<さながら第1次大戦における塹壕戦の21世紀版。アメリカの軍事支援に世界の未来は懸かっているが、大統領選挙をにらみ、トランプが横やりを入れる>
ウクライナ戦争は3年目に入り、同国東部の戦線は実に延長1000キロに及ぶ。
農地も森林も砲弾でえぐられ、破壊された戦車や凍り付いた兵士の遺体があちこちに転がっている。
ロシア大統領のウラジーミル・プーチンはウクライナ国家の完全な解体を目指し、ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは領土の完全な奪還を目指している。
どちらにとっても、妥協という名の選択肢はたぶんない。
そうであれば、無情で無益な殺し合いは今年も続くことになるのだろう。
せいぜい1機1000ドル程度の無人機がイナゴの大群のように飛び回り、1両で何百万ドルもする戦車を撃破している。
この2年間でウクライナ側はロシア軍の戦車3000両以上を破壊した。
この数はプーチンの言う「3日間」「特別軍事作戦」の開始時点でロシア軍が配備していた戦車の総数を上回る。
だから今のロシア軍は70年以上前の旧式戦車を引っ張り出して前線に向かわせている。
ロシア軍の死傷者は累計40万人に上るが、今もロシア兵は毎日、いわゆる「肉弾攻撃」でウクライナ側の陣地に突進している。
1日に最大で1000人のロシア兵が殺され、放置された遺体は誰もいない森で凍り付き、あるいは腐敗していく。
辺りにはロシア軍の装甲車両1万2000台の残骸も散らばる。
だがウクライナ側も、昨年夏の反転攻勢では成果を上げられなかった。
ロシア側の築いた幅100キロもの地雷原や塹壕を突破できなかった。
ロシアを守るためにウクライナを「非ナチ化」するのだと、プーチンは言い張ってきた。
思うようにいかない戦争を正当化するための、憎しみと偽りの愛国心で塗り固めた嘘にすぎなかったが、今は別な言説を持ち出している。
この戦争はロシアが生き延びるための、「真の敵」たるアメリカとの闘いなのだと。
間近に敵と遭遇するので両軍から「ゼロライン」と呼ばれる最前線から遠く離れた場所に、実はウクライナの運命を決める2つの「戦域」がある。
まずはロシアが展開する情報戦と、それに対抗するバイデン政権が激突する米国内の戦域。
もう1つはNATO諸国とロシアの工場で繰り広げられる武器製造合戦だ。
この2つの趨勢で、戦闘がいつまで続くかも、ウクライナが全ての領土を奪還できるかも、ロシアがどれだけの占領地を保持できるかも決まる。
あいにく結果は見通せない。
消耗戦と膠着状態は今年いっぱい続きそうだ。
しかし今、ロシアを決定的に利するような変化がアメリカの政治システムに生じている。
そう、死活的に重要な決戦の舞台はアメリカの首都ワシントン。
問われているのは、果たして議会がウクライナへの追加支援を認めるかどうか。
そしてジョー・バイデン米大統領がどんな手を打つかだ。
米政界に対して親ロシア工作を仕掛けてきたロシアのプーチン大統領 RAMILSITDIKOVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS
アメリカの支援が止まった
2022年2月24日にロシア軍の侵攻が始まって以来、アメリカはウクライナに750億ドル(約11兆円)以上の軍事的・財政的支援を行ってきた。
ウクライナ戦における真の敵はアメリカだというプーチンの言説は嘘八百だが、彼の信念でもあるだろう。
欧米の支援が止まればこの戦争には1週間で勝てると、吐き捨てるように言ったこともある。
しかしアメリカでは、予算を決める権限は大統領ではなく議会にある。
昨年の秋、バイデン政権は600億ドル(約9兆円)の追加軍事支援を議会に提案した。
これに(今年2月に承認された)EUの追加支援500億ユーロ(約8兆円)を加えれば、あと1年か2年粘って新たな攻勢に転じることも可能だった。
だがドナルド・トランプ前米大統領が横やりを入れた。
議会共和党を牛耳るトランプ派議員に、ウクライナ支援に反対するよう求めたのだ。
かつてヒラリー・クリントンが呼んだように、まさにトランプは「プーチンの操り人形」。これでアメリカ政府のウクライナ支援は止まった。
