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日独GDP逆転の真相

ニューズウィーク日本版 2024年2月21日 12時0分

<日本のGDPがドル換算でドイツを下回り世界4位になったことが明らかになった。これについては、様々な見方がある。今考えるべき問題の本質は何なのか......>

日本のGDPがドイツに抜かれ、世界4位になる可能性が昨年末からメディアで報じられていたが、2023年のGDP実績が公表され、ドル換算でのGDPがドイツを下回ったことが2月15日に明らかになった。これについては、様々な見方がある。

まず数字を確認すると、2023年の日本名目GDPは4.21兆ドル、ドイツは4.45兆ドルと、日本の名目GDPはドイツと比べて約6%下回った。もっとも良く知られているとおり、ドル換算した名目GDPは、金融市場の為替レートの変動で大きく動く。2023年に為替市場では円安が進み、ドルベースの日本GDPは押し下げられた。

具体的には、2023年のドル円は平均で1ドル140.5円と、前年から6.9%円安となった。一方ユーロドル(2023年平均)は1ユーロ1.080で、前年から対ドルで2.5%ユーロ高だった。為替変動だけで、2023年の日独の名目GDPは約10%変動したことになる。為替レートが年間10%程度動くことは珍しくないので、日本とドイツのように同様の経済規模のGDPの順位は簡単に入れ替わる。

  

円安をネガティブにとらえる必要はない

一方、「大幅な円安=日本が貧しくなった象徴」と考える向きからすれば、日本のGDPの低落は由々しき事態に見えるのかもしれない。ただ、2022年からの円安は、脱デフレ完遂を目指す日銀による金融緩和によって「半ば意図的に」起きたともいえる。経済安定化を目指す政策がもたらす円安で、日本が経済正常化の軌道にのりつつあるのだから、円安をネガティブにとらえる必要はないだろう。

円安は個々の経済主体にとって異なる影響が及ぶが、経済過熱や高インフレが問題ではない現状の日本では、経済全体では通貨安のメリットの方が大きい。実際に、日本企業の利益が増え続け、日経平均株価などは34年前のバブル時の最高値を超えつつある。円安による企業利益の拡大が、2年連続で賃金上昇をもたらし、「インフレと賃上げの好循環」が動き始めている。

ちなみに、2023年の日本の名目GDPは5.7%と大きく伸びた(同年のドイツ名目GDPは+6.3%)。一方で、物価変動を除いた日本の実質GDPは+1.9%と、ドイツ(-0.3%)よりも高い伸びだった。円ベースの経済圏で所得を得る多くの日本人にとって、2023年は日本の経済的な豊かさはドイツよりも高まっていたのが実情である。

日独GDPが2023年に逆転した問題の本質

日独GDPが2023年に逆転した問題の本質は、1990年代半ばまでは高かった日本の経済プレゼンスが長年にわたり低下して、先進国でありかつ人口規模規模が小さいドイツに、過去20年余りで肉薄されていたことにある。

日本は1990年代半ばから、デフレを伴う経済停滞が続き、先進各国の中でほぼ唯一名目GDPが全く増えない状況が、2012年まで20年近く続いた。具体的に、1995年を基準(100)とした2012年時点の名目GDPを比較すると、日本は96とやや低下、ドイツは144と約1.5倍に増えた(米国など他の先進国はもっと増えた)。2013年以降は日本の名目GDPも緩やかに増え始めたが、ドイツなどよりも伸びは低いままだった。

過去2年の大幅な円安が起きたことよりも、2012年頃まで行き過ぎた通貨高に直面して、先進各国の中で日本だけが低インフレとともに低い成長率に直面した。これが、日独GDP逆転の本質である。

1990年代後半からデフレが長年解消されなかった背景には、保守的な政策当局者が脱デフレに不十分な対応に終始し、緊縮的な経済政策が続いたことが大きかった。そして、こうした政策姿勢には、「貨幣(通貨)価値」を高めることを重視する偏った貨幣観を、多くの人が抱いていたことが影響していた、と筆者は考えている。

そして、こうした偏った貨幣観が依然根強く残っていることが、大幅な円安やドルベースの名目GDPの低下を、必要以上に問題視する見方に影響しているのかもしれない。ただ、貨幣価値を高めることに拘り過ぎると経済成長を阻害してしまう、ことを我々は教訓にするべきではないか。

  

日本>ドイツと再逆転する可能性は十分ある

ところで、2023年のGDPの日独逆転は、為替市場の変動がもたらした部分が大きいが、今後過去2年のような円安が続く可能性は高くないだろう。日本経済が正常化の道筋を辿りつつある中で、大幅な円安は修正される余地がある。また、デフレ完全脱却とともに、日本の名目GDPは今後伸びると伸びると予想される。このため、2024年以降、ドル換算の名目GDPでみれば、日本>ドイツと再逆転する可能性は十分ある、と筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)


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