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いま、紹興酒が日本でブーム!(の兆し) 「女児紅」「孔乙己」知ってる?

ニューズウィーク日本版 2024年2月29日 19時20分

<紹興酒不遇の時代が終わりを告げようとしている。探求心の強い日本の酒マニアたちが「未開拓」の紹興酒に興味を持ち始めた>

昨秋、週刊文春の連載「新・家の履歴書」に取り上げられた。生まれ育った中国浙江省の紹興から北京、東京へと移り住んできた自分の半生を振り返る内容だが、冒頭で私はこう語っている。

「紹興市は、その名の通り紹興酒で有名な町......わたしも『美味しいものは小さいうちから味を覚えておけ』と、子供の頃に飲まされたものでした」

すると、何人かの読者から「紹興酒を子供に飲ませるなんて違法じゃないの?」とのご指摘があった。念のため説明しておくと、子供の頃に飲んでいたのは自家製の米酒。アルコール度数が低く、日本の甘酒に近い濁り酒だから、大丈夫(たぶん)。

わが故郷の愛すべき名産品、紹興酒は、日本でもよく知られた存在だ。だが残念ながら、ワインやウイスキー、日本酒、焼酎と比べると、銘柄まではあまり認知されていない。中国に紹興という街があることも知られていない。

しかし今、そんな不遇の時代が終わりを告げようとしている。「大ブーム」とまでは言えないが、その兆しがあるのだ。きっとブームは来る、いや来てほしい。日本人にもっと、文化の薫り漂う芳醇な紹興酒の魅力を知ってもらいたい。

BONCHAN/SHUTTERSTOCK

米などの穀物を主原料とする醸造酒を中国では「黄酒(ホアンチウ)」と呼ぶ。その代表格が紹興酒だ。紹興にある鑑湖(かんこ)という湖の水を利用し、地元産の餅米や小麦で醸造されたものだけが紹興酒と認定される。フランスのシャンパーニュ地方のスパークリングワインだけがシャンパンと呼ばれるのと同じだ。

ちなみに「老酒(ラオチウ)」は長期熟成された酒を指す言葉で、紹興酒にも10年、20年、なかには50年熟成された年代物もある。

紹興酒では甜(ティエン、甘味)、酸(スワン、酸味)、苦(クー、苦味)、鮮(シエン、うま味)、辣(ラー、辛味)、渋(スー、渋味)という6つの味のバランスが重要とされる。当然、銘柄によって味が異なり、特に甘さの違いが大きい。一般に年代が増すと味がまろやかになり、香りは濃くなる。着色のため添加物としてカラメルが使われるが、最近はカラメル不使用の紹興酒も増えている。

話を「紹興酒ブーム」に戻そう。兆しがあると言ったが、果たしてどれほどの兆しなのか。

昨年9月に発売された『黄酒入門』(誠文堂新光社、リンク先はアマゾン)の著者で、中国酒に詳しい門倉郷史さんによれば、紹興酒は昔に一度ブームがあり、新たな盛り上がりは2020年あたりからだという。その頃から中国紹興酒業界が積極的に動き始め、これまでなかったタイプの紹興酒も日本に入ってくるようになった。それに呼応するかのように、日本のメディアが紹介する機会も増えた。

「雑誌の企画で、僕がレストランのシェフと組み、紹興酒のペアリングをすることもあります。まだ急増はしていませんが、波は感じています」

日本には探求心の強い酒好きが多く、これまで日本酒やワインをたしなんでいたその酒マニアたちが「未開拓」の紹興酒に興味を持ち始めた、というのが門倉さんの見立てだ。黄酒のイベントを開くと、30~50代の人が大勢集まり、男女比は半々のこともあれば、女性が9割のときもあるという。

全くうれしい兆候だ。女の子が生まれると家で造った酒を土に埋め、嫁に行くときに掘り出して飲むという伝統から生まれた「女児紅(ニュイアルホン)」、酒が飲みたくて本を盗んでしまう哀れな文人を描いた魯迅(彼も紹興出身だ)の短編『孔乙己』から名付けられた「孔乙己(コンイーチー)」......日本人に味わってもらいたい紹興酒はまだまだたくさんある。

中国で今、ジャパニーズウイスキーや日本酒が大ブームになっていることはご存じだろう。中国人が日本の酒を飲み、日本人が中国の酒を飲む。それで双方が楽しく杯を交わせば日中友好はもっと進む──。そんな私の「夢」が酔っぱらいの戯言(ざれごと)で終わらないことを願っている。

周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。

■紹興酒とは?現役中華料理店スタッフが解説する基礎知識や楽しみ方――『黄酒入門』著者のYouTube



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