そもそもロシアは何年も前から、アメリカの世論や政治家に影響を与えるための情報戦を繰り広げてきた。
とりわけ2016年の大統領選には力を入れた。
筆者は10年も前から繰り返し指摘してきたが、ロシアの情報機関とつながりのある複数の人物がトランプとその取り巻きに接触していた証拠は掃いて捨てるほどある。
それは1979年に始まり、2016年の大統領選まで続いていた。
ロシアの情報機関に取り込まれたとは言わぬまでも、トランプが彼らに利用されていた形跡はある。
操り人形ではなかったとしても、ロシアのために「影響力を行使する代理人」ではあった。
そしてアメリカの国益を損なうような発言をして、プーチンを喜ばせていた。
現にトランプは2019年に、バイデンに不利な情報をウクライナから引き出そうとした疑いで弾劾されている。
その「情報」は、ウクライナに潜むロシアのスパイが提供したものだった。
プーチンとの関係が噂されるトランプ前大統領 SAM WOLFEーREUTERS
ロシアの情報機関は長年にわたり、共和党の政治家やロビー団体、メディア関係者に何百万ドルもの資金を流してきた。
それは政界や国民の意見を親ロシア・反ウクライナに導き、同時にアメリカの制度や民主主義に不満を抱くように誘導する戦略的キャンペーンだった。
ロシアの資金を受け取っていた1人が、現下院議長のマイク・ジョンソンだ。
ロシアのもくろみはあらゆる面で成功している。
トランプはプーチンのウクライナ侵攻を「天才的」と評し、NATOの悪口を繰り返している。
ウクライナ支援に反対する共和党議員は多く、もはや議会はまともに機能していない。
米議会のジョンソン下院議長(写真正面中央)はウクライナ支援に反対 ANNABELLE GORDONーCNPーSIPA USAーREUTERS
そもそも下院議長のジョンソンは、一貫してウクライナ支援に反対票を投じてきた。
共和党支持者の多くは「アメリカ第一」の孤立主義を唱え、バイデンよりもプーチンを好み、バイデンのウクライナ支援を「アメリカ後回し」政策と呼んでいる。
バイデンとしては、ウクライナを支援しつつもNATO軍とロシア軍の直接対決は避けたい。
だから軍事支援は小出しにし、徐々に増やしてきた。つまり、ウクライナが負けない程度の武器を供与してきた。
ウクライナを「ゆっくりと勝たせ」、その間にロシアに血を流させるが、ロシアが戦争を拡大するほどには痛め付けず、ウクライナに決定的な勝利をもたらすつもりもない。
今回の戦争には何千台もの戦車が投入されているが、アメリカがようやくウクライナに31台の主力戦車M1エイブラムズを引き渡したのは昨年秋のことだった。
熾烈で困難な武器製造合戦
もう1つの死活的に重要な戦域は双方の武器製造工場だ。
もっと大量の武器弾薬を供与されなければ、ウクライナ側が決定的な攻勢に出ることはできず、現状の防衛線を維持するのがやっとだろう。
一方でロシアは武器製造能力の向上に熱心で、その努力はウクライナを支援するNATO陣営をはるかに上回る。
もともとウクライナとは比較にならないほどの弾薬を持っており、今もウクライナ側の5倍に当たる1日1万発の砲弾を撃っている。
ただしロシアも必要な弾薬の確保には苦労している。
現状の生産能力は1日当たり約5500発だが、それでも1日の使用量の半分だ。
ロシアは24年の国防予算を前年比約1.7倍の1000億ドル相当に引き上げ、経済を軍需優先にシフトさせている。
またイランや北朝鮮から何百万発もの砲弾を購入している。
開戦当時に比べれば装備や兵員の質は劣るものの、ロシアは今年も砲撃と攻撃のレベルを維持、あるいは強化することができるだろう。
一方のアメリカとNATOは、既に武器弾薬の在庫を使い尽くした。そしてウクライナでの需要を満たすための生産能力増強に悪戦苦闘している。
アメリカは23年に砲弾の生産量を倍増させ、毎月2万8000発まで可能にした。
いずれは月産9万発に増やす計画だが、その実現には2026年までかかる。
一方でNATO加盟の欧州諸国は現状で月産2万5000発にとどまり、まだ目標の3分の1にしか達していない。
