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プーチンに「行列は好きじゃない」と言うゼレンスキー 風刺で分かるウクライナ侵攻2年

ニューズウィーク日本版 2024年2月19日 17時50分

<なぜプーチンはウクライナに侵攻し、なぜ戦争は2年も続いているのか。世界で流行る「ロシア人ジョーク」から、プーチンとロシアの真相に迫る>

2022年2月24日、ロシア軍がキーウに向け侵攻を開始した。その後は一進一退があり、多くの犠牲者を出し、ウクライナ軍が反転攻勢をするも膠着。ロシア・ウクライナ戦争はいまだ先の見えない状況にある。

戦況と同様、議論も停滞気味であり、ネットには悪口や誹謗中傷もあふれる。他にあるのは関心の薄れか。

そんな今だからこそ、ユーモアや風刺の力を大切にしたい。

筆者はこのたび、『世界のロシア人ジョーク集』(中公新書ラクレ)を上梓した。『世界の日本人ジョーク集』をはじめ、累計100万部を突破しているジョーク集シリーズの最新刊となる。いま世界で交わされている秀逸なジョークを集め、まるでマトリョーシカのような謎の国ロシアの中身に、風刺と笑いで迫った。

ロシアの詩人、フュードル・チュッチェフは、こう書いている。「知にてロシアは解し得ず」。だとするならば、小難しい学術論文よりも、ジョークを通じた鋭い風刺のほうが、理解への良きヒントになるかもしれない。

ジョークでかの国を、かの人を笑い飛ばそう。

●天国 プーチンが国民への演説の場でこう語った。「戦争など恐れることはない。なぜなら、愛国的ロシア人は皆、死んだら絶対に天国へ行けるのだから!」 その演説を聞いた天国側は、NATOへの加盟を申請した。

ロシアがウクライナへの侵略を始めて、はや2年ほど。もっとも、ロシア側の呼称は「特別軍事作戦」。その目的は「侵略」ではなく、自国の安全保障と、ウクライナの「ナチス」を打倒することだという。これはジョークか真実か。

ロシアには「舌の上にハチミツ、舌の裏に氷」という諺がある。「口先では良いことを言っていても、心は裏腹」という意味である。

長期化する戦争

開戦前のロシアの軍事予算は、ウクライナの約10倍。圧倒的な戦力差をもって、ウクライナ全土を一挙に占領するシナリオだった。

しかし、現実は思い通りに進展しなかった。祖国防衛で一丸となったウクライナと、それを支える欧米諸国の結束により、プーチンの目論見は外れた。

短期戦の見込みが崩れて長期戦に陥るというのは、歴史が伝える「定番のシナリオ」である。4年以上にわたり、約1000万人もの犠牲者を生んだ第一次世界大戦でさえ、当初は短期戦の予測のもとに始まった。支那事変(日中戦争)も然りである。

●ライフル ウクライナ人の一家。居間で父親がライフルの掃除をしていると、学校から帰ってきた息子が言った。「お父さん、先生が言ってたんだけど、ロシア人が宇宙に行ったんだって」 父親はライフルを机に置いて聞いた。「全員?」 子どもが答えた。「いや、3人くらいかな」 父親は再びライフルの掃除を始めた。

欧米諸国は「レオパルト2」や「M1エイブラムス」といった主力戦車をウクライナへ供与。レオパルト2はドイツが誇る主力戦車で、旧ドイツ陸軍が誇ったタイガー(虎)戦車の後継として、レオパルト(豹)と命名された。アメリカの第三世代主力戦車である「エイブラムス」は、第二次世界大戦時におけるバルジの戦いの英雄、クレイトン・エイブラムス大将に由来する。

一方、ロシア軍の戦車は、T-72やT-90など。T-72は被弾すると搭載している弾薬が誘爆を引き起こし、砲塔が高く吹き飛ぶため、「ビックリ箱」なる屈辱的な渾名を冠されている。

●農村 ウクライナ東部のとある村。村長が言った。「我が村は、今や世界で4番目の戦車保有数を誇る」

●戦車大隊問い・ウクライナからロシアに帰還した戦車大隊のことを何と呼ぶ?答え・歩兵小隊

プーチンの未来は?

終わりの見えないロシア・ウクライナ戦争。プーチンとしては、
(こんなはずではなかった)
というのが正直なところか。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、もともとはコメディアンであり、「局部でピアノを弾いているように見せるコント」といった際どい下ネタまで披露していた人物だったが、開戦後はすっかり「戦時大統領」に。一方、プーチンは今や「ジョーク界の主役」である。

すなわち、ロシアによるウクライナ侵略は、一人のコメディアンを消し、一人のコメディアンを生んだ。

もちろん、プーチンを単にコメディアンと言い切ってしまえば、世界中のコメディアンに悪い。

●墓 プーチンがゼレンスキーに電話で言った。「もし私が死んだら、あなたは私の墓に小便をかけにくるだろうね」 ゼレンスキーが答えた。「いや、そんなことはしませんよ」 プーチンが驚いて聞いた。「なぜ?」 ゼレンスキーが答えた。「行列に並ぶのは好きじゃないんだ」

神出鬼没の世界的アーティストであるバンクシーはウクライナを訪れて、瓦礫の壁に作品を描いている。小さな子どもが柔道着を着た大人を投げ飛ばしている絵である。子どもはウクライナ、大人は柔道家であるプーチンを表していると思われる。

国際柔道連盟の名誉会長職にもあったプーチンだが、今回の侵攻の結果、その職は停止の処分に。柔道界をも敵に回したのである。

プーチンが挑んだこのたびの戦争、その行方はいかに。「一本勝ち」とはいきそうにない。

●1年後の世界 クレムリンが空爆され、プーチンは意識を失った。意識が戻ったのは、実に1年後のことであった。 体調の回復したプーチンは、モスクワの様子を確認しようと、変装して街に出た。プーチンはバーに入り、バーテンダーにさりげなく聞いた。「クリミアは私たちのものですか?」「ええ、もちろん」「ドンバスは?」「無論、私たちのものですよ」 プーチンは安心して笑みを浮かべた。満足したプーチンはウォッカを飲み干し、バーテンダーに聞いた。「いくらになるかね?」 バーテンダーが言った。「10ユーロになります」

『世界のロシア人ジョーク集』
 早坂 隆 著
 中公新書ラクレ

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早坂 隆(ノンフィクション作家)

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