスは攻撃的になることがあり、子育て中のメスは、子グマを守るため非常に防御的になることがある。クマの自然生息地に人が入り込み、採餌や交尾の機会が制限されれば、クマの警戒心や攻撃性が高まる」

日本でも、ツキノワグマによる攻撃が急増している。2023年には、少なくとも212人が襲われ、6人が死亡した。これまでクマによる攻撃が最も多かったのは2020年の158件だったため、2023年は過去最多を記録したことになる。

クラウディオ=スペコーニャを襲ったツキノワグマは、2013年に保護され、チェンダオのパーデーン国立公園から、「野生動物保護財団」が運営する野生動物保護施設に移されていた。
(翻訳:ガリレオ)



ジェス・トムソン

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