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生活に苦しみ、移民に反発する「庶民」が熱狂...マリーヌ・ルペン「国民連合」が再・旋風を起こすフランスの今

ニューズウィーク日本版 2024年3月5日 19時16分

<政党名を「国民連合」に変えて脱悪魔化を進めるマリーヌ・ルペン。6月の欧州議会選に向けてマクロン大統領の政党を大きくリードする>

[ロンドン発]「フランスを復活させる」――フランスの右派ナショナリスト政党「国民連合」(旧国民戦線)のマリーヌ・ルペン国民議会党代表は3月3日、フランス南部マルセイユで集会を開き、6月の欧州連合(EU)欧州議会選に向けてスタートを切った。

「政治には時代がある。大きな変化の時だ。時代の終わり、サイクルの終わり、システムの終わりを告げる。友よ、今がその時だ。私たちは崩壊したシステムの瓦礫の上を歩いているという感覚を深めている。私たちは支配の終わりを告げる空気の中を生きているのだ」(ルペン氏)

2017年、22年の仏大統領選でエマニュエル・マクロン大統領と決選投票を争ったルペン氏は党名を穏健な「国民連合」に変え、脱悪魔化を進めてきた。欧州議会選の世論調査で国民連合は30%前後の支持率を維持し、マクロン氏の政党「再生」(旧共和国前進)を約10ポイント引き離す。

ルペン氏が人気を集めているのは、コロナ危機の後遺症やインフレ、利上げが影響している。独統計会社スタティスタによると、インフレの年率は22年5.9%、昨年5.63%(推定)、今年2.46%(同)。欧州中央銀行(ECB)の政策金利は4.5%に据え置かれ、世帯の購買力を圧迫する。

フランス国民には不人気なウクライナ支援

ウクライナ支援も不人気だ。ルペン氏はマクロン政権を「野党に憤慨することしか知らない亡霊政府」と切り捨て、ウクライナへの部隊派遣を示唆したことについて「戦争がもたらす苦しみと破壊を知っていて、どうして自国を気軽に戦争に駆り出そうと考えられるのか」と皮肉った。

「マクロンは政権に就いてから7年間、フランスをフランスたらしめているものを解体することを止めなかった。独自の核抑止力や国連安全保障理事会常任理事国の立場をEUに付与しようとしている。核抑止力を主権の不可分の要素として憲法に明記することを提案する」

16年の英国のEU離脱、ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利以来、世界中でエリート対ノンエリートの戦いは続いている。世界金融危機後の銀行救済と緊縮財政、コロナ危機に対する超金融緩和と財政拡張がもたらしたインフレが低所得・貧困層のノンエリートを容赦なく痛めつける。

資産バブルで「濡れ手に粟」の富を手にしたエリートのツケを支払わされるのはいつも無知なノンエリートなのだ。ルペン氏の言う「サイクル」や「システム」は確かに存在する。貧困やどん底への鎖を断ち切ってくれるとノンエリートはルペン氏やトランプ氏の甘言に吸い寄せられる。

ルペン氏「多様性というEUのモットーは国家健忘症だ」

ノンエリートの怒りは弱い立場の移民へと誘導される。「フランスの小さな村の隅々まで押し付けられた大量の移民によって、私たちのアイデンティティーは損なわれている。教育・住宅・医療など社会のあらゆるところで足場を固めつつあるイスラム主義の圧力にひれ伏した」

「毎年何千人もの才能ある若いフランス人が祖国では希望や充実感を見出せず、他国へと去っていく。EUの多様性の中の多様性の連合というモットーは国家健忘症だ」。ルペン氏が祖国の偉大な物語を復活させようと呼びかけると、約8000人の支持者は高揚した。

環境規制・食品インフレ抑制・エネルギー転換による農家の負担増、失業保険給付期間の短縮、対国内総生産(GDP)比で110%を超える政府債務残高。「35年にガソリン車とディーゼル車の新車販売は禁止される。政府は4万5000ユーロを出して電気自動車を買えと言い放った」

「マクロンが政権に就いて以来、ガス料金は80%以上、電気料金は45%も上昇した。国というものは生き物のようなものでエネルギーを奪われれば、枯れ果て非生産的になる。硬直化したテクノクラシーから祖国と欧州を救い出したいのであれば、政治を再生させる必要がある」

若き党首「フランスは復活し、欧州は再び生き返る」

「フランスを信じなくなった人々の恥ずべき敗北主義に終止符を打たなければならない」(ルペン氏)。ネオリベラリズム(新自由主義)が広げた格差にノンエリートは喘いでいる。既存政治に見切りをつけ、ナチスドイツを思い起こさせる国家社会主義の劇薬を口にしようとしている。

「EUは私たちの生活に押しつけがましく、しばしば権威主義的なやり方で侵入してきた。マクロン主義者は主権を剥奪しようとしている。保健・外交・税制・国防といった国家権力をEUに移そうとしている。自国の国益に大きく反する政策にノーと言う権利を奪おうとしている」

ルペン氏の反EUレトリックは英国のEU強硬離脱派のそれとダブる。英誌エコノミストの予測では11月の米大統領選を前にトランプ氏は47%対45%でジョー・バイデン現大統領をリードする。欧州でも、米国でも民主主義は危機に瀕している。

ルペン氏の後継者である28歳のジョルダン・バルデラ党首は選挙集会でこう叫んだ。

「フランスに吹く希望の風はイタリア、スウェーデン、ハンガリー、オランダ、オーストリアなど欧州全土に吹いている。6月9日(フランスの欧州議会選投票日)、私たちとともにフランスは復活し、欧州は再び生き返る。共和国万歳、フランス万歳!」


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