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イスラエルにも受け入れ可能な「ガザ戦争」の和平のシナリオ...水面下で動き出した「希望」への道筋

ニューズウィーク日本版 2024年2月22日 17時21分

<イスラエルとパレスチナ双方が受け入れ可能な「2国家共存」に向けた具体的プロセスがひそかに策定されている>

イスラエルは昨年10月7日に起きた虐殺のショックで今も大揺れに揺れ、パレスチナ自治区ガザは瓦礫の街と化し、この地を実効支配するイスラム組織ハマスは人質の解放を拒み続けている。この状況では中東の明るい未来など描けそうにない。

しかしメディアは伝えていないものの、水面下では和平への道筋を探る動きがあり、希望を持っていい理由がある。

ここで紹介したいのは、イスラエルとパレスチナ、西側の専門家がこの数週間協議を重ねて策定した和平の枠組みだ。協議に参加した人たちは全員ではないが大半が元官僚で、過去の和平交渉に関わった顔触れもいる。非常に繊細なプロセスの進行を妨げないよう協議に加わった人たちの実名は伏せるが、策定された枠組みは早晩何らかの形で公式に受け入れられると私たちは確信している。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いるイスラエルの現政権はこの枠組みを突っぱねるだろうが、政権が交代すればイスラエルにとっても十分に受け入れ可能な内容になっている。現在、欧州各国の政府と米議会が中身を精査中で、近く米政府高官にも詳細が提示される予定だ。

ネタニヤフはハマスの奇襲を防げなかったばかりか、過去1年にわたってはプーチン式の強権支配を固めようとして失敗し、狂信的な極右頼みの政権運営も災いして、その政治生命は風前の灯火となっている。今のところネタニヤフが和平プロセスの進展を妨げているが、失脚は時間の問題だろう。

慎重ながらも今後を楽観視できる大きな理由は、穏健なアラブ諸国が以前からイスラエルとの和解の可能性を探っていたことだ。イスラム教スンニ派諸国の支配層の間では「中東の未来はイスラエルを組み込んだ地政学的構造の構築にある」との見方がコンセンサスになりつつある。

テロの脅威をなくす

このコンセンサスは何年も前から形成されつつあったが、ガザ戦争をきっかけに明確な輪郭を持った。2020年の「アブラハム合意」では、米政府の仲介でアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルと国交を回復した。サウジアラビアはパレスチナ国家の樹立が先決だとして、これに加わらなかったが、その立ち位置は変わったようだ。

専門家チームが策定した和平の枠組みは、交渉の前提としてサウジアラビアなどアブラハム合意に加わらなかったアラブ諸国にイスラエルとの国交正常化に合意することを求めている。一方でイスラエルにも国交正常化と引き換えに、パレスチナ国家の樹立を認めるよう要求している。

パレスチナ国家の領土はヨルダン川西岸とガザを合わせた広さになるが、どう線引きするにせよ、イスラエルに2国家共存を認めさせるには、パレスチナの非武装化が絶対条件となる。

10.7後のイスラエルが領土の分割に治安上の不安を抱くのは当然だ。イスラエルが05年にガザ全域と西岸の一部から入植者と兵士を完全に撤退させた結果、暴力的なジハード(聖戦)主義組織であるハマスがガザを支配した。

そのため和平の枠組みは、イスラエル軍と入植者に即座の全面的な撤退ではなく、段階的な撤退を求めている。そしてパレスチナの完全な非武装化を交渉の前提条件とし、新たに誕生するパレスチナ国家に暴力的な武装組織の一掃を求めている。当面はアラブ諸国も含めた第三者機関がこうした安全保障上の取り決めの遵守を監視することになる。

和平の枠組みを支えるのは3つの岩盤原則だ。第1にイスラエルとパレスチナが双方を正式に国家として承認する。第2に合意の重要な側面については地域や西側の国々がその実施を支援し、合意の履行を監視する。第3に今回の危機で生まれたモメンタム(勢い)を生かし、初期段階で合意の大枠を固める。

注目すべきは、この枠組みがパレスチナ過激派のテロと武装勢力の攻撃を終わらせることを交渉の大前提にしている点だ。それが実現すれば、イスラエルが払った10.7という代償も無駄ではなかったことになる。

ガザの復興支援のための連合の創設も提案

エルサレムについてはどうか。枠組みは、和平プロセスがある程度進んだ段階で旧市街を特区にすることを提案する。ユダヤ、イスラム、キリスト教の聖地が集まる旧市街の扱いは過去の和平交渉で最も手ごわい難題となった。旧市街をあらゆる宗教のあらゆる信徒が入れる聖地にすることが和解に向けた一歩となる。

生まれたばかりのパレスチナ国家は5年の移行期間中に主権国家としての体制を整えることになる。新たに誕生する政府がパレスチナ自治政府やパレスチナ解放機構(PLO)などの組織に取って代わり、旧組織のメンバーもそこに加わる。今回の危機ではエジプトやカタールが交渉仲介の労を取った。それらの国々も加えた国際的なメカニズムを構築すれば、それを通じて2国家共存の実現を支援し、イスラエルとサウジアラビアなどのアラブ諸国との国交回復を仲介できる。

和平の枠組みはまた、ガザの復興支援のための連合の創設も提案している。アメリカとEUが主導し、イスラエルとパレスチナ、アラブ諸国も加わるこの連合が基金の創設も含め詳細な復興・再開発計画を策定する。さらにアメリカとEUの主導で、和平プロセスを豊かさと安定につなげていくために、より広範な経済支援策も実施される。

月並みな表現だが「夜明け前が一番暗い」という言葉は今の状況にも当てはまる。虐殺と破壊が続く今、誰もが新しい夜明けを待ち望んでいる。地域と世界は手をこまねいて見ているわけにはいかない。

ダン・ペリー(ジャーナリスト)、ギレアド・シェール(1999年の和平交渉のイスラエル代表)

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