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「賢く闘っていない」 ヘンリー王子、ついに裁判でメディアに「敗北」...夫妻にとって、どこまで誤算?

ニューズウィーク日本版 2024年2月8日 19時19分

<大衆紙を相手取った数々の訴訟の1つで「敗北」したヘンリー王子。メディアを訴え続けるのは母ダイアナの「復讐」のためか>

英ヘンリー王子は、イギリスの大衆紙の中でも最も嫌いな新聞に、初めての「敗北」を喫した。弁護士によれば、これはヘンリーが「賢く闘っていない」ことの表れだ。

ヘンリーは1月19日、メール・オン・サンデー(MoS)紙に対する名誉毀損訴訟を取り下げた。ヘンリーの広報担当者によれば、このまま裁判を闘えば、彼が嘘を言っているというMoS紙の主張が蒸し返され続けるという懸念があったという。

訴訟が起こされたのは2022年2月。ヘンリーが王室を離脱する際に警察の警護を受けられなくなることを不満とし、「費用は私費で出すから警護をつけてほしい」と申し出た件についての記事をめぐるものだ。訴訟は記事の掲載からわずか4日後に起こされており、ヘンリーの反発の強さがうかがえる。

MoS紙はこの記事で、ヘンリーが22年1月に警護再開をめぐり内務省を訴えたことをスクープした。記事は、ヘンリーの代理人が王子は警護費用を自己負担する意向だと述べた声明を引用していた。

この声明は20年1月に、ノーフォーク州にあるエリザベス女王(当時)の私邸サンドリンガム・ハウスで開かれた王室の家族会議でヘンリーが行った警護費用に関する申し出に触れている。

だが内務省の弁護士は、裁判所に提出した書類で「(警護費用を私費で払うというヘンリーの)申し出は......21年6月の時点で王族・要人警備執行委員会(RAVEC)に諮られておらず、その後に行われた訴訟前のやりとりにも含まれていない」と述べている。

MoS紙は、警護費用の申し出に関するヘンリー側の説明は、同紙の報道に反応してヘンリーのイメージを保つために行われた対応だと書いた。

記事の見出しにはこうある。「ヘンリー王子はこうして、警察の警護をめぐる政府との法廷闘争を秘密にしておこうとした......そして、このニュースが報じられたわずか数分後、彼のPRマシンはこの争いをポジティブに見せかけようと動いた」

「ヘンリーが賢く闘っていないことの表れ」

だが約2年後の今、ヘンリーはこの訴訟を取り下げたことで75万ポンド(約1億4000万円)の訴訟費用を負担することになるかもしれない。MoS紙は、記事は同紙の「率直な意見」なので名誉毀損法の対象外だと主張していた。

メディア法や言論の自由に詳しい著名な弁護士マーク・スティーブンズは「基本的には意見記事なので、彼が勝訴する見込みはなかった」と言う。

「この訴訟を起こしたのは、自分にとって非常にデリケートな問題だったからだろう。実際、妻メーガン妃が極右からの脅威にさらされていたことは、王室警護の責任者のインタビューから分かっている。(今回の訴訟取り下げは)ヘンリーが賢く闘っていないことの表れだと思う」

この一連の騒動は、ヘンリーが抱える10件に及ぶ訴訟に関する彼の判断に疑問を投げかける。

メーガンが父親に宛てた私信の一部がMoS紙に公表され、プライバシーを侵害されたと訴えた裁判は、勝つには勝った。だがその過程で彼女は、「誤解を与える意図はなかった」と裁判所に謝罪しなくてはならなかった。

メーガンが、自分とヘンリーの伝記『自由を求めて』(邦訳・扶桑社)の2人の著者への情報リークをスタッフに許可したことを示す私的なメールが、法廷で公開されたのだ(メーガンの弁護士は、そうした事実はないと主張していたのだが)。

ヘンリーは昨年12月、大衆紙デイリー・ミラーを発行するミラー・グループに対する携帯電話盗聴の訴訟に勝ったが、そのときも裁判官は彼の主張の一部に疑問を抱いていた。

ヘンリーが問題としたミラー紙の記事33本のうち、15本は不法に収集した情報に基づくと認められたが、残りの18本については主張が却下された。そのうち1本について裁判官は「この種の記事に関して法廷に訴えるというのは、どのような判断によるものなのか疑問に思う」と指摘した。

結果が悪ければ大きな経済的リスクを伴う

ヘンリーは同じく電話を盗聴されたとして、大衆紙サンも訴えていた。昨年7月に盗聴の主張は退けられたが、身分を偽って接触し情報を引き出す「ブラギング」などの違法な情報収集に関する訴えは裁判にかけられる予定だ。

さらに別の大衆紙デイリー・メールを相手取った電話盗聴の訴訟も、まだ進行中だ。「電話盗聴訴訟について彼はかなり成功している」と、スティーブンズは言う。「まず、ミラー紙は全てで勝つことはできなかった。次はサン紙、その次はMoS紙だ。それぞれの裁判には、前の裁判の結果が影響するだろう」

だがミラー紙を相手取った裁判では、たとえヘンリーが勝訴しても高額の見返りを手にできないことも分かった。

ヘンリーには14万ポンド(約2600万円)の賠償金が支払われるが、そこから訴訟費用を払うことになる。イギリスの民事訴訟では、裁判費用が損害賠償額を上回ることが珍しくない。いくつもの訴訟を同時に起こしたヘンリーの戦略は、結果が芳しくない場合には大きな経済的リスクを伴うことになる。

それでもスティーブンズは、ヘンリーは裁判まみれになっている今を、後に人生の価値ある一時期として振り返るだろうと考えている。

「ダイアナ妃の死で受けた傷を乗り越えるために必要」

「彼の立場からすれば、母親の故ダイアナ妃をあのような形で亡くしたことで受けた傷を乗り越えるために、こういうことをする必要があったのだろう。2人の王子がメディアを嫌う理由の1つは、母親がメディアのせいで死んだと考えているためだ。ヘンリーには、こうすることがカタルシスになっていると思う」

22年1月にヘンリーの法的代理人が出した声明にはこうある。「公爵(ヘンリー)は20年1月にサンドリンガムで、自身と家族を守るイギリス警察の警護費用を個人的に支払うと申し出たところ、却下された。引き続き公爵は、納税者に負担を強いることのないよう、警護費用を負担する意思を持っている」

ヘンリーの広報担当者は、MoS紙に対する訴訟を取り下げた日の声明でこう述べた。「この訴えが最初に提出されてから既に何年もが経過した。(現在は)RAVECが公爵の警護に関して適切に動いたかどうかについて最終判断を待っているところだ。公爵の関心はその点に、そして家族の安全にある」



ジャック・ロイストン(英王室担当)

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