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「安定した会社で定年まで...」では逃げ切れない時代に...「キャリア」と本気で向き合うのに必要なこと

ニューズウィーク日本版 2024年2月29日 17時21分

<2万人のキャリアを支援したエッグフォワードの徳谷智史社長に聞く「キャリア3.0」時代に求められる「セルフアップデート」>

これからはキャリアが流動化する「キャリア3.0」の時代が到来する――。キャリアの「旅」に必要な考え方や視点を体系的に与えてくれるのが『キャリアづくりの教科書』(NewsPicksパブリッシング)です。

著者の徳谷智史さんはエッグフォワード株式会社の代表取締役社長であり、これまで2万人以上のキャリア支援と、1000社に迫る企業の組織変革を手がけてきました。キャリア開発のプロである著者に、フライヤー代表取締役CEOの大賀康史が「キャリア3.0」時代に必要な個人と経営者のあり方を聞きます。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

めざしたのは、「生き方のデファクト・スタンダード」になる本

大賀康史(以下、大賀) 『キャリアづくりの教科書』を読んで、キャリアに本気で向き合う人を支えようという熱量が伝わってきました。本書にどんな想いを込めたのでしょうか。

徳谷智史さん(以下、徳谷) 私の原体験や、コンサルタント時代の経験、エッグフォワードでの経験を通じて、「もっと自律的にキャリアを選択できる社会にしない限り、人の可能性は広がらない」と考えたんですね。特にコンサルタント時代には、個としては真面目に頑張ってきたにもかかわらず、組織都合で本人にとって不遇なキャリア選択になる事例を数多く見てきました。悔しくて堪りませんでした。でも、それは個人ではなく社会構造自体に問題がある。そうした現状を変えていくような、キャリア選択や生き方の新しいデファクト・スタンダードになる本をつくれないかと考えました。

デファクトというからには、できるだけ幅広い読者の意思決定のバイブルになるようにと、色々な年代、境遇の方を対象にしています。自分ごとだと思ってもらえるように、これまでの企業変革で実際に体験した実例を盛り込み、まずは私自身こそが内面も恥を恐れず極限までさらけ出した。まさに魂をこめて書いた本といえます。

執筆には4-5年を要しました。最初は1000ページ超のボリュームになったのですが、NewsPicksパブリッシング編集長の井上慎平さんが、本質を絞り込み、濃縮してくれて、ようやくその半分におさまりました。「こうすればラクに企業にフリーライドできる」みたいな指南書では決してなく、キャリアに本気で向き合おうとする人を支える本です。

類書との違いは、個人側だけでなく組織側の視点もカバーしたこと。個人の意志やスキルだけでなく、組織の論理もわかったうえでキャリアを選択することが自律的なキャリア形成には必要です。同時に、人の可能性を活かせる組織こそが、これからの社会のデファクトになっていってほしい。そう考えて、できるだけ立体的に構造を伝えるようにしました。

『キャリアづくりの教科書』
 著者:徳谷智史
 出版社:NewsPicksパブリッシング
 要約を読む

「キャリア3.0」時代は、いまの延長線上では逃げ切れない

大賀 個人のキャリアとの向き合い方は、どう移り変わってきたとお考えですか?

徳谷 「キャリア1.0」時代は、年功序列・終身雇用が前提で、一社に入社すると大きな流れに身を任せていられた。「キャリア2.0」では、転職が一般的になり、会社にとどまる人は昇進・昇格を、転職する人は新たな組織の山頂をめざしてきた。いずれも、これまでの延長線上で、ある程度逃げ切れました。

ところが、これからは、旅のように自ら行き先を決めて、方向性を見出し、必要な武器を身につけて歩んでいく「キャリア3.0」の時代です。これを「キャリアジャーニー」と表現しました。自分がどうありたいかを中長期的な視点で考えないといけないし、正解も一つではない、そんな、自由でもあり、見方によっては過酷ともいえる時代です。

大賀 徳谷さんは2万人のキャリアに向き合ってこられましたが、時代の変化に伴い、個人からの相談内容にも変化はあるのでしょうか?

