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ロシア軍、ソコロフ司令官とゲラシモフ参謀長の死亡説を放置

ニューズウィーク日本版 2024年2月5日 18時20分

<ウクライナのクリミアへの攻撃で命を落としたと噂されるソコロフとゲラシモフの生死について、政府の反応は鈍い>

昨年9月以降、ロシア軍の重要なポストを占める高官2人の消息が伝えられなくなっており、死亡説も取り沙汰されている。

1人はロシア黒海艦隊のビクトル・ソコロフ司令官。ウクライナ軍は9月下旬、クリミア半島にある同艦隊本部へのミサイル攻撃を行い、ソコロフを含む34人が死亡したと発表した。ソコロフはウクライナ軍にとって重要なターゲットとされていた。

 

また、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長も、今年初めにクリミア半島にあるロシア軍指揮所へのウクライナ軍の攻撃によって死亡したという説が出ている。この時の攻撃は、セバストポリ近くとエフパトリア 近郊の軍部隊に向けて行われたという。

「過去133日間姿を見せていないソコロフ司令官は、55日間姿を見せていないゲラシモフ将軍とどこかでたぶん『協議中』なのだろう」と、軍事専門家でマーシーハースト大学准教授のフレッド・ホフマンはX(旧ツイッター)に2日、皮肉たっぷりに投稿した。

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本誌はロシアとウクライナ両国の国防省にコメントを電子メールで求めたが回答は得られていない。

ロシア当局は、9月の攻撃ではセバストポリの建物1棟が被害を受け、将校が1人「行方不明」になっただけだとしているが、ソコロフが死んだとする噂にブレーキをかけることができずにいる。

生存示す写真は公開したが......

またロシア国防省は問題の攻撃の後、テレグラムにソコロフが写っているとされる会議の画像を投稿した。その直前には、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官が記者団に対し「黒海艦隊のソコロフ司令官が死亡したとされる件についての」情報はないと答えている。

ウクライナ側とロシア側の主張はかくのごとく異なっていたわけだが、ソコロフの「死」そのものには当のウクライナ軍内部からも疑問視する声が上がっている。

ウクライナの情報機関を率いるキーロ・ブダノフ少将は、政府の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、9月の攻撃ではロシア軍幹部数人が負傷したものの、ソコロフの死は確認できていないと述べた。ちなみに黒海艦隊では、昨年4月に旗艦のモスクワがウクライナ軍の攻撃で沈没。ソコロフは7月に司令官に任命されたばかりだった。

一方、ゲラシモフ死亡説の出所はXで流れた真偽不明の噂で、ロシアのチャンネル「普通のツァーリズム」の投稿とされる画像がきっかけだった。

「普通のツァーリズム」は、ゲラシモフがクリミア半島で起きた攻撃で死亡したと伝えていた。

ちなみにゲラシモフが最後に公の場に姿を現したのは昨年12月29日。国営通信社RIAノーボスチによれば、ゲラシモフはこの日、ドネツク州マリンカの攻略でめざましい働きのあった軍人を表彰する国のイベントに出席した。以来、消息が伝えられていないことや、ロシア国防省が沈黙を続けていることが噂に拍車をかけた。

彼の動向や発言はいかなる国営メディアでも伝えられていない。

ウィスコンシン大学マディソン校のミハイル・トロイツキー実務教授は本誌の電子メール取材に対し2日、ロシア当局が沈黙を守っているのは、ウクライナ侵攻中でもあり、軍高官の居場所や生死について情報公開する動機付けがないからで、別に驚くようなことではないと語った。

 

「つまり、政治指導者たちは司令官たちに公の場や記録の残る場で発言させたくないのかも知れない。例え司令官たちが生きていて元気だったとしてもだ」とトロイツキーは述べた。「軍司令官の仕事は人の目に触れないところでの作戦立案だ」

またトロイツキーはこうも述べた。「もしロシア政府が一部欧米諸国の戦争疲れにさらに拍車をかけようとしているなら、軍幹部を表に出さず文民統制がきちんとできていることを強調するほうが得なのかもしれない」

不自然なロシア政府の反応

ジョナサン・スイート元米軍大佐と元エコノミストのマーク・トスは「ゲラシモフ将軍はどこにいて、なぜそれが問題なのか」という意見記事をキーウ・ポストに投稿。ゲラシモフ死亡説は疑わしいが、「公の場に姿を現していないことやロシア政府が彼の状況についてだんまりを決め込んでいるのは」興味深いと書いている。

いわく、ゲラシモフがクリミア半島で死んだという噂にロシア政府が反応しないのは「奇妙」だ。なぜなら、ロシア政府はソコロフ司令官の死については否定していたからだ。

「ロシア政府が沈黙を続けていること自体が物語っていると言えるかも知れない。プーチンはウクライナが積極的にロシア軍幹部を標的にしていることが心配なのだろうか」と、2人は述べた。



ニック・モルドワネク

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