全部合わせても、今のウクライナ軍なら7日ほどで使い果たしてしまう。
だから節約せねばならず、ここ数週間は1日2000発くらいしか撃っていない。
NATO全体の軍事予算はロシアの10倍で、合算したGDPはロシアの25倍に当たるが、それでも今のウクライナに必要なだけの武器弾薬は製造できない。
ウクライナ支援を約束したバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領 EYEPRESS IMAGESーREUTERS
バイデン対トランプの決戦
いずれにせよ、今年中にどちらか一方が軍事的に決定的な勝利を挙げることはなさそうだ。
「工場戦争」の決着はつかず、ウクライナもロシアも弾薬不足に悩まされ、当面はにらみ合いが続く公算が高い。
しかしバイデン政権の求めた総額600億ドルの追加軍事支援が議会で承認されていないため、今はロシア側が優位に立つ。
ウクライナ側は攻撃より守備に力を入れざるを得ず、ロシアはおそらくウクライナ東部の占領地をそのまま保持できる。
ただしアメリカの追加支援が決まり、長射程の武器弾薬が続々と供給されるようになれば話は別だ。
たいていの戦争は、戦場ではなく交渉のテーブルで終わる。
アメリカの支援再開が遅れれば、欧州では早期停戦を求める声が高まるだろう。
そうなると血に飢えたプーチンはウクライナ全域に猛攻をかけるかもしれない。
だが、それでウクライナ側がひるむとは思えない。
侵略者でファシスト国家のロシアに、あの国の人々が降伏するとは思えない。なにしろ国の存亡が懸かっている。
とはいえウクライナの運命はアメリカの首都ワシントンで決まる。
ウクライナを助けたいバイデン大統領以下の政界主流派と、ロシアに寄り添うトランプと彼を熱烈に支持する共和党の議員団。
この対決の根っこにはアメリカ伝統の孤立主義があるが、アメリカの政治と社会をぶち壊したいプーチンの執拗かつ戦略的な情報戦も効いている。
さて、勝つのはバイデンかトランプか。これはアメリカの、そして世界の未来を懸けた闘いだ。
<本誌2024年2月27日号掲載>
ウクライナ戦争は3年目に入り、同国東部の戦線は実に延長1000キロに及ぶ。
農地も森林も砲弾でえぐられ、破壊された戦車や凍り付いた兵士の遺体があちこちに転がっている。
ロシア大統領のウラジーミル・プーチンはウクライナ国家の完全な解体を目指し、ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは領土の完全な奪還を目指している。
どちらにとっても、妥協という名の選択肢はたぶんない。
そうであれば、無情で無益な殺し合いは今年も続くことになるのだろう。
せいぜい1機1000ドル程度の無人機がイナゴの大群のように飛び回り、1両で何百万ドルもする戦車を撃破している。
この2年間でウクライナ側はロシア軍の戦車3000両以上を破壊した。
この数はプーチンの言う「3日間」「特別軍事作戦」の開始時点でロシア軍が配備していた戦車の総数を上回る。
だから今のロシア軍は70年以上前の旧式戦車を引っ張り出して前線に向かわせている。
ロシア軍の死傷者は累計40万人に上るが、今もロシア兵は毎日、いわゆる「肉弾攻撃」でウクライナ側の陣地に突進している。
1日に最大で1000人のロシア兵が殺され、放置された遺体は誰もいない森で凍り付き、あるいは腐敗していく。
辺りにはロシア軍の装甲車両1万2000台の残骸も散らばる。
だがウクライナ側も、昨年夏の反転攻勢では成果を上げられなかった。
ロシア側の築いた幅100キロもの地雷原や塹壕を突破できなかった。
ロシアを守るためにウクライナを「非ナチ化」するのだと、プーチンは言い張ってきた。
思うようにいかない戦争を正当化するための、憎しみと偽りの愛国心で塗り固めた嘘にすぎなかったが、今は別な言説を持ち出している。
この戦争はロシアが生き延びるための、「真の敵」たるアメリカとの闘いなのだと。
間近に敵と遭遇するので両軍から「ゼロライン」と呼ばれる最前線から遠く離れた場所に、実はウクライナの運命を決める2つの「戦域」がある。