徳谷 安定していそうな会社に勤めていても、思考停止で定年まで過ごそうとする人は劇的に減りました。「思い切って社外に出るか異動するかして、現状を変えたい」と自律的な選択をする人が増えてきたなと。

一方で、若手の方は「正解を求める思考」がますます強まっています。社会に出て正しいレールを探すものの、何を軸に考えたらいいかわからない。こうした方にこそ、キャリア選択の正解ではなく、選択のための視点や考え方を提供したいですね。

生き方のスタンダードが変化しないと、社会は変わらない

大賀 徳谷さんのお話を聞いていると、「社会のために」という使命感を強く感じます。どんなところに使命感を持っているのでしょうか?

徳谷 エッグフォワードの掲げるミッションは「いまだない価値(Egg)を創り出し、人が本来持つ可能性(Egg)を実現し合う世界を創る。」。そしてめざすビジョンは「人と世界のいまだないターニングポイントを創る。」です。これが私の使命感でもあります。

著書にも「いまだない価値」や「ターニングポイント」「起点」といった言葉が数多く出てきます。それは、変化の起点になり、それが波及していくような世界観を大事にしているから。ミッションで「人が本来持つ可能性を実現し合う」と表現しているのも、連鎖するような社会構造をイメージしているからです。

フライヤー代表取締役CEOの大賀康史(右)と徳谷智史さん

こうした社会を実現するために、組織のコンサルティングも人材育成もやるし、スタートアップへの出資や支援もします。一方で、個人のキャリア選択、さらにいうと生き方のスタンダードが変化しないと社会は変わらないので、個人も、企業経営者やチームを率いる人も支えていきたい。

事業には社会的なインパクトの大きさが問われるので、仕組み化やビジネスモデル化は当然必要です。でも、「目の前の一人が変わらないのに、いきなり仕組みだけで本当に社会が変わるのか?」とも思っています。その人が自分自身と向き合って変化し、その影響が周囲に広がっていくことを大事にしたいですね。

大賀 一人ひとりに向き合う視点と、社会全体を見る視点の両方を大事にされているのは、そうした背景があったのですね。徳谷さんがこうした使命感を持つようになった原体験はありますか。

徳谷 原体験は2つあって、1つは、幼少期に身内を失った経験です。人生は有限なのだと突きつけられました。

2つめは、海外放浪の経験。人は周囲からラベルを貼られるけれど、環境が変わると違うラベルを貼られると知りました。途上国で、恵まれない環境から構造的に抜け出せない人たちを直接目の当たりにして、「我々なんてちょっとしたきっかけで、いくらでも変われる」と改めて気づいたのです。

実際に、たった一人でも本気で向き合ってくれる人と出会ったり、チャレンジングな環境に身を置く機会が得られたりすると、人は変われるし、自分では気づいていない可能性を発揮できる。だから、私たちが、人を「変える」のではなく、本人の心からの在りたい姿を見出して「変わるきっかけ」をつくる、という意識でいます。

大賀 その感覚にとても共感します。「人を変える」というのは若干おこがましいように思うし、その人が本来持っている可能性を活かすきっかけをつくることなら、周りの人も何かしてあげられる気がしますね。スタートアップ経営者の方々も、徳谷さんに心を開いて、自然と変容に向かっているように思います。

徳谷 経営者の話を枠にはめずに理解しようとすることで、相手が結果として胸の内を吐露している面はあるかもしれません。スタートアップの創業者の思いやビジョンは一人一人違うものなので、こちらから押しつけることはすべきでないと思うんです。経営者や会社に課題があるとして、そこに至った背景は多様だし、まずはそれをじっくり聴いて、理解しようとする。そのうえで、組織なり戦略なりのボトルネックを一緒に見つけられるよう、対話を重ねてすり合わせていくようにしています。

なぜ、「多様な強み」を持つ人材がいる組織が一番強いのか?

大賀 キャリアの選択肢が増え、複雑性が増しています。そんななか、個々の可能性を引き出すきっかけが生まれやすい組織的な雰囲気が、魅力的な人を集めるうえでの競争力になると思います。経営者がそうした組織をつくるために、何を心がけるとよいのでしょうか?

徳谷 「個人のビジョン」と「会社のビジョン」との重なりをつくることが必要だと考えています。いまは個人も会社も選び、選ばれる時代。企業がいかに自社のミッション、ビジョン、バリューを発信して、個人のビジョンとの重なりをつくれるかが問われます。

これからの時代は、事業の中身を継続的に変化・進化させることを迫られる。それに対応できるよう、組織にも柔軟性が求められます。現時点の事業に最適化して硬直化した組織形態だと、外的環境とともに事業のモデルや仕組みが変わったとたんに対応できなくなるケースが極めて多い。

組織の柔軟性を実現するために大事なのは、「多様な強みを持つ人材がいること」です。思想も強みもバラバラだと難しいですが、人材を束ねるビジョンと多様な強みがあって、かけ算で価値発揮する経営ができれば、組織として強いと思いますね。

なぜ、個人も、経営者も「セルフアップデート」が求められるのか?

