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日経平均「ほぼ史上最高」を喜べない2つの理由

ニューズウィーク日本版 2024年2月14日 14時40分

<今回の円高は日本の実体経済への寄与はほとんどなく、外国人投資家が「この先の円高」を見越して日本株を仕込んでいることが考えられる>

連休明け13日火曜の東京市場で、日経平均株価(225種)は一時1100円以上上昇し、取引時間中(ザラ場)の高値としては、1990年1月以来、約34年ぶりに3万8000円台を付けました。この日の終値は、3万8000円を少し下回ったものの、この勢いなら1989年12月29日の史上最高値(3万8915円87銭)を更新する可能性も指摘されています。

久しぶりに景気のいい話のように聞こえますが、冗談ではありません。この話題自体がちっとも喜べない内容だからです。2つお話したいと思います。

  

1つは、この「ほぼ史上最高値」という数字は、どう考えても「国際基準では評価できない数字」だからです。まず、ドル換算をして比較してみると、1989年12月のドル円は、1ドル=142円程度でした。ということは、今回の2月13日の水準である1ドル=149円強という数字よりは若干円高だったわけです。実際の「ドル建ての日経平均最高値」は89年末よりも更にもう少し後のタイミングとなっています。いずれにしても、ドルで考えた日経平均ということでは史上最高値にはまだもう少しあるということです。

そうは言っても、149円と142円ですから、89年当時と現在とではドル円の交換レートは大きな差はありません。問題は、世界の株が上場されているニューヨーク市場との比較です。1989年末の終値と、2024年2月13日の終値の数字を比較すると次のような数字になります。

▽ニューヨーク(ダウ) 2753.2ドル(1989年)>>>38272.75ドル(2024年)
▽ニューヨーク(NASDAQ)1106.53ドル>>>15655.6ドル

NYダウも、NASDAQもこの34年で約14倍になっています。東京市場がこの34年で「やっと株価を戻した」一方で、NYは14倍の成長を遂げているということを考えると、全く喜べません。

日本企業の収益が円安で「膨張」

2点目は、今回の株価上昇の理由です。日本の実体経済が上向きとなり、国内の消費や設備投資が活力を取り戻したからだとは「言えない」のです。単純化してしまえば、円安が大きな要因です。そして昔のように「円安だから輸出産業が好調」ということでもありません。

「トヨタなどの日本発の多国籍企業が、世界で稼いだカネが、円安が進むことで円換算では膨張して見える」
「海外に幅広く案件を持って投資をしている現在の日本の総合商社などの価値が、円安のために円換算では大きく見える」
「円安のため日本株が割安に見えるので、海外投資家が株を買う」

というのが理由です。多国籍企業や商社の場合、世界で稼いだカネを日本に還流させてくれれば、円経済での本物の景気に寄与するのかもしれませんが、実際は外国で稼いで外国で再投資されることが多い傾向があります。また、株主の多くが外国の投資家ですから、儲かったカネを配当すると結局は海外に流れてしまいます。

ですから、今回の株高は日本の国内経済への寄与はほとんどないと思います。そこまでのストーリーは当たり前過ぎて議論にもなりません。問題はその先です。

現在、植田総裁の率いる日本銀行は、「異次元の金融緩和」の出口を模索しています。行き過ぎた円安はエネルギー高、食糧の高騰、資材高などで国民生活を圧迫しており、この円安トレンドを穏やかに着地させることは大きな課題です。

ところが、世界各国がコロナ禍以降に「思い切りカネを使って国家財政を悪化」させているなかでは、日本の財政は各国比較をすれば「まだまし」という印象が市場では一般的になっています。ということは、拙速に「金融緩和から引き締めへ」という転換をすると、期待している範囲を越えた円高になってしまう危険があります。

  

実は、多くの外国人投資家は「この後に来るであろう一時的円高」に期待して、円安のうちに日本株を仕込んでいるという傾向があると考えられます。そうなると、仮にこの後、不用意に円高に振れた場合には、外国の投資家が一斉に利益を確定するための売りに走る危険もあるわけです。そうなると、円高で多国籍企業や商社の見かけの円建て業績が悪化するだけでなく、株が売られて下がるということもダブルで発生します。

では、そのような円高による株安を恐れて、いつまでも「異次元緩和の出口」を先延ばしにしていると、最悪の場合には、どんどん国内の産業や人材が流出してしまいます。また、国内では物価高により生活水準のさらなる切り下げを余儀なくされ、最終的に日本経済は立ち枯れてしまいます。海外と繋がっている部分だけが儲かって、純粋国内産業はどんどん衰退するという筋の悪い格差社会にもなりかねません。

植田日銀は、恐らく春闘の賃上げを実現した後に「異次元緩和の出口」を模索することになると思います。その判断は、過度の円高も怖い一方で、過度の円安を放置することもできない、非常に難しい判断になると思います。ということは、今回の株高というのは、極めて期間限定、一過性のトレンドなのかもしれません。いずれにしても、単純に喜べる話ではないと考えられます。


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