まずはロシアが展開する情報戦と、それに対抗するバイデン政権が激突する米国内の戦域。
もう1つはNATO諸国とロシアの工場で繰り広げられる武器製造合戦だ。
この2つの趨勢で、戦闘がいつまで続くかも、ウクライナが全ての領土を奪還できるかも、ロシアがどれだけの占領地を保持できるかも決まる。
あいにく結果は見通せない。
消耗戦と膠着状態は今年いっぱい続きそうだ。
しかし今、ロシアを決定的に利するような変化がアメリカの政治システムに生じている。
そう、死活的に重要な決戦の舞台はアメリカの首都ワシントン。
問われているのは、果たして議会がウクライナへの追加支援を認めるかどうか。
そしてジョー・バイデン米大統領がどんな手を打つかだ。
米政界に対して親ロシア工作を仕掛けてきたロシアのプーチン大統領 RAMILSITDIKOVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS
アメリカの支援が止まった
2022年2月24日にロシア軍の侵攻が始まって以来、アメリカはウクライナに750億ドル(約11兆円)以上の軍事的・財政的支援を行ってきた。
ウクライナ戦における真の敵はアメリカだというプーチンの言説は嘘八百だが、彼の信念でもあるだろう。
欧米の支援が止まればこの戦争には1週間で勝てると、吐き捨てるように言ったこともある。
しかしアメリカでは、予算を決める権限は大統領ではなく議会にある。
昨年の秋、バイデン政権は600億ドル(約9兆円)の追加軍事支援を議会に提案した。
これに(今年2月に承認された)EUの追加支援500億ユーロ(約8兆円)を加えれば、あと1年か2年粘って新たな攻勢に転じることも可能だった。
だがドナルド・トランプ前米大統領が横やりを入れた。
議会共和党を牛耳るトランプ派議員に、ウクライナ支援に反対するよう求めたのだ。
かつてヒラリー・クリントンが呼んだように、まさにトランプは「プーチンの操り人形」。これでアメリカ政府のウクライナ支援は止まった。
そもそもロシアは何年も前から、アメリカの世論や政治家に影響を与えるための情報戦を繰り広げてきた。
とりわけ2016年の大統領選には力を入れた。
筆者は10年も前から繰り返し指摘してきたが、ロシアの情報機関とつながりのある複数の人物がトランプとその取り巻きに接触していた証拠は掃いて捨てるほどある。
それは1979年に始まり、2016年の大統領選まで続いていた。
ロシアの情報機関に取り込まれたとは言わぬまでも、トランプが彼らに利用されていた形跡はある。
操り人形ではなかったとしても、ロシアのために「影響力を行使する代理人」ではあった。
そしてアメリカの国益を損なうような発言をして、プーチンを喜ばせていた。
現にトランプは2019年に、バイデンに不利な情報をウクライナから引き出そうとした疑いで弾劾されている。
その「情報」は、ウクライナに潜むロシアのスパイが提供したものだった。
プーチンとの関係が噂されるトランプ前大統領 SAM WOLFEーREUTERS
ロシアの情報機関は長年にわたり、共和党の政治家やロビー団体、メディア関係者に何百万ドルもの資金を流してきた。
それは政界や国民の意見を親ロシア・反ウクライナに導き、同時にアメリカの制度や民主主義に不満を抱くように誘導する戦略的キャンペーンだった。
ロシアの資金を受け取っていた1人が、現下院議長のマイク・ジョンソンだ。
ロシアのもくろみはあらゆる面で成功している。
トランプはプーチンのウクライナ侵攻を「天才的」と評し、NATOの悪口を繰り返している。
ウクライナ支援に反対する共和党議員は多く、もはや議会はまともに機能していない。
米議会のジョンソン下院議長(写真正面中央)はウクライナ支援に反対 ANNABELLE GORDONーCNPーSIPA USAーREUTERS
そもそも下院議長のジョンソンは、一貫してウクライナ支援に反対票を投じてきた。
共和党支持者の多くは「アメリカ第一」の孤立主義を唱え、バイデンよりもプーチンを好み、バイデンのウクライナ支援を「アメリカ後回し」政策と呼んでいる。
