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「ママ...バイバイ」 難病サンフィリッポ症候群の4歳少女...「子供の認知症」の実態を捉えた動画を公開した親の思い

ニューズウィーク日本版 2024年3月9日 19時19分

<小児アルツハイマーとも呼ばれるサンフィリッポ症候群(ムコ多糖症Ⅲ型)への関心を高めるため、動画を公開することを決めたという>

ベッドで横になる母と娘の様子を映した動画が大きな反響を呼んでいる。36歳の母親エリン・ストゥープは、4歳になる娘のオリビアを寝かしつけながら、「アイ・ラブ・ユーって言ってみて」と語りかける。オリビアがなかなか言葉を完成できず、ようやく「アイ・ラブ......ミー」と答え、「ママ......バイバイ」と語ると、エリンはこらえきれずに涙を流す。

■【動画】「ママ...バイバイ」 6歳で話せなくなる「子供の認知症」患者の少女と母の会話...反響呼んだ動画

このやりとりを捉えた動画が拡散する数カ月前まで、オリビアは言葉を発しており、少しずつだが文章も話せるようになっていた。しかし、言語能力が飛躍的に向上するこの年代の多くの子どもとは逆に、オリビアは小学1年生に上がるころには言葉を発することができなくなると言われている。彼女は、サンフィリッポ症候群と診断されているからだ。

小児アルツハイマーとも呼ばれるサンフィリッポ症候群(ムコ多糖症Ⅲ型)は、米生化学・分子生物学会(ASBMB)によると、精神状態の変化も症状のひとつとされている。

ウィスコンシン州に住む母エリンは本誌に対し、言葉の退行は、サンフィリッポ症候群に伴う多くの症状のひとつにすぎないと述べた。彼女は2023年11月、難病であるサンフィリッポ症候群についての関心を高めようと、その実状を映した動画をTikTok(@saving_liv)に投稿した。

「サンフィリッポ症候群について知ってもらいたい」

視聴回数が990万回に達したこの動画には、こんなキャプションが添えられている。「娘がこんなにもすぐに、言葉を発することができなくなるとは思わなかった。6歳になるころには、まったく話せなくなり、10代半ばまでしか生きられないと見られている。オリビアのためにも、手遅れになる前に治療法を見つけなくてはならない」

エリンは、本誌にこう語った。「サンフィリッポ症候群がどのような病気なのか、もっと知ってもらいたい。私たちはソーシャルメディアでは小児アルツハイマーと呼んでいるが、それは正式名ではない。サンフィリッポ症候群は、神経組織が変性して脳にダメージを与える病気で、運動能力や理解力を奪い、けいれんが起き、若い命を奪ってしまう。子どもの認知症と言えば、少しはわかりやすいだろう」

オリビアは、2歳になるまではごく普通の子どもだった。例外は、病気にかかりやすいことと、異常なまでに軟便だったことだ。ともに薬剤師であるオリビアの両親エリンとタイラーは当初、消化器系に問題があるのかもしれないと考えていた。しかし、家族ぐるみの付き合いがある小児神経科医の友人からある日、オリビアは特異な顔つきをしていると指摘を受けた。

「その友人から、オリビアはサンフィリッポ症候群だと思う、と言われた。聞いたことのない病名だった」とエリンは振り返る。「そう指摘されたその週末にすぐ、あらゆるタイプのライソゾーム病について詳しく調べてみた。その一種であるサンフィリッポ症候群についての情報を見つけたときは、オリビアがこの病気でないことを祈った。実を言うと、サンフィリッポ症候群だとは思わなかった。そのころはまだ、関連する問題行動が見られず、おもに医学的な問題だけだったからだ」

サンフィリッポ症候群を患う子どもたちのために治療法を開発する非営利組織キュア・サンフィリッポ財団の最高科学責任者(CSO)カーラ・オニールによると、サンフィリッポ症候群は重症度に幅があるが、いずれ死に至る遺伝子疾患だ。オニールが本誌に対して以前語ったところによると、発生率は7万人の新生児に1人で、子どもの脳だけでなく体をも蝕む。

米国内の患者数は20万人未満の難病

米国内の患者数は20万人未満で、難病に指定されている。患者数20万人未満という難病の定義は、1983年に制定されたオーファンドラッグ法で定められた。

全米希少疾患患者協議会(NORD)によると、ライソゾーム病は、酵素の欠損によって、分解されるはずの有害物質が細胞内に蓄積してしまう、遺伝性の代謝性疾患の総称だ。欠損している酵素によってさまざまな病気が引き起こされる。その種類はおよそ50種類あり、骨格から脳、皮膚、心臓、神経系まで、体内さまざまな部分に影響を及ぼす。

血液検査の結果、2022年3月28日、オリビアがサンフィリッポ症候群であることが明らかになった。

エリンは本誌にこう語る。「家族ぐるみの友人のおかげで、遺伝子検査を急いで予約し、遺伝子検査クリニックに適切なテストを依頼することができた。オリビアの顔つきと病歴から、いずれはそう診断が下されたとは思うが、検査は役に立った」

ボストン小児病院の公式サイトでは、「サンフィリッポ症候群は、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)という形式で遺伝する。これは、この症候群の子どもは、親のそれぞれから、酵素生成を担う遺伝子の欠陥コピーをひとつずつ受け継いでいるという意味だ」と説明されている。オリビアの両親は、自分たちの遺伝子に問題があることについてはまったく気がついていなかった。

サンフィリッポ症候群の治療に関する研究は進んでいる

豪サンフィリッポ症候群子ども財団によると、同一の欠陥遺伝子をもつ2人のあいだに(オリビアのような)サンフィリッポ症候群B型の子どもが生まれる確率は、およそ21万1000分の1だ。

現時点では、米食品医薬品局(FDA)が承認したサンフィリッポ症候群の治療薬や治療法はないが、オニールによれば研究は進められており、望みはある。

オリビアの両親は、娘が診断を受けて以来、臨床試験実施に向けた資金集めに邁進している。2022年12月には、クラウドファンディング「ゴーファンドミー」でキャンペーンを立ち上げ、これまでに42万3000ドルほどを調達した。寄せられた資金は全額、「501(c)3」という公益非営利団体に渡されている。調達され、サイト手数料等を除いた資金はすべて、サンフィリッポ症候群に苦しむ子どもたちのための治療法開発という、急を要する取り組みに投じられているという。

母エリンは本誌に対してこう語った。「オリビアの弟リアムはいま1歳10か月だが、いずれは『オリビアのお兄ちゃん』という役割を果たすことになるだろう」

「オリビアは永遠の幼児になるのだから」
(翻訳:ガリレオ)


ルーシー・ノタラントニーオ(ライフスタイル担当)

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