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ロシアが遂に使った(らしい)マッハ9の迎撃不能ミサイル「ツィルコン」の脅威

ニューズウィーク日本版 2024年2月15日 17時8分

<ウクライナの首都キーウへのミサイル攻撃に使われた可能性がある最新鋭兵器は本当に「迎撃不能」なのか。それとも「キンジャール」の二の舞か>

ロシアが2月7日に行ったウクライナの首都キーウに対するミサイル攻撃では、実戦で初めて極超音速ミサイル「ツィルコン」が使用された模様だと、ウクライナ側が発表した。事実であれば、もうじき3年目に突入するウクライナ戦争で初めて、さらには実戦でも初めての使用となる。ただし、ロシアの誇る最新鋭兵器はこれまで必ずしも謳い文句どおりのものではなかったため、ツィルコンの登場が一進一退の戦況にどう影響するかは不透明だ。

ロシアが7日に行ったミサイル攻撃ではツィルコンが使用された可能性が高い──ウクライナ政府の支援を受けたキーウ犯罪科学研究所のオレクサンドル・ルビン所長は2月12日、暫定的な分析結果をそう発表した。

同研究所はミサイルの破片と部品を分析したが、内蔵されていた超小型電子機器は「原型をとどめていない状態」だったとルビンは述べている。

  

「技術的にはまだ未熟」

「ミサイルはかなり細かく破砕されており、同定は困難だったが、それでもこの兵器が、敵の主張するような戦術的・技術的性能に達していないことは明らかだ」と、ルビンは説明した。

ウクライナ空軍のユーリ・イナト報道官は2月14日、本誌に対しツィルコンの使用が確認されたと述べ、ウクライナ軍がロシアの極超音速ミサイルの迎撃に使用し、その威力が実証されている対空防衛システム「パトリオット」を追加供与してほしいと、米政府に訴えた。ただ、ロシアがツィルコンを引き続き使用するかどうかは現段階では予想できないと、イナトは付け加えた。

ウクライナ空軍は7日にロシア軍が前夜から未明にかけて数種のミサイルと攻撃用ドローン(無人機)で攻撃を行ったと発表していた。

それによれば、ロシア軍は数機のTU95戦略爆撃機からKH101、KH555、KH55巡航ミサイルを計29発発射。黒海に停泊する艦船から巡航ミサイル「カリブル」を3発撃ち、加えて弾道ミサイル「イスカンデルM」を3発、対空誘導ミサイルS300を5発、KH22巡航ミサイルを4発発射したという。

ウクライナ軍は、KH101、KH555、KH55計26発、さらに3発のカリブル全ての迎撃に成功したと発表したが、その時点ではツィルコンなどの極超音速ミサイルが使用された可能性については言及していなかった。

ロシアは開発を始めたときから一貫してツィルコンの威力を喧伝してきた。それによれば、最高速度はマッハ9。マッハ1は時速約1225キロだから、その9倍の時速1万1000キロを超えるスピードで飛べることになり、迎撃は不可能だという。

ツィルコンは元々、極超音速の対艦ミサイルとして開発され、ロシアは2020年からフリゲート艦や潜水艦からの発射実験を行っていたと、米シンクタンク・ランド研究所の欧州支部の防衛安全保障アナリスト、マティアス・エケンは本誌に語った。

  

「ロシアはこのミサイルの運用を急いでいたので、早くも実戦配備し、使用した可能性があると聞いても、それほど驚かない」

しかしウクライナで初使用された可能性を過大評価すべきではないと、エケンは釘を刺す。「ロシアが国産の兵器システムを誇大宣伝するのは毎度のことだからだ」

ウクライナ側の発表によれば、ロシアが「無敵」と呼ぶもう1つの極超音速ミサイル「キンジャール」は、これまで何度もウクライナ軍に撃ち落とされた。

ウクライナの防空網は持つか

「ツィルコンが配備されれば、われわれは敵のあらゆる防衛システムを突破できると胸を張って言える」と、このミサイルを製造する戦術ミサイル公社の総帥であるボリス・オブノソフは今年1月ロシアの国営メディアに語った。だが西側の専門家はこの手の主張には懐疑的だ。

とはいえ、ウクライナ側が言うように、キンジャールはパトリオットで迎撃できたとしても、ツィルコンが実戦配備されれば、ウクライナの防空網を揺さぶる深刻な脅威になり得ると、英政府が14日に警告を発した。

今回ツィルコンが使用された可能性については、いくつか不明な点がある。黒海艦隊には今のところこのミサイルを搭載した船はほとんどないとみられているため、ロシア軍の支配地域の沿岸部から地上発射された可能性が高いと、英国防省はみている。地上発射型も開発されている模様だと、エケンも述べていた。

ロシアのアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート艦の1号艦は既にツィルコンを搭載している。ロシアはこの艦を「大西洋、インド洋、さらには地中海を横断する長距離航海」に派遣したと、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は1月初め国営メディアに述べた。

「ツィルコンは開発から試験、運用へとあまりに急ピッチで進んでいるため、開発段階で出てくる諸々の問題をこれほど短期間で全てクリアできたのか疑問が生じる」と、エケンは指摘する。

今回の使用は実戦でのテストではないかと、専門家はみている。ロシアはウクライナ攻撃に最も有効な各種ミサイルの構成を探ろうとしていて、ウクライナの防空網が極超音速ミサイルに対応できるかどうかを試したかったのではないかと、エケンは言う。

  

英国防省も14日に同様の見解を発表した。「ロシアは実際に戦闘が行われている環境で、新たに運用する兵器システムを試し、その能力を確認・実証したかったのではないか」

とはいえロシアが実戦での使用に向けてツィルコンを増産しようとすれば、地上部隊の立て直しなど差し迫った兵備拡充に投入するべき資源がそちらに取られることになると、エケンは指摘する。「そのため、ツィルコン配備でウクライナ戦争におけるロシア軍の命運がすぐにも変わるようなことはまずあり得ない」



エリー・クック

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