バイデンとしては、ウクライナを支援しつつもNATO軍とロシア軍の直接対決は避けたい。
だから軍事支援は小出しにし、徐々に増やしてきた。つまり、ウクライナが負けない程度の武器を供与してきた。
ウクライナを「ゆっくりと勝たせ」、その間にロシアに血を流させるが、ロシアが戦争を拡大するほどには痛め付けず、ウクライナに決定的な勝利をもたらすつもりもない。
今回の戦争には何千台もの戦車が投入されているが、アメリカがようやくウクライナに31台の主力戦車M1エイブラムズを引き渡したのは昨年秋のことだった。
熾烈で困難な武器製造合戦
もう1つの死活的に重要な戦域は双方の武器製造工場だ。
もっと大量の武器弾薬を供与されなければ、ウクライナ側が決定的な攻勢に出ることはできず、現状の防衛線を維持するのがやっとだろう。
一方でロシアは武器製造能力の向上に熱心で、その努力はウクライナを支援するNATO陣営をはるかに上回る。
もともとウクライナとは比較にならないほどの弾薬を持っており、今もウクライナ側の5倍に当たる1日1万発の砲弾を撃っている。
ただしロシアも必要な弾薬の確保には苦労している。
現状の生産能力は1日当たり約5500発だが、それでも1日の使用量の半分だ。
ロシアは24年の国防予算を前年比約1.7倍の1000億ドル相当に引き上げ、経済を軍需優先にシフトさせている。
またイランや北朝鮮から何百万発もの砲弾を購入している。
開戦当時に比べれば装備や兵員の質は劣るものの、ロシアは今年も砲撃と攻撃のレベルを維持、あるいは強化することができるだろう。
一方のアメリカとNATOは、既に武器弾薬の在庫を使い尽くした。そしてウクライナでの需要を満たすための生産能力増強に悪戦苦闘している。
アメリカは23年に砲弾の生産量を倍増させ、毎月2万8000発まで可能にした。
いずれは月産9万発に増やす計画だが、その実現には2026年までかかる。
一方でNATO加盟の欧州諸国は現状で月産2万5000発にとどまり、まだ目標の3分の1にしか達していない。
全部合わせても、今のウクライナ軍なら7日ほどで使い果たしてしまう。
だから節約せねばならず、ここ数週間は1日2000発くらいしか撃っていない。
NATO全体の軍事予算はロシアの10倍で、合算したGDPはロシアの25倍に当たるが、それでも今のウクライナに必要なだけの武器弾薬は製造できない。
ウクライナ支援を約束したバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領 EYEPRESS IMAGESーREUTERS
バイデン対トランプの決戦
いずれにせよ、今年中にどちらか一方が軍事的に決定的な勝利を挙げることはなさそうだ。
「工場戦争」の決着はつかず、ウクライナもロシアも弾薬不足に悩まされ、当面はにらみ合いが続く公算が高い。
しかしバイデン政権の求めた総額600億ドルの追加軍事支援が議会で承認されていないため、今はロシア側が優位に立つ。
ウクライナ側は攻撃より守備に力を入れざるを得ず、ロシアはおそらくウクライナ東部の占領地をそのまま保持できる。
ただしアメリカの追加支援が決まり、長射程の武器弾薬が続々と供給されるようになれば話は別だ。
たいていの戦争は、戦場ではなく交渉のテーブルで終わる。
アメリカの支援再開が遅れれば、欧州では早期停戦を求める声が高まるだろう。
そうなると血に飢えたプーチンはウクライナ全域に猛攻をかけるかもしれない。
だが、それでウクライナ側がひるむとは思えない。
侵略者でファシスト国家のロシアに、あの国の人々が降伏するとは思えない。なにしろ国の存亡が懸かっている。
とはいえウクライナの運命はアメリカの首都ワシントンで決まる。
ウクライナを助けたいバイデン大統領以下の政界主流派と、ロシアに寄り添うトランプと彼を熱烈に支持する共和党の議員団。
この対決の根っこにはアメリカ伝統の孤立主義があるが、アメリカの政治と社会をぶち壊したいプーチンの執拗かつ戦略的な情報戦も効いている。
さて、勝つのはバイデンかトランプか。これはアメリカの、そして世界の未来を懸けた闘いだ。
<本誌2024年2月27日号掲載>