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日本は尖閣沖の中国製漂流ブイを撤去せよ

ニューズウィーク日本版 2024年3月6日 11時37分

<中国からやってきた観測用ブイが尖閣沖の日本のEEZ内で発見された。中国側は日本政府の撤去要請を無視している。日本政府はあくまで冷静に、「迷子」のブイをEEZ外に移動させるべきだ>

1月末、日本の海上保安庁の巡視船は、尖閣諸島から北へ170㌔ほどの海域に漂流するブイを発見した。その壊れたブイが浮遊していたのは、東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)の内側だった。

このブイは、ほぼ確実に中国側が日本を挑発する目的で設置したものと言って差し支えない。中国は、日本の尖閣諸島(中国側は「釣魚島」と呼ぶ)への領有権と、その周辺の海底に埋蔵されているとされる推定160億㌦相当の石油資源に対する日本の権益に異を唱え、日本の権利をじわじわとむしばもうとしている。

このような中国の動きは、今回始まったものではない。これまでも尖閣諸島周辺の日本のEEZ内で中国のブイがたびたび発見されているし、中国海警局の船や中国漁船が日本の領海への侵入を繰り返したり、上空で中国機が挑発的な振る舞いをしたりしてきた。

こうしたことが起きると、日本政府はその都度、中国側に抗議してきた。今回も抗議を行い、ブイの即時撤去を要求している。しかし、現在に至るまでブイは日本のEEZ内から取り除かれていない。

尖閣諸島の領有権をめぐり圧力を強める中国の動きに対して、日本はどう対応すべきなのか。日本がこの問いに関してどのような結論に達するかは、尖閣諸島の未来、そして戦争と平和に関係してくる。

尖閣諸島(中国では釣魚島)の主権をめぐる中国と日本の主張と反論は複雑だ。約400年前の東シナ海における優位性に基づく中国の主張と、国際法に基づいた日本の主張が対立している。中国はここ数十年、白人帝国主義の不当な痕跡として国際法を都合よく非難してきた。南シナ海での中国のあからさまな帝国主義的領有権の主張を否定したハーグ仲裁裁判所の裁定も拒絶している。

皮肉なことに、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が1969年、尖閣諸島近くに石油とガスが埋蔵されている可能性を指摘し、72年にアメリカが第二次大戦の戦終結以来支配していた尖閣諸島の支配権を日本に返還したが、中国はこの注目すべき出来事の後もしばらく日本の尖閣諸島の支配に大きな異議を唱えなかった。

尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入する中国海警局の船が急激に増え始めたのは、2013年に習近平(シー・チンピン)が中国の国家主席に就任し、外交当局と軍に「戦狼外交」を指示して以降のことだ。

戦狼外交においては、小さな行動をひっきりなしに積み重ねることにより、中国のコントロール下に置く地域を着々と広げていくことを目指す。領有権争いがある土地で境界線から数㍍ほど相手側に侵入したり、領有権の主張が衝突している海域や空域に艦船や航空機を侵入させたりする。中国はこうした活動を繰り返すことにより、相手国を挑発する。対抗措置を取って緊張をエスカレートさせる勇気があるのならやってみろ、というわけだ。

「プレゼンスの拡大と恒久化」を狙う

実際、中国はインドとの関係でこうしたことを実践した。中国は2020年、両国が領有権を争うヒマラヤ山脈地帯で「実効支配線」のインド側に侵入し、構造物を設置した。中国の侵入行為は、インド兵が対抗して小競り合いに発展するまで続いた。この衝突によりインド側で20人以上が死亡し、中国側にも死者(人数は不詳)が出た。中国は同じようなことを、南シナ海でフィリピンとベトナムに対して、台湾海峡と金門島周辺で台湾に対しても行っている。

そして、中国は尖閣諸島周辺の海域や空域への侵入の頻度も増やしている。ある法学者の言葉を借りればこの領域での「プレゼンスの拡大と恒久化」を行い、中国側の領有権の主張を正当化することにより、決定的な対決を避けながら現状変更を行おうとしているのだ。

中国側がこうした戦略を実践した場合、相手国は、中国の行動(一つ一つの事案は些細なものだ)を結果的に放置するか、それとも暴力を伴う衝突を辞さずに対抗措置を講じるかの選択を迫られる。

日本政府は今回、再び中国政府に外交上の抗議を行うだけでは十分でない。中国は既に約10年間にわたり、尖閣諸島の領有権をめぐる主張を強化し、日本の領有権を突き崩すための行動を次第に増やしてきた。それにより、外交的・法的議論の土台が変わり、現状が変更されようとしている。

日本政府はあくまでも冷静に、「迷子」のブイを撤去して、自国のEEZの域外に移動させるべきである。

【動画】日本で講演した筆者の元CIA工作員グレン・カール



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