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大学進学する生活保護家庭の子ども向けに奨学金を新設する世田谷区の英断

ニューズウィーク日本版 2024年2月14日 13時30分

<現行の制度では、世帯を分離して生活保護の対象から外れなければならず、それでは生活と勉学の両立は困難になる>

東京都世田谷区が、生活保護家庭出身の大学進学者を対象とした給付奨学金の制度を創設するという。現行の制度では、生活保護を受けながら大学等の高等教育機関に通うことは認められない。このため生活保護家庭の子が大学進学をする場合、世帯分離をして保護の対象から外れなければならない。

国の高等教育修学支援制度により、生活保護家庭出身者は大学の入学金や授業料は実質無償にはなる。だがアパートの家賃や生活費の一切を自分で稼がねばならず、勉学との両立は非常に困難だ。このような事情から、上記のような支援策は意義あるものと言える。

こうした制度への需要がどれほどあるかは、生活保護を受けている17歳人口を見れば分かる。大学進学を間近に控えた高校2~3年生だ。やや古いが、2020年7月時点で生活保護を受けている17歳は1万4878人(厚労省『被保護者調査』)。同年10月時点の17歳人口(約112万人)の1.3%に相当する。この数値を都道府県別に計算し高い順に並べると、<表1>のようになる。

  

17歳の何%が生活保護を受けているかだが、少なからぬ地域差がある。最も高いのは北海道で3.14%(33人に1人)となっている。1クラスに1人はいそうだ。その次は大阪、京都、福岡といった都市府県が続く。一方、北陸や中部の県は値が低い。親類との関係が強いためかもしれない。

都市部は大学進学率が高いので、生活保護家庭でも大学進学を希望する生徒は多いだろう。東京では、生活保護を受けている17歳は1762人。このうちの半分が大学進学を望んでいるとすると881人。支援の対象者の見積もり数だが、世田谷区のように年間50万円ほどの支援を行うことが可能か、検討してみる余地はある。

厚労省の資料には、政令市や中核市ごとの生活保護受給者数(17歳)も出ている。これを当該年齢人口で割った受給者率にすると、<表1>の都道府県別数値よりも高い値が出てくる。<表2>は、0.5%刻みの度数分布の形に整理したものだ。

  

政令市や中核市のデータを見ると、17歳の生活保護受給者率が4.0%(25人に1人)を超える自治体が4つある。大学進学率が高い都市部で、支援への需要が多いとみていい。

最近は国による支援も充実していて、生活保護家庭出身者が独立して世帯を構える場合、大学の学費が無償になると同時に、返済義務のない給付奨学金も支給される。各大学独自の奨学支援や、世田谷区のような自治体ごとの支援も加われば、教育の機会均等はかなり実現される。高校の進路指導では、こうした情報の提供が求められる。

生活保護家庭の子が学校に通えるのは高校までで、それより上の高等教育を希望する場合は世帯分離して独立生計者になってもらう、という考え方にも異論はある。教育を受けることは、高級車のような「ぜいたく品」を買うのとは違う。法律で定められた権利だ。この大原則を常に念頭に置く必要がある。

<資料:厚労省『被保護者調査』(2020年度)、
    総務省『国勢調査』(2020年)>

  

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舞田敏彦(教育社会学者)

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