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イギリス、古着を一堂に集めたクールなポップアップストアが人気 CO2削減し売上は慈善活動へ寄付

ニューズウィーク日本版 2024年2月19日 20時13分

<環境負荷が高いと指摘されるファッション業界。その常識を打ち破る試みが話題だ>

2月9日から、ロンドンの繁華街で「チャリティースーパーマーケット」というファッションイベントが始まった。洋服、靴、バッグとあらゆるアイテムが並んだこの販売会は、ニューボンドストリートの旧フェンウィックデパート内で23日までの2週間にわたって開催されている。並べられたファッションアイテムはすべて中古品という点(デパートから退居したデザイナーズブランドから寄付された商品もある)、豊富な品揃え、そしてクオリティーの高さが話題を集めている。

2月3日に店じまいしたばかりのフェンウィックはロンドン中心部のウェストエンドで130年以上続いた高級デパートだった。閉店したばかりの高級百貨店での古着販売という斬新な販売方法について、国内の多数のメディアが報じている。

古着の売上は、慈善活動のために使う

チャリティースーパーマーケットは、売り上げが慈善活動に使われる点でも注目されている。場内では、がん研究の団体「キャンサーリサーチUK」やホームレスの住居を支援する「シェルター」、中古ファッションを販売し、他国での衣類製造における労働や環境の問題解決のために資金援助をしている「トレイド」など5つの慈善団体が、各自に割り当てられたスペースで中古アイテムを販売している。

イギリスには、慈善団体が運営する「チャリティー・ショップ」が多数ある。個人や企業に寄付してもらった中古品・新中古品(衣類だけでなく、本や家具や家電なども)を販売し、売り上げはその団体の活動に使う。スーパーマーケットの参加団体は、こうした慈善団体の一部だ。

チャリティースーパーマーケットでの買い物の仕方は、通常の買い物と変わらない。いくつかの慈善団体から複数のアイテムを選んでも、レジで一括して支払える。個々の商品の売上は、各慈善団体に配分されるレジシステムを採用している。

チャリティースーパーマーケットのレジカウンター

チャリティースーパーマーケットはクラブのような雰囲気でDJプレイが行われている。

2023年1月から、イギリス内でスタート

チャリティースーパーマーケットは約1年前の2023年1月から始まった。期間限定でオープンするポップアップストア形式で、イギリス各地の「ショッピングセンター内の一角に出店する」というコンセプトだ。

最初のチャリティースーパーマーケットはロンドン北部の大型商業施設、ブレントクロスショッピングセンター内に開店した。この時参加したのは、10の慈善団体。開店期間は1カ月間だったが、あまりの人気の高さに2週間延長された。

今年、チャリティースーパーマーケットはブリストル、ロンドン西部、オックスフォードですでに開店している(ブリストルとロンドン西部は昨年から継続しており、2024年2月まで営業)。参加慈善団体数は、場所により、3団体だったり4団体のこともある。

チャリティースーパーマーケットは、以前はロンドンのフリーマーケットに出店していた。古着のレベルアップを目指そうと、ショッピングセンターという目立つ場所で一定期間、実店舗を構えるアイデアが生まれたのだという。考案者2人のうちの1人は、先述したトレイドのCEOマリア・チェノウェス氏だ。

チャリティースーパーマーケットの創業者のふたり

「古着の循環」をさらに加速させたい

チャリティースーパーマーケットの環境面での貢献は大きい。同サイトでは、昨年実施したポップアップストアでの売り上げやCO2削減量を公開している。

第1回目のブレントクロスショッピングセンターでのポップアップストアの成果は、ごみとして処分される約11トンの古着、約102トンのCO2量、約18,000立方メートル(小学校の25メートルプールで約45杯分)の水を削減したり節約した計算になる。このような成果は、毎回のポップアップストアでも報告されている。

イングランド南東部イングランドケント州にある巨大ショッピングモール「ブルーウォーター」での開催時にも廃棄物やCO2削減についての報告がSNSで発進された。

人気の古着交換イベントを業界関係者も主催

イギリスでは古着交換会も人気だ。たとえば、イギリス中部のノッティンガムでは、「ザ・ビッグ・スワップ」が継続的に古着交換イベントを開催し、好評を博している。参加費10~15ポンド(約1800~2800円)を払い、古着(服や靴など。ナイトウェアや下着、宝石類は不可)10点を事前に持ち込み、その後、集められたすべての古着の中から10点を選んで持ち帰れるという仕組みだ。余った古着は慈善団体が運営するチャリティー・ショップに寄付される。

またこうした古着交換はファッション業界関係者にも飛び火している。昨年2月には、ファッションチェーンのザラとコラボもしている著名トップスタイリストのハリー・ランバート氏、サステナブルファッションのインフルエンサー、ボディ・ポジティブの提唱者の3人が立ち上げた1日限りの古着交換イベント「アブソルート・スワップ・ショップ」がロンドンで開催された。

イギリスでは、年間繊維廃棄物は1人当たり3.1 kgだという。このうち、古着としてリユースされるのは0.4 kg、リサイクルして他の原材料にするのは 0.3 kgのみ。残りの0.8kgは焼却され、1.7kgは埋め立て処分されている(Circular)。

イギリスには、ヴィンテージ品や古着を新しいデザインに作り直したアップサイクル品を販売する店もたくさんある。中古ファッションのオンラインショップも増えている。様々な方法での古着の循環は、焼却されたり埋め立てられる衣類の割合を大幅に減らすことになるのか、今後の行方に注目したい。

[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com


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