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ロシアの黒海艦隊が黒海の手前でUターンする謎の事例が相次ぐ──ウクライナの無人艇を警戒か?

ニューズウィーク日本版 2024年3月4日 17時20分

<ウクライナのドローン攻撃で、かなりの打撃を受けたロシアの黒海艦隊は、本来の作戦行動をとることができず、クリミア半島から逃げるような動きを見せている>

ロシア海軍は、このところの相次いだウクライナ軍の無人艇攻撃で自慢の黒海艦隊が壊滅状態に陥ってから、黒海での活動にかなり慎重になっているようだ。

ウクライナ軍の報道官は、最近の「興味深い出来事」として、ロシア艦船の一団が南からボスポラス海峡に接近したかと思うと、ロシアが併合したクリミア半島には近づきもせず、不意に引き返した事例をあげている。

 

ウクライナの通信社ウニアンによると、ウクライナ海軍のドミトロ・プレテンチュク報道官は、ウクライナのテレビで次のように語った。「興味深い動きをしたのは、自国の船舶を護衛するためにボスポラス海峡から送られた2隻の艦船だ。そういう任務は珍しく、月に1度程度だ。ところが、ある地点で、この艦隊は方向転換し、引き返した」

ロシア艦がUターンした動機は不明だが、プレテンチュクは、艦の指揮官がなんらかの「脅威」に関する秘密情報を手に入れたのではないかと推測し、それはウクライナにとって「好ましい傾向」だと指摘した。

ロシアの民間船も追従

プレテンチュクは問題の船を特定しなかったが、公開情報による調査を専門とするオープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)アナリストは最近、黒海におけるロシア艦船のこのような行動を多数発見している。そこにはアメリカの制裁下にある船舶も含まれる。

「とても奇妙だ。名前だけ民間を装った船ではないか」と、ボスポラス海峡のOSINTオブザーバーであるユリク・イシクはX(旧ツイッター)にこう投稿した。「西側の制裁を受けたロシアの海運会社SCサウス所有のロシア船籍の貨物船スパルタIVは、ボスポラス海峡の南の入り口まで来て、通過しようとしていたが、霧のために航行を中断した。スパルタ4世はエーゲ海に向かっている」

イシクは続くXの投稿でこう述べた。「ロシアの占領下にあるクリミア半島の都市フェオドシアで不法占拠した石油基地から、シリアで活動するロシア空軍に航空燃料を輸送するロシアのタンカーYAZも、ボスポラス海峡に到着した後、謎のUターンをしている。黒海を航行する勇気のない偽の民間船だろうか」

英国防省による最近の分析によれば、黒海においてウクライナは無人艇を使った独創的なゲリラ戦を仕掛けており、ロシア海軍は十分に対抗できていないという。

ロシアは依然として黒海東部からウクライナを攻撃することができるが、「ウクライナのユニークな海上戦へのアプローチに対抗するために採用した防衛体制が、意図したとおりに機能していないことが明らかになってきている」と、国防省は2月に述べている。

ワシントンのシンクタンク戦争研究所(ISW)も昨年12月、ウクライナが黒海艦隊の艦船への攻撃に成功したことで、ロシア海軍は作戦パターンの転換を余儀なくされたと評価している。

このため、黒海艦隊は一部の艦船をクリミアのセバストポリにある主力基地から遠ざけた。そのため、「ウクライナが黒海西部を通じて欧州とアフリカに穀物輸出するのを防ぐための海上封鎖もうまくいかず、穀物輸出を許してしまっている」と、シンクタンクは指摘する。

 

ウクライナは大規模な海軍を持たないが、無人艇を駆使してロシアが誇る黒海艦隊にドラマチッックな攻撃を仕掛け、数隻の揚陸艦、タランタル型コルベット、潜水艦、そしてロシアの旗艦モスクワをげ撃沈、ロシアを狼狽させた。

ウクライナ軍戦略コミュニケーションセンター(StratCom)によると、ウクライナ軍は2月6日までに黒海艦隊の戦艦の約33%を「使用不能」にしたという。

プレテンチュクは3月1日に、ロシアの黒海艦隊の行動は現在「限定的」になっていると述べた。「大した活動は見られない」

ウクライナ海軍も2月上旬、2年近くにわたる戦争によって、ロシアの黒海における軍事作戦は「麻痺しているとは言わないまでも、非常に困難な状態になっている」というコメントを述べている。



イザベル・ファン・ブリューゲン、エフゲニー・ククリチェフ

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