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【独占】プーチン批判の急先鋒ナワリヌイ「私は死を信じない」

ニューズウィーク日本版 2024年2月19日 18時1分

<ロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイが獄中で死亡した。ウラジーミル・プーチン大統領の最大の政敵だった活動家が死の半年前に自分について答えた言葉を独占公開する>

北極圏の刑務所で獄死したロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイは、死の半年前、祖国への希望や家族への愛、自分の考え方などについて回答していた。「私はロシアが幸福で自由になると信じている」、そして「そして私は死を信じない」と。

ナワリヌイの死は2月17日朝に公表された。彼の広報担当者キラ・ヤルミッシュは、ナワリヌイの遺体が北極圏の刑務所から近くの町に移されたとXへの投稿で明かし、遺体を家族に引き渡すよう要求した。

ナワリヌイはボリス・アクーニンがロシア中の政治犯に送った13項目のアンケートに答えを書き送っていた。

世界的に知られる人気作家で日本文学研究者でもあるアクーニンは昨年10月、自身のウェブサイトで政治犯たちからの回答をまとめた電子書籍を出版した。その英訳版(3月に出版予定)からナワリヌイの回答を抜粋、ここに独占掲載する。

  

――あなたは何者か。

刑務所の職員はいつも私に向かって「ふむ、今日は機嫌がよさそうだな...」という不満げな言葉を口にする。つまり、こういうことだろう。私は政治犯で、家族や仕事、仲間をとても恋しく思っているが、いつも元気だ。もちろん、読書家でもある。一日の大半を、本を片手に過ごしている。

最大の喜びは家族

――何を信じている?

神と科学だ。私たちは非決定論的な宇宙に生きており、自由意志を持っていると信じている。私たちはこの宇宙で孤独ではないことも信じている。私たちの行いはいずれ評価されると信じている。真実の愛も信じている。ロシアは幸せで自由になれると信じている。そして、私は死を信じない。

――最も重要な決断を下す際に何を頼りにするか。理性か直感か?

理性と直感は矛盾しない。選択肢が誤っている。進化の結果、人間はベッドにヘビがいたら、じっくり考えずとも行動できるよう設計されている。また、ヘビが入り込めないような家を建てると即座に決断することもない。

このことについては、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』(早川書房刊)という素晴らしい本がある。ぜひ読んでほしい。

――人生でもっとも大切なことは?

社会の役に立ち、良い人間であり続けること。

――最大の喜びは?

家族団らんのひととき。車に乗って一緒にどこかに行くときとか。誰かがふざけて歌い始めると、みんながこぞって参加する。何曲も歌い続けてやめない。そして愛と幸せが溢れ出す。

――最大の悲しみは?

多くの人がものを考えようとしないこと、基本的な因果関係も理解していないこと。「汚職は私の生活には関係ない」とか、「権力の座にいる連中が盗みを働いた。だが人が代わっても同じことだろう」などと誰かが言うのを聞くたびに、悲しく感じる。

何億年もの進化によって、最も素晴らしい頭脳を与えられているのに、この人はなぜそれを使わないのだろう、と思ってしまう。

  

――人間と人類に最大の悪をもたらすものは?

「悪は、善人が行動しないだけで勝利する」――誰かの言葉だ。驚くほど的を射ている。中立という偽善、政治的無関心、利害対立、隠れた怠惰、卑劣こそが、人類の歴史を通じて、組織化した悪党集団に何百万もの人々の支配を許してきた主な理由といえる。

――人類に最大の利益をもたらすのは?

「善」対「中立」の戦いに関わること。

――今のあなたにとってロシアとは?

私が理解できる人々が住む、くつろげる場所。私は国と政府を切り離して考えることができるので、激動のこの時代においても、ロシアへの愛は変わらない。

――あなたにいちばん大きな影響を与えた芸術は何か?

私は文学が好きで、少しは理解しているつもりだ。映画も音楽も建築も好きだが、それほど詳しくはない。「敬意をもっている」と言えるだけだ。

文学はあらゆる芸術のなかで最も強い影響力をもつ。なぜなら、文学はわれわれ自身の想像力を通じて訴えてくるからだ。それより強い影響があるものなど考えられない。

Yesterday Navalny looked to be fine during a court hearing where he spoke via video link from his penal colony pic.twitter.com/e8HoAnWsQB— Francis Scarr (@francis_scarr) February 16, 2024

  



ジョアン・ターンブル、ニコライ・フォルモゾフ

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