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真の「ロシアの愛国者」はプーチン大統領か、ナワリヌイ氏か...獄死した夫の意志を継ぐ妻ユリアさんの叫び

ニューズウィーク日本版 2024年2月21日 17時14分

<刑務所で急死した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイの妻ユリアがメッセージを公開。国の未来のため行動を起こそうと呼びかけた>

[ロンドン発]北極圏のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所で獄死した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)のユーチューブ・チャンネルで19日、妻ユリアさん(同)は「このチャンネルに登場するのは今日が初めてです。本来ならこの動画は撮影されるべきではありませんでした。私の代わりに別の人(夫)が出るべきだったからです」と訴えた。

■【動画】アカデミー賞受賞ドキュメンタリー『ナワリヌイ』予告編

「その人はウラジーミル・プーチン(露大統領)に殺されました。3日前、プーチンが私の夫アレクセイ・ナワリヌイを殺した理由を知っています。プーチンは私の子どもたちの父親を殺しました。プーチンは、私が持っていた最も大切なもの、最も親しい最愛の人を奪いました。極北の永遠の冬の中であなたたちすべてからナワリヌイを奪ったのです」

「プーチンはアレクセイ・ナワリヌイを殺すことで、私たちの希望、自由、未来を破壊し、無効にするために殺したかったのです。ロシアは変わることができます。私たちは強く、勇敢で、信じ、戦い、違う生き方を望んでいます。私たちは手を携えて、この国の未来を美しいロシアに変えていきましょう」とユリアさんは訴えた。

ナワリヌイ氏は3年間の拷問と苦痛の末、流刑地で死んだ。他の受刑者のように刑務所に収容されていただけではない。拷問を受け、隔離されたコンクリートの懲罰房に閉じ込められた。6~7平方メートルの独房にはスツールと流し台、床にあいた穴がトイレだ。壁に取り付けられたベッドは横になる幅もない。コップと1冊の本と歯ブラシがあるだけだ。

「何のために戦うか、一瞬も疑わなかった」ナワリヌイ

ユリアさんは「夫は家族に手紙を書く紙もペンも与えられませんでした。拷問と飢えに苦しんでいたにもかかわらず、あきらめませんでした。私たちを励まし、笑い、冗談を言い、鼓舞してくれました。夫は自分が何のために戦い、苦しんでいるのか、一瞬たりとも疑うことはありませんでした。プーチンが夫を殺したのはこの不屈の魂のためでした」と続けた。

「プーチンは夫を卑怯な方法で殺しました。同じように卑怯なやり方で、今、彼の遺体を隠し、母親に見せることも、引き渡すことも拒んでいます。ウソをつき、致死性の神経剤ノビチョクの痕跡が消えるのを待っているのです。誰がどのようにこの卑劣極まりない罪を犯したのかを突き止め、名前と顔を明らかにします」

「しかし夫のために、私たち自身のためにできる最も重要なことは闘い続けることです。これ以上は不可能に思えるかもしれないが、私たちはもっと団結して、この狂気の政権を殴りつける必要があるのです。プーチンとその仲間たちが祖国を機能不全に陥れています。私は、あなたがズタズタに引き裂かれているのを感じています」

2020年8月、モスクワに戻る機中でノビチョクを盛られたナワリヌイ氏はドイツで治療を受けた際、身の安全を守るためそのまま残ることもできたが、投獄されるのを覚悟の上でロシアに戻った。その理由についてユリアさんは自問自答する。「なぜ彼はロシアに戻ったのでしょうか。なぜ彼は、一度自分を殺しかけた連中の魔の手に進んで身を投じたのでしょうか」

「私にはまだ残りの半分がある」とユリアさん

なぜナワリヌイ氏は犠牲を払ったのか。ユリアさんは「結局のところ彼は平穏に暮らし、自分と家族の世話をすることもできたはずです。公に話さず、調査せず、名乗り出ず、闘わない選択肢もありました。しかし、彼はそうしませんでした。アレクセイは世界の何よりもロシアを愛していたからです。彼は私たちの国を愛し、あなたを愛していました」と訴える。

「彼は私たちを信じ、私たちの力を信じ、私たちの未来を信じ、私たちがベストに値するという事実を信じました。言葉ではなく、行動で。そのために命を捧げる覚悟ができるほど深く、誠実に。そして彼の計り知れない愛は、私たちが彼の仕事をいつまでも続けるのに十分なものです。アレクセイのように激しく、勇気を持って」

「私には他に国がありません。引きこもる場所もありません。他の国も、他のモスクワも、他の家族も、あなたたち以外の人々もいないのです。しかし、どうやって生きる力を得ればいいのでしょう。彼の記憶の中に、彼のアイデアの中に、私たちに対する彼の無尽蔵の信頼の中に私は力を求めます」

「アレクセイを殺したことで、プーチンは私の半分を、私の心と魂の半分を殺しました。しかし私にはまだ残りの半分があり、半分になった心と魂は私にあきらめる権利はないと教えてくれるのです。黙って抵抗するのではなく、街頭に出ましょう。私たちが行動を起こさなければ、他の誰も私たちを守ってはくれないのです」

「あきらめて何もしなければ悪が栄えるだけだ」

「私たちは1人ではありません。何かを成し遂げようと思えば必ず成し遂げられます。私は夫の大義を引き継ぎ、祖国のために闘い続けます。ともに立ち上がり、私たちにまとわりつく悲しみや終わりのない痛みを分かち合うことを求めます。私たちの未来を殺そうとしている者たちへの怒りと憎しみを分かち合ってください」とユリアさんは呼びかけた。

06年、致死性の放射性物質ポロニウム210で暗殺されたロシア連邦保安局(FSB)元幹部アレクサンドル・リトビネンコ氏の妻マリーナさんは英政府がプーチンとの取引に揺れる中、「おそらくプーチンやニコライ・パトルシェフFSB長官(当時)は承認していた」という英公聴会報告書の結論を引き出すまで孤軍奮闘した。支援は少しずつだが、広がった。

20年、プーチンの同盟国ベラルーシの大統領選に立候補する予定の民主活動家の夫セルゲイ氏が当局に拘束され、代わりに自分が立候補するまで一介の英語教師に過ぎなかったスベトラーナ・チハノフスカヤさんは民主派リーダーとして国外から抗議活動を主導した。妻の叫びは国内外の魂を揺さぶった。

暗殺や投獄された反プーチン派の政治家の妻たちは死を恐れず、次々と立ち上がっている。

国旗を振りかざし国民に愛国心を求め、密室で権力を握ったとたん私服を肥やし、国民の命を無慈悲な戦争に放り込む。ロシアの美しい大地は今やクレプトクラシー(盗賊政治)と軍産複合の戦時体制に支配されている。ナワリヌイ氏の道徳的勇気と、プーチンが描くグロテスクな歴史と愛国心。

ユリアさんは3月の露大統領選に向け、動き出すとみられている。プーチンのプロパガンダマシンは早くもユリアさんに西側情報機関の手先として活動するセレブというレッテルを貼り始めた。「あきらめて何もしなければ悪が栄えるだけだ」(ナワリヌイ氏の遺言)。ユリアさんだけでなく、私たちにもあきらめるという選択肢はない。


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