大賀 世の中が変化し、そのスピードが速くなることは確定しています。大事なのは、いかに学び続けて、変わり続けるか。オズボーン教授の論文「スキルの未来」でも「2030年に必要とされるスキル」の1位が、未来を見据えて学び続ける「戦略的学習力」だったことは、その表れだと捉えています。

徳谷 まさにそうです。これからは重要になるのは「セルフアップデート」。単に新しいことをインプットして終わりでなく、インプットをもとにPDCAプロセスを回してアウトプットしていけるか。安定した枠組みで同じことだけしていると、いくら新しいインプットをしてもアウトプットには何も活かせていない。だから、既存の延長線にない “非連続な挑戦” を表す「クリエイティブジャンプ」や、修羅場をくぐる経験、つまり新しいアウトプットをせざるを得ない経験を積んではじめて、自身をアップデートすることができます。

伸び続ける会社の経営者は「セルフアップデート」をし続けています。いくら順調に成長していても、同じやり方を続けて自己変容から逃げていると、その影響が時差で出てくるんです。

変化し続けようとする人は、少し先の未来で新たな機会をつかんで花開いていきます。人は自分と似た思考の人が集まるもの。アップデートし続ける人のもとにはアップデートし続ける人が集まるし、現状維持の人のもとには現状維持の人が集まってくる。だから、少し大変でも、アップデートし続けている人たちの環境に飛び込んで、一緒に過ごす時間を増やすのは、すごく大事なことだと思いますね。

社会を「面」で変えていくための一歩とは?

大賀 最後に、徳谷さんがこれから注力したいことを教えていただけますか。

徳谷 エッグフォワードのミッションを実現することですね。そのためには、多面的に事業をやっていることが連鎖的に効いてくると考えています。事業戦略論では「選択と集中」や「ワンプロダクト」といわれるし、短期的にはそのほうが成長する。実際、投資家の方にも「組織コンサルティングが伸びるなら、それだけやったほうがいいのでは」といわれることもあります。

ですが、これからの世の中は、色々な要素がつながったり一体化したりするので、たとえば組織変革にしても、個人と組織両方の事業をしているほうが、キャリア選択も採用も支援しやすくなると考えています。大事にしたいのは、社会を「面」で変えていくこと。事業をあえてしぼらないのは、一つひとつの取り組みが、最終的にはそれらをかけ合わせたときに独自の価値を生み出せるのではないか、と考えているからです。

当面はスタートアップの共創のエコシステム創りに注力しています。スタートアップが生まれやすい構造をつくると、かけ算で大企業や中堅企業にも社会的によい影響が広がると考えているためです。

それが進んだら、toCの領域に力を入れたい。かつてはtoBつまり企業が強かったのですが、個人の力が強まって組織のあり方を変えていくようになってきた。SNSが浸透し、個人の意思が社会を動かすようになっているので、個人の生き方や意思決定のあり方を支えていきたいですね。

短期的な収益のみならず、中長期に実現したいことを見据えて事業のポートフォリオを組み、リスクヘッジもしながら人を束ねていく。こうしたことが今後の経営者に必要だと考えています。

徳谷智史(とくや さとし)

エッグフォワード株式会社 代表取締役社長。人材・組織/キャリア開発のプロフェッショナル。京都大学卒業後、大手戦略コンサルティング会社に入社。国内プロジェクトリーダーを経験後、アジアオフィスを立ち上げ代表に就任。「いまだない価値を創り出し、人が本来持つ可能性を実現し合う世界を創る」べく、エッグフォワードを設立。

業界トップ企業から、先進スタートアップまで数百社の企業変革や出資によるハンズオン支援を手掛けると同時に、個人の可能性を最大化するべく、2万人以上のキャリア支援に従事。

NewsPicksキャリア分野プロフェッサー。PIVOT社長改造コーチ、東洋経済Online連載、Podcast『経営中毒~誰にも言えない社長の孤独』メインMC等を担当。

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flier編集部

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